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西尾維新&岩崎優次『暗号学園のいろは 3』雑感

「ご指導ご鞭撻のほどお願いします
 どうかボクに教えてください
 暗号学園のいろはを。」

(第二十二号『暗号は常に初陣である』より)


第十七号『下手な戦争休むに似たり』


 第三回学級兵長選抜試験・兵棋演習『暗号学園殺人事件』匿名希望の驚愕の反則プレイにより幕を閉じた。
 そして本日は、一学期に一度のun暗号デー
 1年A組の生徒達でレクリエーションを提案し合う中、予選を勝ち上がった学級兵長候補のひとり・要塞村鹵獲(ようさいむら ろかく)の鶴の一声で、皆でバウムクーヘンを作ることが決まり……?

 
 濃度の高い暗号バトルが続いた中でということもあり、読者としても、いろはとしても息抜きが欲しかった……そんなタイミングで差し込まれる、束の間の休息。
 一目で限界が近かったんだなとわかる、いろはの喜び様が切実だ……(学園の内情も知らず入学して、ずっと暗号を解かされ続けりゃああなるのも無理はない)。

 今後に学級兵長を決定する勝負を控える中(既に多数の敗退者が決まった後での)、皆で協力してバウムクーヘンを作るという、匿名希望さんあたりからしてみれば、何を平和ボケしとるんやといった感じの導入なんだけど(事実、彼女ひとりだけ不参加を決め込んでいる)、そもそもこれまで試験を争ってきた1-Aの皆はクラスメイトであり、それぞれに異なる戦略(ゆめ)や事情を抱えながらも、戦争という現実に立ち向かう同志でもある。
 それを誰よりも理解しているのが、要塞村鹵獲という少女なのだろう。

 昨日の敵は今日の友。
 明日の敵も、明後日には。

 これまで焦点が当たってこなかった要塞村さんの掘り下げを中心に据えながら、その上でバウムクーヘン作りの行程においても、各キャラの個性が表われる。
 『三腕樹懶の絶句働き』を農作業でも発揮する縁ちゃんこと絣縁沙(当たり前のようにいろはと一緒にいる仲の良さよ)。
 クラスで唯一の貴族階級でありながら当然のように仲間達と仕事に取り組む濃姫家雪
 アクション担当の真蟲犇蝌蚪朧そぼろ羊狼川食穂(濃姫派の中で羊狼川さんだけ別班になっている)。
 そして豪快に巣蜜を運んでくる東洲斎派東洲斎享楽徐綿菓子夕方多夕)。
 などなど──個人的には鳥仲間の雁音嚇音海燕寸暇の2人がどんなやりとりをしていたのかが気になるぜ。

 そんな前半の賑やかさとのコントラストが光る、後半の静けさ。
 平和への祈り。

 おおよそ一話に一回ペースで、幾度となく見開きの画面で魅せてきた本作だけども、火を囲んでクラスメイト一同でバウムクーヘンを食べるp22〜23の一枚画は、これまでとはまた違ったエモーショナルさがあって、心に込み上げてくるものがあった。
 各々がいつもつるんでいる面子と少し異なるクラスメイトと共に居るところがまたいい。

 そんな感じで過去16話までとは異彩を放つ本話だったけれど(怒涛のバウムクーヘン雑学的な意味でも)、ラストに洞ヶ峠凍の口から開戦の予告が行われる形で、次話に続く。

https://x.com/pg_tf6/status/1640295197459505154?s=46&t=BwAIPbO26VWS4PhxtyqsYA


第十八号『兵は記号なり』

 
 学級兵長試験もいよいよ決勝戦。その題目は、全53枚の暗号カードで構成される、インディアンポーカーを下敷きとした『筒抜(ツーカー)ポーカー』
 教室内にてクラスメイト全員が見守る中──事前の決戦投票で獲得した票数をそれぞれの所持チップとして、予選を勝ち上がってきたいろは東洲斎要塞村匿名希望の4人が盤上に向かい合う……!


