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【シャルケ】悪夢の2020-21シーズンを振り返る

1904年に創設されたFC Schalke 04はUEFAカップ優勝、ポカール優勝5回、ブンデスリーガ優勝こそ無いものの準優勝7回、ドイツの名門クラブと言って差し支えないだろう。
私は内田篤人の加入をきっかけにシャルケを応援し始めたのだが、当時のシャルケは欧州カップ戦の常連でまさかこのクラブが降格するなんて夢にも思っていなかった。

このシーズンにシャルケは2部リーグに降格することになるのだが、この時シャルケに何が起きていたのか振り返っていきたい。

悪夢の序章

その前に前シーズンについて軽く触れておこう。
2019-20シーズンは就任1年目のデイヴィッド・ワグナーが開幕から好調な滑り出しを見せ、前半戦を5位で折り返しチャンピオンズリーグ出場権も視野に入っていた。しかし後半戦に入ると第18節BMG戦を最後に白星から遠ざかり、なんと16試合未勝利のままシーズンを終えてしまう。最終的に順位を12位まで落とす失速劇となった。

開幕戦、歴史的大敗

前シーズンの後半戦を1勝6分10敗で終え、まともな攻撃を構築することができず修正力もないワグナー監督に対してサポーターからの信頼は失われていた。しかしクラブはこの指揮官を解任することはなく新シーズンに臨むことを決断する。
主力のアリ、セルダー、カバク、ナスタシッチらを残留させ何とか体裁は整えたものの目立った補強は行わなかった。プレシーズンから3部リーグ相当のSC Verlに4-5、5部リーグ相当のKFC Uerdingenに1-3で敗れるなど改善は見られず、不安を抱えたまま開幕を迎えることになる。

例年より約1カ月遅い9月18日に開幕したこの年のブンデスリーガ。
開幕戦の相手は前シーズンブデス、ポカール、チャンピオンズリーグの3冠を達成したハンジ・フリック率いる絶対王者バイエルン・ミュンヘン。このチーム状態が対照的な両者の対戦はスコアにそのまま表れた。

ニャブリにハットトリックを許し、この年ブンデスに帰ってきたシャルケの下部組織出身ザネにも得点を奪われるなど為す術なく、8-0の歴史的大敗で泥沼のシーズンは幕を開けた。


ワグナー監督解任

サポーターからはワグナー監督の采配に対して批判の声が多く上がっていたものの、スポーツディレクターを務めるシュナイダーは開幕前からこの監督の支持を口にしてきた。
しかし、第2節ブレーメン戦に1-3で敗れると状況は一変する。

財政難から解任する費用を節約し現体制のまま状況を好転させることを期待したクラブだったが、開幕からわずか2試合での解任は結果的に新シーズンに向けた準備期間を無駄にする形になり、後手後手な対応で傷口を広げることとなった。

不協和音

新監督にドイツU-18の監督を務めていたマヌエル・バウム監督を迎え入れ、アシスタントコーチには2019年までシャルケでプレーしキャプテンも務めたナウドを招聘しチームの建て直しを図った。

初陣となったライプツィヒ戦に0-4で敗れると、5節のレヴィアダービーでも一方的に押し込まれる形となり0-3の敗戦。
早い時間に失点を喫するとチーム全体が下を向き、気持ちの切れた終盤に立て続けに失点を許すのがお決まりの展開となっていた。

11月25日、テクニカルディレクターのレシュケの退団を発表。シュナイダーSDと度々意見の食い違いがあったとされ、前任監督の進退についても考えが一致せず関係が壊れた。また今夏シャルケに加入していたイビシェビッチだったがアシスタントコーチのナウドと練習中に口論になり年内で契約解消となる。さらに前の試合で交代を命じた監督に不満を露わにしたアリと規律違反のベンタレブをトップチームから除外すると発表した。(後にこの2人はチームに復帰)
最下位に沈むシャルケはピッチ内外でゴタゴタが続き、ロッカールームの雰囲気が良いものでないことは火を見るより明らかだった。

