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健康経営と日本の成長戦略

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日本政府が掲げる成長戦略(日本再興戦略や未来投資戦略など)と健康経営にどのような関係があるのか不思議に思われる方もいると思いますが、実は健康経営を日本政府や経済産業省が積極的に旗振りしていることをご存知でしょうか?

健康経営優良銘柄や健康経営優良法人などの顕彰制度も経済産業省が推進している取組の一つです。今回は日本政府の視点から健康経営の位置づけ・取組がどのように変遷していったのかをご紹介します。

引用文が多く文字量が多いので、最近の動向についてお知りになりたい方は一番最後の「2020年7月:成長戦略(2020年)」だけお読みください。

本記事で紹介する日本政府の成長戦略

2013年6月:日本再興戦略 ーJAPAN is BACKー
2014年6月:日本再興戦略改訂2014 -未来への挑戦-
2015年6月:日本再興戦略改訂2015 -未来への投資・生産性革命-
2016年6月:日本再興戦略2016 -第4次産業革命に向けて-
2017年6月:未来投資戦略2017 -Society 5.0の実現に向けた改革-
2018年6月:未来投資戦略2018 ー「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革ー
2019年6月:成長戦略(2019年)
2020年7月:成長戦略(2020年)

※各成長戦略に資料へのリンクを貼っています。
これまでの成長戦略一覧をご覧になりたい方はこちら(首相官邸HP)をご参考ください。

2013年6月:日本再興戦略 ーJAPAN is BACKー

第2次安倍内閣において、2013年6月に閣議決定された成長戦略「日本再興戦略」では、成長への道筋を実行・実現するものとして「日本産業再興プラン」「戦略市場創造プラン」「国際展開戦略」の3つのアクションプランが打ち出されました。

3つのアクションプランの中の「戦略市場創造プラン」では社会課題をバネに新たな市場を創造することを狙いとして、「日本が国際的に強み」を持ち「グローバル市場の成長が期待」でき「一定の戦略分野が見込めるテーマ」として4テーマが選定されました。この4テーマの1つとして「国民の『健康寿命』の延伸」が位置づけられました。ここ数年の日本における健康経営推進の起点とも言える出来事です。

日本再興戦略>戦略市場創造プラン>テーマ1:国民の「健康寿命」の延伸
<社会像と現状の問題点>
個人や企業が自ら健康管理や予防に高い意識で取り組むとともに、必要なサービスがどこでも簡単に受けられる社会を目指す。現状は企業にとっても、本来、社員の健康を維持することは、人材の有効活用や保険料の抑制を通じ、会社の収益にも資するものであるが、こうした問題意識が経営者に浸透しているとは言い難い

この時点では課題意識として「社員の健康維持が会社収益にも資するものの経営者には意識浸透していない」と上げられているものの、企業向けの具体的施策の打ち出しまではされず、厚生労働省を中心として保険者に対するデータヘルスの推進が進められていました。

2014年6月:日本再興戦略改訂2014 ー未来への挑戦ー

2013年の日本再興戦略で健康長寿産業が戦力的分野の一つに位置づけられることになりましたが、「医療・介護分野をどう成長市場に変え、質の高いサービスを提供するか、制度の持続可能性をいかに確保するか」など、中長期的な成長を実現するための具体的な課題の特定まではされていませんでした。

そこで2014年の日本再興戦略では、上記課題に対応するために以下4点に重点的に取り組むこととされました。
①効率的で質の高いサービス提供体制の確立
②公的保険外のサービス産業の活性化
③保険給付対象範囲の整理・検討
④医療介護の ICT 化等の各課題に取り組む。

この「②公的保険外のサービス産業の活性化」の項目に、現在に続く経済産業省による健康経営関連施策の端緒を見ることができます。

日本再興戦略>戦略市場創造プラン>テーマ1:国民の「健康寿命」の延伸
ii)公的保険外のサービス産業の活性化
①個人・保険者・経営者等に対する健康・予防インセンティブの付与
このほか、経営者等に対するインセンティブとして、以下のような取組を通じ、健康経営に取り組む企業が、自らの取組を評価し、優れた企業が社会で評価される枠組み等を構築することにより、健康投資の促進が図られるよう、関係省庁において年度内に所要の措置を講ずる。
健康経営を普及させるため、健康増進に係る取組が企業間で比較できるよう評価指標を構築するとともに、評価指標が今後、保険者が策定・実施するデータヘルス計画の取組に活用されるよう、具体策を検討
東京証券取引所において、新たなテーマ銘柄(健康経営銘柄(仮称))の設定を検討
「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」や CSR 報告書等に「従業員等の健康管理や疾病予防等に関する取組」を記載
企業の従業員の健康増進に向けた優良取組事例の選定・表彰

