見出し画像

魔女っ娘ハルカ⑯(小説)

※長いです…(9456文字)

〜大阪・伊丹空港〜

俺達は朝の便で成田から伊丹まで飛び、ここからレンタカーで名神高速に乗り滋賀県を目指した。

「たぶん、ここから一時間半くらいで着くと思うんだ。」

「わかった…ねぇ、ヒロ…」

「ん…なに?」

「ここまで付き添ってもらって、こんな事言うのもなんだけど…もしね、自分に危険が及ぶ事になったら迷わずに逃げてね。」

「いや、逃げはしないよ。」

「今から、対峙する相手は今までの方々とは違うの…私も、どうなるかわからない。」

「どう違うの?」

「今までの方々は、あくまでも妖怪や魔物。でも、今から相対する方は…言わば、この国の根幹にある魂みたいな存在。」

「この国の魂?」

「うん、森羅万象全ての存在の源っていうのかな…」

「何者なの?」

「母よ…全ての…」

「母…」

「それでも、私は為すべき事がある。これは、使命だと思うの。でもね、貴方は違う。こんな事で、命を落とすような事があってはいけない人なの!」

「………わかった。覚えておくよ。」

「ごめん…」

道中にした会話で、少し重い空気になった。
ハルカが俺を想う気持ち、俺がハルカを想う気持ちが交差する。
お互いがお互いを想うがゆえに生まれる、心の歪みを抱えたまま、俺達はこの国の古来から存在する魂が祀られている場所へと到着した。

https://youtu.be/EVQp-Ae90VY?si=8qiB4_g-QpSJ4l_X

※よければ少音でBGMにどうぞ…↑

………………………………………………………………………………

〜滋賀県豊郷・とある神社〜

手狭な駐車場に車を停め、入口へと向う。

「ここか…」

有名で観光地化されたような神宮とは一線を画すような、厳かな佇まい。
まるで、あえて人を寄せ付けぬようなただならぬ雰囲気は、嫌でも俺達を緊張させた。

「行こうか…」

平場に面した鳥居で、一礼をし階段を上る。

二人共、すでに異様な気配を感じているが、言葉少なに淡々と上へと向う。

辺りは木々が生い茂り、あまり手入れもされていない原生林のような境内をひたすら歩く。

「凄いな…」

「おかしいでしょ…伊勢神宮とかはあんなにも素晴らしいのに…」

「ここは人が立ち入ってはいけない聖域のようだね。」

「うん、そうかも知れないね…」


参拝路の中程に大鳥居が現れた。
ここは、いくぶん掃除も行き届いて開けている。

「あと少しで本殿に着くからね」

「うん、わかった」

「ヒロ、もう一度言っておくけど…」

「わかってる、わかってるから…」

「……うん」

俺はハルカの言葉を遮った。
きっと、俺はこの後に起こる様々な出来事に対処出来る事は何も無いだろう。
間違いなく足手まといになる。
もしかしたら、ハルカも俺も望まぬ形で酷い殺され方をするかも知れない。
ハルカには、それが分かっている。
ここ暫くのハルカの様子は、見ていても心配になるほどナイーブな状態で、昨日にホテルで吹っ切れた様子は見せたが、やはり気が気ではないのだろう。
最後まで、俺を付き添わせてよいのか悩んでいたんだ。

「ハルカ…」

「なに…?」

「たぶん、俺は何も出来ないと思う。ハルカが恐れているくらいの相手だから、きっと俺なんかがいたところでね…それでも、君のそばにいたいんだ。もし、邪魔になるようなら言われたとおりにするよ。でも、少しでも君の力になれるなら、そばにいたいんだ…いいかな?」

「うん…ありがとう。………はぁ〜…よーし!くよくよ悩んでもしょうがないね!ヒロ、一緒にいて!貴方がいてくれれば百人力だよ!私、絶対に取り返してみせるから…相手が誰だろうと関係ない。やってやる…負けないぞーーー!」