見えない出口

この頃になるとタスマニア・ベルリンの持つ31試合連続未勝利というブンデスワースト記録の更新も話題になり始める。

12月13日の第11節アウクスブルク戦、連続未勝利が26まで伸びたシャルケに千載一遇のチャンスが訪れる。試合はシャルケのオウンゴールで先制を許し0-1で前半を折り返す。後半に入ると52分、相手のバックパスがズレたところを掻っ攫ったラマンがGKとの1対1を制し同点に追い付く。その1分後、アウクスブルクのニーダーレヒナーがこの日2枚目のイエローカードで退場。数的優位となったシャルケは61分、右サイドのセルダーの折り返しにブジェラブが合わせて逆転に成功。遂に長い長い長いトンネルの出口が見え始めた。
スコアは2-1でシャルケリードのまま90分が経過。残すはアディショナルタイムのみ。祈るような気持ちで試合を見ていた。


90+3分 同点ゴールを許す。

喜びを爆発させるアウクスブルクの選手。呆然と立ち尽くすシャルケの選手。この時ばかりはこの先もう一生勝てないんじゃないかと本気で思った。

続くフライブルク戦に敗れるとクラブはバウム監督の解任を決断。ワグナー監督末期に比べると内容の改善は見られたものの10戦指揮して4分6敗の成績だった。年内の試合はフーブ・ステフェンスが暫定監督を務めることになった。シャルケを指揮するのはこれで4度目。有難いやら申し訳ないやら困った時のステフェンス頼みの発動である。

年内最後の試合にも敗れたシャルケは2020年のリーグ戦1勝という悲惨な結果を残して終えた。

12月28日、シャルケは新監督に66歳のスイス人クリスティアン・グロース監督の就任を発表。

成功を知る2人の帰還

12月31日、シャルケはアーセナルからセアド・コラシナツをレンタルで獲得したと発表。シャルケの下部組織出身のコラシナツはトップチームに昇格すると男気溢れる見た目とプレースタイルで2017年まで主力としてプレー。3年半ぶりの古巣復帰である。

「またこのシャルケのユニフォームの袖を通せることを、喜びに思うし誇りを感じている。いまクラブはとても苦しい状況にあるけど、これからの数週間、数ヶ月に渡って自分の役割を果たし、できるだけ多くの勝ち点を積み重ねていきたい。そして共に1部残留を果たすよ、僕は100%その自信をもっている」

https://fussball.jp/schalke/2021/01/150581.html

さらには1月19日、アヤックスからクラース=ヤン・フンテラールの獲得を発表。2010年の加入から退団するまでの7年間で公式戦126ゴールを記録したシャルケのレジェンド的存在。このシーズン限りで引退を表明していたフンテラールだが、母国オランダのアヤックスでのタイトル獲得のチャンスを捨ててまで降格の危機に瀕する古巣の復帰にサポーターは歓喜した。

「シャルケは僕にとって、体の中に染み込んでいるクラブだ。決してそれが色あせることなどない。僕たちはとにかく勝利しないといけないし、そのためには得点を決めて下位から脱出しないといけない。それにぜひ貢献したい」

https://fussball.jp/schalke/2021/01/152086.html

コラシナツとフンテラール、このクラブの成功を知る2人の復帰でピッチ内の活性化はもちろん、自信を喪失し負け癖のついたシャルケのメンタリティに好影響を与えることを期待し後半戦の巻き返しを誓った。

救世主マシュー・ホッペ

FW陣に怪我人が相次いだことから、第9節BMG戦でセカンドチームのアメリカ人FWマシュー・ホッペをトップチームのスタメンに抜擢。しかしブンデスのプレースピードに慣れるには時間を要し、競り合いでもDFに当たり負けするなどなかなか力を発揮しきれずにいた。
連続未勝利が30となりタスマニア・ベルリンの持つリーグワースト記録にリーチがかかった1月9日の第15節ホッフェンハイム戦、3度目のスタメン出場となったこの男がシャルケを救う。