上記に沿って、経済産業省は2014年10月に「企業の健康経営ガイドブック」を公表、更に顕彰制度として健康経営”銘柄”の公表を開始(第1回:2015年3月発表)しています。

2015年6月:日本再興戦略改訂2015 ー未来への投資・生産性革命ー

2014年までの取組で主に大企業を中心に健康経営に取り組む基礎(ガイドラインや健康経営銘柄の公表)ができてきたため、2015年の日本再興戦略では健康経営アドバイザー制度の創設や健康経営銘柄の取組分析など、健康経営を中小企業も含めた日本企業全体へと広めるための施策が始まりました。

日本再興戦略>戦略市場創造プラン>テーマ1:国民の「健康寿命」の延伸
⑦個人・保険者・経営者等に対する健康・予防インセンティブの付与
ウ)経営者等に対するインセンティブ
企業による健康経営を促進するため、経営者等に対するインセンティブとして、以下のような企業規模に応じた取組を通じ、健康投資の促進が図られるよう、関係省庁において年度内に所要の措置を講ずる。
・ 中小企業等
- 商工会議所等と連携して、中小企業等による健康経営の優良事例を収集・公表するとともに、「健康経営アドバイザー制度(仮称)」の創設を通じ、健康経営人材の育成・活用を促進。
・ 大企業等
- 健康経営銘柄や健康経営度調査等の健康経営の普及のための取組を引き続き実施。また、健康経営銘柄選定企業等の先進的な取組を分析・整理するとともに、企業業績・生産性・医療費への影響等を経年で追跡し、企業経営者に向けて発信
- 健康経営の取組が定性及び定量的に把握出来るような環境を整備するため、「企業による健康投資の情報開示に関する手引書(仮称)」を策定し、投資家などのステイク・ホルダーへの情報発信を促進。

2016年6月:日本再興戦略2016 ー未来への投資・生産性革命ー

2013年度~2015年度の取組を経て健康経営のメリットが顕在化してきたところで、2016年の日本再興戦略では健康経営の普及目標が具体的(2020年までに500社)に定められました。

2.世界最先端の健康立国へ
ⅰ)公的保険外サービスの活用促進
⑤ 保険者機能の強化等による健康経営やデータヘルス計画等の更なる取組強化
健康経営やデータヘルス計画を通じた企業や保険者等による健康・予防に向けた取組を強化する。健康経営については、質の向上と更なる普及のため、健康経営銘柄を継続実施し、選定方法の改善を行うとともに、個別企業の健康経営の取組と企業業績等の関係性について経営学的視点も踏まえた分析・研究を本年度中に実施する。また、日本健康会議において、健康経営に取り組む企業を 2020 年までに 500 社とする。中小企業向けには、健康経営優良法人認定制度を本年秋を目途に開始するとともに、民間事業者と連携して、認定企業に対する金融市場や労働市場におけるインセンティブが付与される仕組みの検討を本年度中に行う。あわせて、健康経営アドバイザーの普及促進等を通じたノウハウの提供を行う。

上記に沿って、経済産業省は顕彰制度として健康経営優良法人の公表を開始(第1回:2017年3月発表)しました。

2017年6月:未来投資戦略2017 ーSociety 5.0 の実現に向けた改革ー

日本経済の長期停滞を打破し中長期的な成長を実現するために、第4次産業革命のイノベーションをあらゆる産業や社会生活に取り入れることで様々な社会課題を解決する「Society5.0」が提唱されました。

Society5.0に向けた戦略分野の1つに「健康・医療・介護」が位置づけられ、健康経営の取組も取り上げられています。注目ポイントとしては、新たに「データを活用すること」が項目名に加わり、PDCAの”C”の部分の重要性が取り上げられています。

ⅠSociety5.0に向けた戦略分野>1.健康・医療・介護>ⅰ)技術革新を活用し、健康管理と病気・介護予防、自立支援に軸足を置いた、新しい健康・医療・介護システムの構築>② 保険者や経営者によるデータを活用した個人の予防・健康づくりの強化
・健康経営銘柄及び健康経営優良法人認定を拡大するとともに、働き方改革等も踏まえ、必要な評価項目の見直しを行うこと等を通じて、健康経営の質の向上と更なる普及を図る。

2018年6月:未来投資戦略2017 ー「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革ー

Sociey5.0の実現に向けた具体的な成果を出すために、重点分野(フラッグシッププロジェクト)に絞って集中的にリソース投入する方針が示されました。フラッグシッププロジェクトの1つである「次世代ヘルスケア・システム」の中に健康経営の取組は位置づけられています。

