見出し画像

揺れる 1


いつもの道
いつもの曲
いつもの信号
何も変わらない一日が始まる

職場でも挨拶程度の会話で
パソコンと向かい合う日々
そして何事もなく帰宅し
一日を終える

私の毎日を描くなら一本の線
それが何本も重なりやがて黒く塗りつぶされて埋まっていく
きっとそうだろう
そう思っていた
あの日あなたに出会うまでは
あの日いつものように帰宅
前から素敵な窓だと思っていた一軒家 
クリーム色の壁に水色窓枠
庭に咲く満開の桜
そこに夕陽があたり
そこだけが周りの景色から浮き上がって見えた
色が溢れ出している
車を停めスマホ取り出していた
この景色を収めておきたい
他人の家を勝手に撮ることは良くない事なのだろうと解っていても記憶だけではなくとどめておきたかった
私が美しいと思ったその景色を
少し離れた所で同じ様にスマホに収めている人がいた

それが彼との初めての出会いだった

お互いの存在に気がついてなんとも言い難い気まずさを抱えて車へと戻った
変な女だと思われただろう
週末までいつもの変わらない毎日の中でチクチクする思いをお腹に奥に抱えて過ごした
何故か長く感じた週末迄の日々


私の細やかな楽しみ
近所の大型書店で本を買うともなく眺める
気になるタイトル、表装、内容
じっくりと吟味する
そうやって時間を過ごすのが好きだ
気に入ればお気に入りのカフェで何ページか読んで帰宅する
それが私の週末の過ごし方
淋しいと思った事もないし
むしろこの穏やかな時間が好きだ

子ども頃から本に囲まれて過ごしてきた
1番落ち着く場所

最近は写真集を見るのが好きで
そのコーナーへと向かう
『世界の窓』と言うタイトルが目に入る
手に取って見ていると何故か視線を感じる 
横に目をやるとあの時の彼
えっと一瞬思い動揺を隠しつつ視線を前に移す
「覚えているはずない」そう心で呟いて
手に持った写真集と共にその場を離れようとすると
「その写真集素敵ですよね。僕も買おうと思ってます」と
見ると彼の左手には『世界の窓』
「あの時の窓に映った夕陽も綺麗でしたよね」
「すみません。突然変な人だと思ってますよね」
「あっ いえ私も変な女だと思われていると思ってましたから…」
あぁこんな時どうしたら良いのだろう
お互いまるで小学生の様なぎごちなさ
でもなんだか嫌じゃない
そんな風に感じていた

             つづく