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藪開き

10㌶いう広大な敷地内にあるキャンプ場で働いている。年間1万人以上の宿泊者に加えて、テニスコートやグラウンド利用者、キャンプ場内にある登山口を利用する登山客、春と秋には場内を散策するために訪れる人々もいる。

仕事内容は多岐に渡る。受付での接客、サイト、バンガロー、コテージ、トイレ・炊事場(各3ヶ所)それぞれの掃除、場内の草刈り、水源地の管理、環境整備etc...。シ
ーズンオフには、バンガローやコテージテラスの防腐剤塗りを黙々とやったり。崖っぷちみたいなところで雑木を切ったり。何百メートルも続くドウダンツツジの植木を手入れしたり…。

いろんな仕事があるので、職人になったような錯覚に陥る。中でも楽しいと感じているのは「藪開き」と勝手に私が名付けた作業だ。広大なキャンプ場の敷地内には無数の遊歩道がかつてあった。私が働き始めた頃にはすでにその大部分が熊笹に埋もれ、道があったことすら分からないような状況だったのだけれど、秋になって木々が葉を落とし、下草も枯れてくると藪の中に何となく道らしきものが見えてきて、かつては遊歩道があったことがうかがえる。そんな場所を発見するたびにどことどうつながっているのか知りたくて、藪を切り開くことにしたのだ。これが藪開き。

熊笹が生い茂る中に分け入り、ただひたすら剪定鋏で根本に近いところをバシバシ切って束ねて道の傍に向きを揃えて積み上げていく。切り倒す笹の量も半端ないので、置く場所や積み重ね方も考えながらの作業だ。場所によって景観上置いておけないときは、軽トラに山積みにして別の場所へ運ぶ。こんな作業を繰り返すうち、道が開けていく爽快感がたまらなく好きだ。好きすぎて、冬の休みの間にも趣味で藪開きをしに行くほど。ただ無心になって笹を切るだけで、わずか数時間でも切り拓いた達成感を味わえるので、何かに行き詰まって悩んでいるひとにはぜひおすすめしたい作業だ。

先人たちが切り拓いた道を埋もれさせるのはもったいない、という思いと、この道がどこにつなかっているかを知りたい、というただの私的好奇心が土台になっているので、自己満足の仕事かもしれない。なので、無数にある仕事の中で優先順位は低く、秋も終わりごろの客足が途絶えつつある暇な時期にしかできない。熊笹の生命力はすごいもので、切っても切っても春には次の芽が出て伸びる、伸びる。何年か繰り返すうちに地下茎が枯れていくらしいけど、そのイタチごっこに追いつかないくらいの勢いだ。

ビフォー

藪開きはたいてい写真でビフォーアフターを撮っておくのだけれど、世の中に溢れる映え写真にはならない。藪を切り拓いた達成感のもとでアフターの写真を撮っているのに、あとから見返すと自分でもなんの写真を撮ったのか分からないことが多い。
上と下の写真、お分かりいただけるだろうか?

アフター

こんな地道な作業を、田舎で暮らす人々は誰に褒められるわけでもなく、気づかれすらせず、ただ黙々と日常生活の中で当たり前のようにこなしている。そういう見えないところの努力が、里山の景観を作っているんだろうなぁ、と藪を開きながら思う。

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