健康経営銘柄・健康経営といった顕彰制度の規模が拡大し知名度が高まってきた、すなわち健康経営に取り組む企業が増えてきたことを踏まえ、今後は”取組の質”をより重視する方向性へと変化しています。

2.次世代ヘルスケア・システムの構築
ⅱ)勤務先や地域も含めた健康づくり、疾病・介護予防の推進
>②保険者によるデータを活用した健康づくり・疾病予防・重症化予防、健康経営の推進
・「地域版次世代ヘルスケア産業協議会アライアンス」等を通じた地方自治体等の健康経営顕彰のノウハウ提供や情報共有等の連携により、健康経営の中小企業等への裾野拡大を図る。また、健康経営の質の向上のため、「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」の選定基準を見直し、組織の活性化や女性の健康管理の視点等を盛り込む

2019年6月:成長戦略

2019年の成長戦略では2018年の質への転換を後押しするために、「(質の高い)健康経営に取り組んだ企業がステークホルダー、特に資本市場から適切に評価される」環境の整備が進められることとなりました。

4.疾病・介護の予防
ⅰ)人生 100 年時代を見据えた健康づくり、疾病・介護予防の推進
④ 保険者と企業とが連携した健康づくり、健康経営、健康投資の促進
・健康経営の生産性への影響に関する各種の研究等を踏まえつつ、健康経営の取組と成果が資本市場から適切に評価されるよう、環境を整備する。健康投資の投資額を見える化すべく、「企業の『健康管理会計』に関するガイドライン(仮称)」を、2019 年度中に策定し、企業が健康投資を更に進める上で必要なインセンティブ措置の検討も始める。
また、健康経営に係る情報開示等に関して、「企業の『健康経営』ガイドブック」を 2019 年度中に改訂し、その普及を図る。さらに、市場が比較可能な情報開示の在り方について、検討を進める。

上記を受けて、経済産業省は2020年6月に「健康投資管理会計ガイドライン」を発表し、健康経営に取り組む企業が計測すべき各種指標を例示しています。

2020年7月:成長戦略

2020年の成長戦略で特徴的なのは「健康経営の海外展開」を見据えているということです。日本で始まった健康経営の活動は国民・経済・国家の課題を解決するための仕組という前提の下、日本国内で実践されてきた健康経営関連サービス(健康経営のビジネスエコシステム)を海外に展開することで、世界の課題解決と日本企業の成長を実現させようとする動きです。

6.個別分野の取組
ⅵ)疾病・介護の予防
① 人生 100 年時代を見据えた健康づくり、疾病・介護予防の推進
エ)保険者と企業とが連携した健康づくり、健康経営、健康投資の促進
・各企業等の健康経営の取組と成果が内外から適切に見える化・評価されるべく、2020 年6月に取りまとめた「健康投資管理会計ガイドライン」(令和2年6月 12 日「健康投資の見える化」検討委員会決定)を踏まえ、企業等の健康投資を更に促進するインセンティブ措置の導入を見据え、資本市場等で活用可能な健康経営に係る情報開示の在り方等について、2020 年度内を目途に取りまとめる。
② 日本発の優れた医薬品・医療機器等の開発・事業化、国際展開等
イ)国際展開等
ポスト・コロナを見据え、今後、各国で需要が高まる医療・ヘルスケア製品・サービスの国際展開を推進する。また、予防・健康づくり等の取組を含む健康経営の普及、ヘルスケアイノベーションネットワーク基盤の構築及び各国との協力体制の構築等に取り組む。

健康経営のエコシステムを国際展開していくために、健康経営をISO標準とする動きが進んでいます。日本主導で健康経営の標準化に成功すれば、SDGsに代表される世界の社会課題解決の場面で日本のヘルスケア産業がリードしやすい、より貢献しやすい環境が整っていくと考えられます。
(参考:健康経営に関する海外展開と国際標準化の狙い

おわりに

今回は日本政府の成長戦略の視点から健康経営を捉えてみました。2013年の日本再興戦略から始まり少しずつ形を変えながらも、健康経営は常に日本にとっての重要な成長戦略の1つであることがお分かりいただけたでしょうか。そして国内での取り組みにとどまらずついには海外への普及も始まりました。いつか、日本の自然災害に対しる先進的な取り組み「防災(bosai)」のように、「健康経営(kenko-keiei)」が世界のスタンダードになる日が来るかもしれませんね。ますます健康経営のこれからが楽しみです。

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