 始めに匿名希望と何らかの接点を持つ7人の談話──反則で兵棋演習を勝ち上がってきた彼女だが、素の実力も凄まじいという話。
 真蟲犇蝌蚪(まむしひしめき おたまじゃくし)さんは最序盤の兵長選抜試験で匿名希望さんをパートナーに選択していたけれど、あれは彼女なりに不審に感じて探りを入れていたということだろうか。それとも単純に実力を買ったとか?
 そして匿名希望さんの眼鏡兵器の詳細が判明。凍が提供した『個人情報縫合法(パーソナルパッケージ)』。目線のみならずあらゆる個人情報を防御する。だからそういう名前なのか?
(漫画表現めいたそのビジュアルも含めて、『症年症女』を連想させられるな……)

 各生徒が学級兵長に相応しいと思う、決勝ラウンド出場者の内の3人に投票する決選投票。
 いろはは3位の匿名希望を大きく下回る最下……クリンナップだったのだけど(大多数に一番実力が劣ると判断されたと捉えるのが妥当だろう──もしやun暗号デーでの奇妙なリアクションで株を落としたなんてことは……)、そんな中で彼に票を投じた5人に、これまでのストーリーを感じられるのがいい。
 『席替えテトロミノ』で縁が生まれた絣縁沙『頭脳破壊の四重奏』で敵対からの共闘という流れを辿った朧そぼろ海燕寸暇、幕間の一件などでいろはを支持するに至った濃姫家雪、それから兵棋演習『暗号学園殺人事件』で対決した小芝井躾
 この中だと小芝井さんの票に意外性があるけれど、楽しむことを何より重要視する彼女的には、何でもありの匿名希望とは反りが合わないということなのかもしれない。
 それから濃姫派が全員、敵対勢力である東洲斎さんに票を投じているのも興味深い。直接反則で負かされた匿名希望にも入れているあたり、全員が実力主義ということか。一方で濃姫さん本人は……多分東洲斎さんに入れなかった2人の内1人なんだろうなと薄々感じられる。……彼女を逆境に貶めて愉しんでいるとか?

 そして競技開始。
 ポーカーというゲームは原作者の過去作でも登場しているのだけど、なんと私はここに至るまでルールも用語もろくに知らなかったので、ネットで軽く調べながら読んでいたりした(凍の解説がいつも以上にありがたかった)。

 各カードには数字(1〜13とジョーカー)とスート(♤スペード、♡ハート、♢ダイヤ、♧クローバー)があり、これらが全て、絵や文字から成る暗号で示されている。解読と心理戦。
 桃2つの絵だから形的に♤の2かなとか、『left chest』……左胸? 『見れる』……見れる? I see? 『母倉』……乱数籤? とか、少しずつ考えながら読み進める(要するにほぼ全部わからん)。

 得票数(=チップ数)断トツ最下位という土俵際に立たされたいろはが、初回から攻めに出る──匿名希望の先手に大胆に応じ、啖呵を切る。
「ポーカーフェイスが得意なの? 匿名希望さん
 ボクは笑顔がいろはのいだよ
 逆境からの 逆転劇では 逆に!」
 ここで笑顔というワードが出るのが、現在モニター越しに戦況を見つめる凍との友情を感じられて、非常に熱い。
(第一話より「暗号は笑顔で解かなきゃ駄目だよ〜!」)
 凍は凍で「もちろん俺はいろはを愛してるぜ 学級兵長になれなくてもな」などと発言している。重めの愛とも取れる一方で、傍点が不穏だ。

第十九号『疾解きすること風の如く徐かなること速しの如く侵掠すること飛の空爆停まらざること鬼蜻蜓の如し』


 『筒抜ポーカー』開幕!
 開始早々、とんでもない速度で3票を蔑賭(ベット)する匿名希望に対して、後がないいろはは手持ち5票の全賭け(オールイン)で迎え撃つ……!
 しかしそんないろはの宣言を要塞村が制止にかかり……?


 要塞村鹵獲東洲斎享楽の格好良さが炸裂する回。

 前半は要塞村さんのターン。
 匿名希望が何でもありの反則なら、要塞村さんはそれに対をなすかのように公正
 満票も納得の人徳──一癖も二癖もある人物が集うこの学園だけど、こうして決勝に勝ち上がってくるのが、人の上に立つのに相応しい真っ当な実力者というのは、何とも救われる事実である(まあ癖の塊のような匿名希望も勝ち上がってきているけれども)。
 ただ単に真正面から敵に挑むというだけではなく、場の全員を出し抜くクレバーさも併せ持っているのがなお素晴らしい。
 ……それにしても、やや男性的なルックスから、満面の笑みと共に繰り出される「そんじゃ私もフォルド! 第1戦はいろはくんのハッタリ勝ちだあ!」はかわいすぎませんか?