ハルカは無理やりに自分を鼓舞して、明るく振る舞った。
本殿まで、手を握り合い互いの存在を確かめ合う。
ハルカの右手は少し震えていたが、先を見据える眼差しは、とても強く真っ直ぐに未来を見ていた。


「ここか…」
「着いたね…」


石造りの灯籠や狛犬、本殿へと登る階段や拝殿、どれも昔から時が止まっているかのような厳かな雰囲気に、俺は一瞬足が竦んだ。

「本殿はあの裏にあるの」
「建物の向こう側ってこと?」
「そう、洞穴の中にね」

俺達は階段を登り、拝殿の裏手に回った。

「ここよ…」

「こんなところに…」

拝殿の裏には本殿が連なっているものなのだが、この神社の御神体はこの洞穴の中に祀られているらしい。

「平気?」
「大丈夫」
「さぁ、行くわよ」
「うん」

俺達は狭い穴に身体を進入させ、先へと進んだ。

「頭気をつけてね」
「うん、あっ!」
「大丈夫?!」
「何か踏んだ…」

足下にヌルっとした感触があり、小型の懐中電灯を点け、目を凝らしてよく見てみると…

ネズミやイタチなど小動物の死骸が無数に散らばっていた。

「うっ…!どうりで臭いと思った……」
「饐えたような生臭い死臭がするね…」

俺達は死骸を避けながら、先へ進んだ。
だが、その先には…

「何か地面が動いて見えるけど…」
「蛇ね…」

洞穴の地面を埋め尽くすほどの蛇が、何百匹もうごめいている。

「ヒロ、私の後ろにいて…」

ハルカは地面の黒いうねりに手をかざした。
すると、通路の真ん中を蛇が避けていき、俺達が通れるほどの空間が開きだした。

「行こう。」
「うん…(モーゼみたい…)」

頼りない薄明かりの中、背を丸めながら暗闇を歩く。
頭上にはひっきりなしにコウモリが飛び交い、髪の毛や耳の横を何度もかすめていく。

たんなる洞穴や鍾乳洞ならば、別段恐れることはない。
暗闇や冷気は人の心を不安にさせる効力があるが、その静けさに癒やされる人もいる。
俺やハルカは人混みを好まないので、むしろ落ち着くはずだ。

しかし、この場所は違う。
明らかに異質な気配と視線が、ずっと俺達を見張るように付き纏っている。
それは、神社に着いた時から感じていた。

冷たく人の心を抉るような敵意、俺達を拒絶するかのような悪意のある思念が、この洞穴内には渦巻いている。

「強い悪意を感じる…」
「すぐ近くにいるってことね…」

俺達は暗がりの中、強大な相手に備え身構えた。

「……怯え恐れる魂よ……」
不意に脳内に女の声が響く。

「…無力で弱き身を携えて、何用にてここへ来た……」
冷酷な声の響きが全身を硬直させる。

「我は入江一族の御魂の使い。そちらの使いに奪われた物を、御返し願いに参りました」
ハルカは姿の見えぬ相手に向かって、こちらの意向を伝えた。

「…不躾なる用立て…また蟒蛇(ウワバミ)に喰い殺されに、自ら寄ってくるとは…」
薄ら笑う女の声に、ハルカが声を上げる。

「祖母を殺したこと、私は決して許しません。この心が癒やされることは、ついぞ無いでしょう。ですが、あの出来事を天命と思うのであれば、私は貴女と交渉するべきと考え、覚悟を持ってここに来ました。」

女は高らかに笑いながら、
「…お前のような下賤が、ワシに交渉だと?面白い…ならばその男を差し出し、お前はここから立ち去れ!」

俺はこの気味の悪い物言いをする女に向かって、頭にきてこう言った。
「おい、俺を差し出せって言ったな。アンタ、俺を舐って傷めて玩具にする気か?言っておくけど、俺は面食いだからババアやブスはお断りだ。顔出して見せてくれよ、ババアでもブスでもなければ考えてやるよ!笑」