攻め込まれる時間が続くも無失点で迎えた42分、カウンターからアリのスルーパスを受けたホッペが左足でループ、見事ゴールに吸い込まれブンデスリーガ初ゴールでシャルケが先制。57分には中央アリのスルーパスにホッペが反応すると冷静にGKをかわしてシュート、2-0とする。さらに63分、またしてもアリのパスを受けたホッペがワンタッチで浮かせてドライアーパック達成。最後はこの日3アシストのアリがダメ押しの4点目を決めて勝負あり。19歳の新星の活躍により不名誉な記録更新を一歩手前で食い止めた。

2020年1月17日以来、実に約1年振りのリーグ戦勝利だった。

ブンデス初ゴールから一気にドライアーパック達成
救世主となったマシュー・ホッペ


4度目の監督交代

ようやく今シーズン初勝利を手にし降格圏を脱出したいシャルケだったが勢いは続かず3連敗。グロース監督の時代遅れな戦術に批判の声が強くなっていく。さらに選手の名前を間違える、誤った言葉遣いをする、トレーニングやリハビリの方法に問題があるとし一部選手が解任を要求したと報じられた。クラブはすぐさまこの報道を否定したが選手がグロース監督に不満を抱いていることは容易に想像できた。
ホッフェンハイム戦の勝利以降2分6敗、調子の上向く兆しが見えないシャルケは2月28日グロース監督やシュナイダーSDを含む計5名の解任を発表。

もはやこのクラブを指揮したい者などいない中、火中の栗を拾うこととなったのはディミトリオス・グラモジス。今シーズン5人目の監督となった。


30年ぶりの降格

降格というバッドエンドに突き進むシャルケにとって監督を変えたところで焼け石に水。28節アウクスブルクに勝利したものの3連敗を喫するなど状況が変わることは無く4月20日の第30節ビーレフェルト戦、遂にその時が来てしまう。

この試合に0-1で敗れたシャルケは30年ぶりの2部リーグ降格が決定。
ベッカーはベンチで涙を浮かべ、アサモアも涙ながらにこう語った。

「シャルケがいろんなことを経験し、ここに至るまでの流れを常に見てきた。もちろん何か奇跡が起きないか、最後まで期待していたつもりだ。だがそれが終わったと気付いたとき、あまりに残酷だと打ちひしがれている。
私がシャルカーになってから20年以上経過した。この間、このような瞬間が訪れるとは夢にも思っていなかった。言葉もないよ」

https://www.goal.com/jp/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/2bundesliga-schalke-202104212200/6o8j4e7bl32h1pz0u1jwjkz74

結局シャルケは第1節から最終節まで1度も降格圏を脱出することができず最下位を独走する形で悪夢の2020-21シーズンを終えた。

新型コロナウイルスの感染拡大により無観客での試合開催を余儀なくされたこのシーズン。スタジアムには悲鳴もブーイングも無いまま名門クラブは静かにトップリーグから姿を消した。

必然の結果

シャルケの降格はたった1年の不調が原因ではない。
シャルケで育った有望な選手を次々とフリーで放出。
欧州の舞台に立ち続けることを前提に投資、出場を逃すと苦しくなることは容易に想像が付くがシャルケは自転車操業的な経営を続けた。また新型コロナウイルスの影響でリーグ戦が中断したことによる放映権料及びスタジアム収入の減少。さらには長年シャルケの役員を務め融資を行ってきたテンニースの相次ぐ不祥事による退任。負債が2億ユーロ以上まで膨れ上がり身動きが取れなくなったシャルケの降格は”まさか”ではなく”必然”の結果と言わざるを得ない。

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