 そしてそんな彼女に火をつけられる(ケツに?)形で後半大暴れする東洲斎さん。
 思考が、そして決断が早い。

「そう言えば忘れていたわ
 ケツに殻のついた雛共に 【言論弾圧】 
 悪役令嬢の本気を見せてあげるのを。」

「私がそれを学ばないと思った? 陰で努力するのは主人公だけだと? ご主人様?」

 ……「悪役令嬢を自称する」「自分は(いろはと違って)主人公タイプではない」という自認・自己評価の彼女だが、反省して学ぶという自身の強みを存分に発揮していく。いろはの正解への嗅覚まで模倣するのは努力や反省なんて域を遥かに超越している気がするけれども。いろはのいじゃないよお嬢様!

 東洲斎享楽と言えば、第一話でいろはが初めて暗号バトルをした相手であり、始めは凍をめぐっての敵対関係だったのが、共闘もあって現在は友達という関係……縁ちゃんのように仲良しという感じではなく、一定の距離感はあるのだけど、それでも仲間・味方と言える存在である。そんな彼女が、こうして作中最強格のポジションを維持しているのは熱いところだ。
(ところで、先述の通りポーカーの用語に明るくないので、東洲斎さんのブタ連呼には別の意味でゾクっとしたというのは、ここだけの話だ)

 改めて思うところであるが、この作品、かっこいい女子の宝庫である。

第二十号『戦陣の解には詐欺を厭わず』


 膠着状態が続いたゲームは第8戦、東洲斎享楽の蔑賭(ベット)により長きにわたる均衡が破られる。
 立て直したいいろはは、ふと東洲斎の手持ちカードから、見知った何かを感じ取り……?

 本話にて牡丹山春霧(ぼたやま はるきり)羊狼川食穂(ようろうかわ しょくほ)母倉乱数籤(ははくら らんすろっと)膾商(なます あきな)の自己紹介クロスワードが公開される。
 十八話の匿名希望、十九話の要塞村鹵獲に続く形になるのだが、一見意図が読めない選出だ。一応羊狼川さんに関してはディーラーとしてゲームに関わってはいるが。
 何気に第五話からの謎であった神絵師の正体が母倉乱数籤だと判明していたり、膾さんのページで彼女と一緒にいる高齢の女性が第一話で教壇に立っていた国語の教師などという小ネタが散見される。
 
 本編は要塞村さんと東洲斎さんが存在感を発揮していた前話から一転、匿名希望が本格的に牙をむく──お得意の何でもありで。
 ……とは言え、彼女の言い分は間違っていないし、要塞村さんもあくまで「ルールの裏をかく」という認識(彼女達の想定の範囲内の行為)。やってること自体はいろはが席替えテトロミノで縁ちゃんを指名したのとあんまり変わらないと思う。てか肉枝教官、結構生徒にルールの穴を突かれがちだな……意図的にその余地を残しているのかもしれないが。

 大まかな話の流れとしては、かつての暗号バトルの後遺症からトラウマを発症したいろはが(あの人が負わせた傷は、想像以上に深刻な事態だった……)致命的なミスを犯してしまい、しかしかつて鎬を削った強敵(とも)の声をきっかけに、再び前を向いて強大な敵に立ち向かうという王道ど真ん中な物語展開。
 特に要塞村さんは無限に株を上げるというか、一番悔しい中で真っ先にあんな言葉を掛けられるのは人間が出来すぎている。

 そしてここでいろはがまさかの眼鏡兵器を返上する。
 この話までに本作で登場した暗号は23問で(合計20話で23問って凄いペースだ)、そのうち彼が眼鏡を使用して解読したのはQ.01 Q.02 Q.04 Q.12の4問。振り返ってみるとあまり出番がなかったけれども……著しい成長速度である。使用者を暗号兵器に即成するのが最もチートな点と凍は述べていたが……。
 公正発言、返上宣言のときの要塞村さんの嬉しそうな表情と、東洲斎さんの虚をつかれたような(きょらりんだけに?)表情が印象的。
 先程まで対決していた2人のエールを受け、マインドを受け継ぎ、最後の敵に挑む。お決まりの『解凍編(アイシーコールドリーディング)』を、眼鏡なしで発動させて。熱いぜいろは。
(しかし匿名さん的には完全アウェイだな……)

第二十一号『一将暗号なりて万骨枯れる』


 『筒抜ポーカー』はいよいよ最終局面。
 所持チップ数5vs40という土壇場の状況から、いろはは匿名希望とのタイマンを制し、学級兵長の座を獲得することができるのか……!?

