チート転生したけど転生先はテラだった5

 爆弾は明らかに私を狙っていた。
 送り主は分からないが――心当たりと言えば国士会になるだろう。
 詩子の言う事が確かなら、国士会周辺でこの爆弾が確認されている。
 そして、その犯人は組長の息子の可能性があるという。

 勿論、明確な証拠などないし、詩子のカンでしかない。
 国士会の空気が変ったのが、組長が代わってからだと言うのと、そこで爆弾が使われたらしいと言うだけのことである。
 何も分からない。

 彼女が警察である以上、そんな突拍子もない仕事はできない。
 ならば私が動くしかない。
 別に彼女に何かを頼まれたわけではない。なんなら危険なことはするなと忠告する。
 でも、私がそれをしないではいられない。
 今度は爆弾が屋敷に届き、愛する部屋住みの子達が爆殺される可能性だってある。
 ならば危険に身を晒すのは会長の役目だ。

 国士会に会合を申し入れた。
 表向きは例の地上げ屋の一件である。
 もしも国士会が私を殺したがっているのであれば、ここで私を狙わない筈がない。
 そして、その組長なりその息子なりが犯人ならば、自分たちの幹部が何人か死のうと知った事ではないだろう。

 会合の申し入れは受諾された。
 日程を調整して、本部長を行かせるとの連絡が来た。
 国士会の本部長は、組長とは上手く行っていないと言う情報もある。囮には最高というわけである。

 私と若頭代理の二人で迎える。
 サルカズの本部長と、同じくサルカズのボディガードが部屋に入る。
 ボディーガードが大きなボストンバッグを持って入ってくる。小柄な女性なら入りそうな大きさだ。
 国士会の他の組員は隣に詰めている。何かあれば彼等と乱闘が起こるだろう。

 問題のバッグからは、あの爆弾で感じた奇妙な回路の雰囲気を感じる。
 意識を集中して回路を破壊する。

 回路の破壊には、おあつらえ向きの練習台があった――送りつけられた方の爆弾だ。何をすると反応するかを少しずつ確かめた。電子回路に明るくないが、トランジスタらしいもののいい破壊方法を会得したのだ。

 緊張の一瞬、私は信号が通らないのを確認する。
 私の強張った顔を見て、相手の本部長は「いい面構えしてるじゃねぇか」と褒めてくれる一幕もある。
 そんなつもりではないのだけどね。

 集中はなお続く。
 今度は、爆弾をどうやって起爆させるつもりだったのかを確かめなければならない。
 雑談の場面で、若頭代理が問題のバッグのことに触れる。
「組長の御守りだとよ」
 本部長はやや嫌な顔をしている。組長から強いて持っていく様に言われたのだろうか?

 回路は破壊したものの、私のアーツで回路の様子を探ると、どうにも前とは違う回路なのが分かる。
 電子回路に関して簡単な話は聞いたが、あくまでも源石ベースの回路のことだ。「こんな複雑なものの動きなんか分かるかよ!」と心の中で叫んでいる。
 だけど、その瞬間「ピーン」という音が聞こえた――勿論、アーツで察知できる電波だ。
 それは結構強烈で、部屋の外から飛んで来ているのが分かる。

 私は自分のアーツで自分のスマホを操作して、部下に指示を出す。
「この方向で、これぐらいの距離から誰かが電波を出している」
 指示を受けた組員と舎弟頭が急行する。

 爆発しないことに焦っているのか、頻繁に"音"が聞こえる。
 そのまま頑張ってくれ!

 三分後、後ろに控えている私のボディガードが囁く――彼の無線も傍受できているから何を伝えたいのかは分かっている。

「本部長、懸案の事項はまた持ち帰ってから判断させて下さい。
 有意義な時間でした」
 話が急にぶった切られて、本部長は不機嫌な顔をしていたが、私が握手を求めると「よくもコータスの女がこんな仕事するよ」と手を握り返してきた。

 本部長は若頭代理の見送りをし、私は部屋に残った。
 本部長と入れ替わりに"犯人"が連れて来られる。
「こいつか……」
 その男は小柄なコータスで、見た感じ実に気の弱そうな感じであった。
 怖い連中に脅されたのもあるだろう。