 まずは何と言っても、明かされた暗号カードの正体が圧巻としか言いようがない。
 決勝を戦う4人ディーラーの1人を除いた、クラスメイト14人による総動員……ピッタリはまった、完璧過ぎる配置である。
 ひとりひとりの暗号にも個性が表れている──解かせる気がないだろと言いたくなる小芝井さんやいじわる問題気味な目々蓮さん。逆に朧さんが比較的易しめなのもギャップがあっていい。
 母倉さんが神絵師という前話の解禁情報もここに繋がってくる……描かれた人物の出席番号がカードの数字にあたるんじゃないかと自分は推測していました(それだと要塞村さんの数字がない)。
 それから濃姫さんが動物好きというのも十七話で触れられていた……萌えイラストの騎士に対する写実の貴族階級。

 とにかく、クラスのリーダーとも言える学級兵長を決める試験において、これ以上なくとてもあざやかな出題である。
 この筒抜ポーカーというゲーム、表情の読み合いという側面においては兵器で素顔を隠す匿名希望が圧倒的に有利な一方で、暗号の解読に関してはクラスメイトと殆ど関わってこなかった彼女が一番不利と、結果的に丁度良いバランスで成り立っているという……。
 作中では触れられていないけれど、いろはのみならず、要塞村さんと東洲斎さんも出題者については推測できていただろうし(特に東洲斎さんは徐さん、夕方さん、濃姫さんの筆と画を一目見ることで逆算して試験のコンセプトを読み解けるだろう……第十九話での疾解きはだからこそと言えるか)。

 クラスメイト全員の表情を見ることで、全暗号を解読するという離れ業をやってのけるいろは。
 表情を読むのが得意という、過去(第七話、第八話とか。それから第十八話でいろはに投票した5人が明かされるシーンも、メタ演出ではなくいろはが表情を読み取ったという伏線だったのかなとも)にさりげなく示されてきた特技がここで大きな決め手となるカタルシス……しかし、決してこのまま押し切ることを良しとせず、最後にはちゃんと対戦相手である匿名希望と向き合って決着をつけるというのが何とも彼らしい。常に人と向き合い続けるのが、いろは坂いろはという少年の最大の強み、あるいはいろはのいである。
(兵棋演習のときに「まだ交流のないあなた達四人にボクを知ってもらった方がいいかな〜って…」などと発言して逆に四人の闘志に火をつけてしまうというエピソードもあったが)

 いろはによって(二重の意味で)素顔が引き出される匿名希望。
 顔を隠したキャラクターの素顔が美形というのはベタな設定ではあるけれど、実際にお出しされた彼女のそれはそこんじょこらのものじゃなかったというか、ちょっと一世を風靡するレベルの美少女であった。作画の超パワー。

「…なるほど そういう生き方やから生き残って来たわけや これまでの人生を」
 匿名希望のこの台詞は、第十六話での「ちゅーかどないして生き残ってきてんこれまでの人生を」という自身の過去の発言に掛かっている。……何というか、壮絶なサバイバルを送ってきた者の言葉だよなと。彼女が学級兵長を志すのは自分自身が「生き残る」ためなんだろうけれど……その内彼女の過去も作中で語られるのだろうか。

 決戦前からバトル終盤までは色々と不穏な空気が漂っていたものの、最後には2人でゲームを心から楽しむような形で締め括られ、その爽やかな幕引きは、世界中の戦争を全部なくすといういろはの戦略(ゆめ)がほんの少しでも現実に近付く紛れもない一歩だったと言えるだろう。
 まさしく神回でした。

第二十二号『暗号は常に初陣である』


 陽が差し込む屋上にてただひとり、静かにブレイクダンスを踊るいろは。
 そんな彼のもとに、『筒抜ポーカー』で争った東洲斎享楽要塞村鹵獲匿名希望の3人が姿を現す。
 東洲斎の手にあるのは、いろはが学園に提出した退学届だった……。

 いろはの退学という衝撃的な導入に始まり、過去回想、叙情的な話運びからのタイトル回収、とどめに巻末での原作者による区切りのお礼コメントと、最終回ではないかと本誌読者を戦慄させた伝説の回
 実際はそんなことはなく、単にひとつの章の締めだったわけだが──原作者の西尾維新さんは最終回が好きと公言していて、同じ漫画原作の『めだかボックス』についても、何回も最終回を描いた漫画であると述べている(『大斬 小噺』にて)。
 大人の事情で仮にこのタイミングで完結を命じられたとしても綺麗に締められるように、ということでもあるのだろうけれど。

 匿名希望(素の彼女は相変わらず美少女過ぎて目の毒だ)のふとした疑問から明かされる、いろはの中学時代のエピソード。
 いろはのトラウマを抉った暗号バトル『失言半減質疑応答』で断片的な情報は明かされていたけれど、まあ……ちょっと……うん……。
 暴力や人数差の渦中にいて、人の死9回立ち会い、親友はいなくなり、
 尊厳破壊地雷で、そして世界の戦争を全部なくすという戦略(ゆめ)を抱き──

 退学の理由を述べたいろはに対し、(公式文書とは認められないからと)退学届を破り捨て、逆に正式な文書を突き出す東洲斎さん達。
 それは奇しくも第一話の問題と重なる、この中の誰かを示す暗号文
 東洲斎さんの暗号に至っては、人物名の仄めかしかたがあのときと同じという……。
(ちなみにこの場面で要塞村さんと匿名希望が暗号を出したことで、現時点において羊狼川食穂ただひとりを除き1年A組の全員が作中で暗号を出題したことになった)
(ちなみにその2。退学しようとするいろはに仲間達がメッセージを送るというシチュエーションは、『めだかボックス』の百輪走を連想させられた。本作の最終章では、本当に退学するいろはに対し、学園の皆が思いを暗号で伝えるなんて展開になったりして……)

「言うまでもなくこのクラスでボクが一番弱い
 そんなボクが先頭に立って
 あなた達の盾となれることを光栄に思う」

 3人の思いを受け取ったいろはが、学級兵長として、教室前で行った所信表明
 西尾維新作品で人の上に立つ者と言えば、たとえば『めだかボックス』の黒神めだか──自身の対立意見を尊重し、清濁併せ呑む生き様で敵対者すら魅了する生徒会長──だったり、またたとえば『美少年』シリーズの双頭院学──自身は学も力も持たない小五郎でありながら、仲間の心を解し、その美学でチームを美しくまとめ上げる団長──だったりと、いずれも非常に魅力的であるのだけど、いろはもまた、彼女達に見劣りしない良いリーダーになるんだろうな……。
 そう思える、素敵な演説だった。
 凄惨な現実を目の当たりにしてなお、綺麗事の実現を夢見る少年の、更なる躍進が楽しみで仕方ない。

 そして最後に、各クラスの学級兵長が揃い踏みという、少年漫画らしいワクワクする引き。

 1年B組学級兵長 陸繋島とんぼ(りくけいとう -)
 1年C組学級兵長 夜鳴鶯アンヴァリッド(よなきうぐいす -)
 1年D組学級兵長 柘榴口接吻(ざくろぐち せっぷん)
 1年E組学級兵長 縊梨慕(くびなし したい)
 1年F組学級兵長 儚石楠花(はかなげ しゃくなげ)
 キャラデザもネーミングもA組の面々に劣らない、というかむしろ一段ギアが上がったかのような異様さとスタイリッシュさである。
 ネーミングに関しては、夜鳴鶯アンヴァリッドが個人的イチ押し。共に医療関連を想起させるワードを苗字と名前に仕立て上げ、一目でインパクトがあると共にとんでもなく語感が良いという、数ある西尾維新ネーミングの中でもトップクラスの名前だと思う。
 ……真蟲犇蝌蚪と言い、私はこういうタイプの語感が好きなのかもしれない。

第二十三号『戦争多くして軍艦金山に登る』


 過去のわだかまりを払拭するため、いろはと徐綿菓子は、二度目のダンスで決着をつけることに。
 無事打ち解け合った2人の、背後を取るように現れた1年E組学級兵長縊梨慕。かつての徐を知るらしき彼女は、いろはに対し挨拶代わりの暗号を差し出し……?