 白い耳、赤い目。
「私と似ているね」
 そう言うと、何処となく嫌な顔をしていた。

「あなた……異世界って信じる?」
 私の問いかけに、男は見るからに動揺した。
 私が「ふーん」と言った所で、組員の一人が飛び込んでくる。
「そいつ、組長の倅です!」

 彼の尋問は後回しにした。
 それよりも彼のスマホの方が大切だと思ったからだ。
 私は電子機器を"感覚"で操作できる。アーツとあと"何か"のお陰だ。
 まるでサイバーパンクのようである。
 電子の海を泳ぎ、彼のスマホを踏み台にして、様々な情報を奪っていく。
 奪えるモノは全部だ。
 財政、構成員なんて情報から、裏の人脈やその通信ログなどが信じられない勢いで手に入る。
 私達のサーバも全開で動いている。
 少しでも多く……

 何処かで察知されたのだろう。
 突然通信が途絶した。
 サーバ類の電源を落としたのだろう。
 ネットワーク経由で落とした情報が消されるのはマズイ。
 すぐに私達のストレージをオフラインにした。

 さて、情報の分析はあとからにしよう。
 彼を尋問しなければならない。

 "彼"は森山拳悟――全く名前負けしそうなひょろっとした男だ。
「君のアーツは何? 爆弾を作る事?」
 彼は回答に困っていた。
「もし話したら、俺を別の国に逃がしてくれよ」
「それは貴方の答え次第ね? この分なら、貴方国士会の組長よ。なりたくないの?」
 かつての自分も会長なんて嫌がってたそうだから、他の組員は苦笑している。
「ヤクザなんてやりたくないし、これ以上人を殺したくない」

 彼の証言によると、ある日、異世界の知識を知ってしまったという。
 そして彼のアーツは、物質を純粋にする事と微細加工を行える事らしい。
 彼の"知識"に目を付けた父親は、その力を使って一気に国士会をのし上がっていったらしい。
 その父親こそ、国士会の組長らしい。
「確か貴方の所の組長って、サルカズよね? サルカズとのハーフなの?」
 私が訊ねると、「組長は育ての親です。何処かの裕福な家の妾の子だったんですよ。その家の正妻に子供が出来たから追い出されたらしいんですよね」と言いにくい事を話してくれた。
「ごめんなさいね……つらい事聞いちゃって」
 私が言うと、「そう思うなら助けてください」と真剣な目で懇願された。

 さて、同時並行で国士会から息子を帰すように催促される事になる。
 雰囲気としては戦争もやむなしと言う剣幕で、普通に考えるならコレは大人しく返すべきだろう。

「会長!」
 尋問が終わり、会長室へと戻ると幹部の面々が怖い顔をしている。
「分かってる! だが待って欲しい」
「会長、暢気なこと言ってる場合じゃないですよ! 今晩に返さないとロケラン打ち込むって言ってるぐらいですよ!」

 議論が白熱しそうなその瞬間、詩子が飛び込んできた。
「みお! 一体何やってるの!?」
 凄い剣幕である。
「詩子、頼んでたもの持って来てくれた?」
 私が何気なく聞くと、彼女もヒートアップする。
「はぁ? 信頼できる分析官って、一体、何をするつもり? 偽装する暇もないから、事が事なら私の命も危ないんだけど!」
「詩子……守ってくれるって約束は嘘だったの?」
 私が色っぽく訊ねると「そういうのずるい!」と地団駄を踏んでいる。

 国士会とのやりとりは、事務局長がのらりくらりとやっている。向こうからの罵声がこちらにも響いている。
 それを涼しい顔でやってのける。肝の据わった女だ。

 私は那古市の守護人奉行に電話をした。
「お奉行に連絡を頼むわ。
 国士会の所の倅、返して欲しかったら指定の場所に一人で来なさい。
 場所はホテルグランドナゴの屋上。
 私だって、伊達や酔狂で電話してるんじゃないのよ。
 じゃぁ、明日ね」

 私の連絡に詩子は顔を真っ青にする。
「あんた、何の確証があって!?」
「確証は貴方が見つけるのよ?」

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