 冒頭にて勉強会をするいろは要塞村さん雁音さん真蟲犇蝌蚪さんの図。他3人がいろはの勉強に付き合っている形だろうか。A組の中でもとりわけ真面目そうな集まりである。

 いろはについ憎まれ口を叩いてしまいながらも内心では謝りたいと思っている徐さんの性格の良さと、本人の中では既に謝ったことになっている夕方さんの良い性格。
 初期のイキった言動(by夕方さん)は笑う。たしかに序盤の徐さんはめちゃ怖かったけれども。前話でのいろはの過去を知った後に最初から読み返すと、東洲斎派の言動には非常にひやひやさせられるものがある──徐さんが謝ったわけである。

 ダンスを通じて爽やかに和解──そしてこのタイミングでようやく明かされる、Q.05の暗号の真相。
 M組のメタバース、デジタル暗号学園へと繋がるパスワード(のひとつ)。
「まどろっこしいがそーすりゃ案内できるんだ
 俺の属するM組を含む 暗号学園の深淵に」

 とは第二話の凍の台詞だが、いろはが彼女に言われた通り無事学級兵長に就任したことで、改めて初期に言及されていた本筋に帰ってきた感じだ。

 そうこうして話し込む2人の前に、縊梨慕が割って入る。
 一目でわかる、ただならぬ存在感。殺気を放つ、画の迫力。
 そして前話での宣言通り、クラスメイトのとなるべく構えるいろは。

 徐さんと同じく、男子に対する当たりがキツめな縊梨慕。
 東洲斎さんも第十三話で「男子様が怒ってくれたと〜」と悪態をついていたけれど、この辺りは個人間の事情として何かあったのか、それとも世界観レベルの問題なのかが気になるところである。
 丁度このタイミングで暗号学園の男子は寮で全員同室というハードな環境が明かされたわけだが……夕方さんと縊梨慕が同情するという。
 ここまで作中で気配すらない、いろは以外の男子生徒だが、自分としては彼らが登場するのは、原作者書き下ろしのノベライズが刊行されたときなんじゃないかなと勝手に予想している(小説版『めだかボックス』で教師が初登場したみたいに)。

第二十四号『三読同盟』


 同じA組に所属する沼田場愁嘆(ぬたば しゅうたん)と共に歩いていた東洲斎享楽は、自身を尾行する不穏な影を察知する。
 影の正体──1年C組学級兵長夜鳴鶯アンヴァリッドを名乗る彼女は、いろはが使用していた最新型の眼鏡兵器の現在の所有者である東洲斎に対し、学級兵長講和会議の招待状を手渡し……?

 一触即発という前話ラストの引きだったのだけど、単純に夜鳴鶯さんが招待状を渡すのが目的だったという平和なオチから開幕する。
 これが仮に本作とは別の学園異能インフレ言語バトル漫画だったなら、肉弾戦に発展し片方が廊下にめり込んでいる場面から本話が始まっているところだったが、暗号学園において暴力行為はあり得ない。
 何気に旧知の間柄っぽい東洲斎さんと沼田場さん。お互いを「きょらりん」「しゅーたん」と呼んでいる……沼田場さんは第二話で暗号学園に入学した動機として、友達に誘われたからと語っていたが……?

 そしていろはと凍が第九話以来となる久しぶりの再会を遂げる──待ち合わせは例によって暗号で。
 いろはの兵長就任を盛大に祝う凍に対し、ある疑問をぶつけるいろは。

「まとめるとウチのクラス
 3分の1以上が眼鏡兵器使いだったんだけど
 本当のところ誰が凍の本命だったの?」
 それはまるで恋人の浮気を問い詰めるかのごとき、凍えるような笑顔で。
 冷や汗をかく凍。黒幕ぶってはいるけれど、それと同じくらいドジを踏むことも多いというか、その後東洲斎さんに詰められるのも含め、可哀想な目(自業自得なことも多い)に遭っているのが似合う彼女である。

 いろはがずっと気にかけていた戦場の踊り子についての新展開、眼鏡兵器をめぐる中学時代の凍の騒動、待ち合わせ場所を示す夜鳴鶯さんの暗号文(前々話でクラスメイト3人の★2〜★4の暗号を瞬時に解読してみせたいろはが、夜鳴鶯さんの★3の暗号に引っ掛かる──東洲斎さんの「気の置けないクラスメイト」ではない「そういう連中」という台詞に掛かる)、学年大将暗号皇帝なる次なる称号など、情報が盛り沢山な末に、いろは東洲斎さんの3人が同盟関係を結ぶという動きの激しさ。

 素直で無力なようで主導権を握りがちないろは、信用ならないムーブを繰り返しながらも何だかんだで流される凍、圧をかけながらも非常に友達思いな東洲斎さん(凍に対するあの警告のインパクトよ)と、非常に魅力的なトリオである。
 ……以前私は第二話の感想で、いろはと凍は良いコンビになるんじゃないかと述べていたけれど、中々同じフィールドに立たないまま今に至っている……果たして今回は。

 そして最後に、作中で東洲斎さん達が頻繁に披露してきた謎ポーズの数々は社風であることが判明した。
 いろはの「いつもの奴」呼ばわりに笑うし、自分もやってみたかったことにも笑う。

第二十五号『戦利の道も一歩から』


 6月9日放課後、待ち合わせ場所である桜の園に集った、1年A組からE組までの全学級兵長
 1年C組担任教官・育雛醇乎が仲介役を務める中、暗号資産500億モルグを発掘するための眼鏡兵器……をめぐるクラス対抗暗号バトルに関する講和会議が幕を開ける……!

 
 冒頭で暗号学園の生徒が位置する9つの階級が並ぶ。
 作中で触れられている通り学年大将学園元帥、それから暗号皇帝は今回の暗号バトルの勝者となる学級兵長が務めるとして、副会長、書記会計ポジションの学園幕僚学園参謀は誰になるのかというのも気になるところだ。

 本話登場の育雛先生は第一話でA組に理科を教えていた先生で、国語教師に続いての再登場となる。
(その第一話の理科の授業でいろはが人骨を見て涙していたのって……)
 酔っ払いながら(?)集合場所に遅れてやってくる、奔放な性格のお姉さん──しかし恐らくは相当な切れ者。
 生徒のみならず教師の癖も強い学校である。

 そんな彼女のもとで、兵長たちが暗号バトルのルールを提案していく。
 意見ひとつひとつにそれぞれの個性が現れる中で(「なんにもないです。」と述べる儚石楠花さんの異質感)、初動で出遅れながらも「どのクラスが優勝しようとこの戦いが終わったら ここで全員でバウムクーヘンを食べる。」と戦った後の平和を見据えるいろはもまた、他に劣らず兵長の貫禄(影響元の要塞村さんからして兵長に相応しい人物だしね)。
 他クラスの生徒達も、戦った後は仲間だから。
 A組の皆がそうだったように。

 そして今度はチーム戦──かつてのライバル達との共闘。
 いろは達の初戦の相手は縊梨慕率いるE組
 縊梨についての東洲斎さんの「顔も見たくない相手だわ。私達4人にとっては。」という発言。ここでの4人とは、東洲斎派の3人に縊梨を加えて、ということだろうか。
 彼女達の因縁がどのように絡み合うのか……といったところで次巻に続く。
(ところで、朧そぼろから借りたいろはの眼鏡兵器越しに会議の様子を眺めていた東洲斎さんと凍の距離の近さよ。裂したのに仲良しだ……)


 そして今回のおまけ4コマは4本。
 デフォルメの利いたキャラ絵が、本編とはまた違った魅力を放つ。
 『朧すんすん』……朧さんと海燕さんの意外な馴れ初め。少なくとも朧さんには全く裏がないようだ。この2人は未だに自己紹介クロスワードが明かされていないので、今後にメイン回が控えてそうである。
 『鉄壁の要塞』……本編開始前の凍と要塞村さんの接触。凍は第二十一話にて、要塞村とは信条が反する(から兵長にならなくてよかった)と述べていたけれど、彼女がいろはを気に入った理由は「逃げ回っていた自分を理由も聞かず匿ってくれたから」らしいので、その意味では彼と同じ行動をとってそうな要塞村さんが本来の本命だった(?)というのも頷ける話だ。
 『眼鏡スロット』……母倉乱数籤さんの眼鏡兵器について。いつか濃姫派の面々にも本編で大きく焦点が当たる機会があれば。
 『縁ちゃんといろいろ!』……前巻に続いて。この2人には一生いちゃいちゃしてもらいたい。

 この調子で続けば雁音さんが4コマに登場する日も遠くない!
(そしてゆくゆくは表紙デビューを……!)


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