俺がそう言った瞬間、洞穴内の空気が一変し、禍々しい張り詰めた空気に変わった。

「ヒロ…なんてことを…」
ハルカは想定していた交渉の運びが決裂してしまったことに落胆した。

「どうせ、この偉ぶってる女は聞く耳を持たないよ…」
俺はハルカを諭した。

「だからって………もう…仕方ないか。ヒロ、何かあったら逃げるんだよ!」
ハルカは俺を後ろに遠ざけ、闘いに備える。

突然、目の前の空間が歪み不気味な女が現れた、大きな蛇を従えて…


冥界の神
伊邪那美命

「…愚かなものよ…弱くしてなお愚か……お前もそう思うだろう…蟒蛇よ……」
姿を現した女は、薄気味悪い表情で俺達のことを嘆いている。

「こいつが…」
「イザナミノミコト、日本を創ったとされる柱の一人よ…」

白い大蛇がこちらに向かって舌を長く出し、威嚇している。

「色が白くなってる…」
ハルカは大蛇の色味が変化したことを気に留めた。

イザナミが薄気味悪く笑う。
「お前の身内の力を体内に取り込んで、蟒蛇も熟達してきたようじゃ…感謝せねばの、此奴に喰われたお前の祖母とやらに…」

ハルカが怒りに震える。
「おばあちゃん…」

イザナミはハルカを見下す。
「…どうした…何故怒る…何故哀しむ……喜ぶがよい…お前の大事な優しい祖母は、このワシの一部となれたのじゃ…誉れなことぞ……」


「許さない……もう、ダメ……限界…」
ハルカは大きく目を見開き、血走った眼でイザナミを睨みつける。

「…敵討ちでもするか……虚しい…怒りは更なる怒りを産むだけ……」

「私が貴女を鎮めればいいのよ…そうすれば、この怒りは派生することなく終えるわ」

「…鎮める……お前のような力無き者がどのように…」

「力ずくでよ…!」
ハルカは襲い来る大蛇をかわし、イザナミに飛び込んでいった。

「…愚か者が……φχΔΗΘςⁿΞυ…」
イザナミは身動ぎもせず、飛び込んでくるハルカに手をかざし、妖術でハルカの身体を宙に浮かせた。

「ハルカ…!」

「くっ……!うぅ……ヒロ…逃げて…」
強大な力を操る相手に歯が立たず、洞穴の天井に押しつけられるハルカ。

「情無い…なんと不憫な姿よ…」
ハルカを片手で操るイザナミ。

「おい、やめろ!ハルカを離せ!」
無能な俺は怒鳴ることしか出来なかった。

「おい……男…ワシをよく見ろ…ζρχξςλα…」
そう言うと、イザナミの姿は徐々に変化し見覚えのある人間に移り変わっていった。

「おまえ……なぜ……?」
俺はその姿に不意打ちを食らった。

「貴方…ごめんね…怒ってるよね…」
しばらく疎遠になっていた妻がそこにいた。

「馬鹿な…こんなところに…いるはずない!」
俺は目の前の妻を否定した。

「今まで…私…本当にごめんなさい…」
妻が涙を流しながら謝罪してくる。

「そんなわけない!何なんだ?!お前は!」
俺は妖術だと分かっていながらも錯乱する。

「貴方のこと…愛してるのに…私が思いやれなかったばかりに……私のせいで…」
涙ながらに謝る妻は、良心の呵責に耐えながら心から俺に訴えかける。

「お前…」
俺は妻のもとへ惹きつけられていく。

「ヒロ…幻覚よ…ヒロ…行っちゃダメ……」
それを、上からハルカは見ている。

「貴方…やり直したいの……愛してるから…」
妻が優しい目で俺に囁く。

「愛し…てる……」
俺は妻の目を見つめ、頬をつたう涙を指で拭った。

「愛してるわ…あなた……」
妻が目を閉じ、濡れた唇を俺に差し出す。

「ヒロ……」
ハルカが耐えきれずに固く目を閉じる。

「良かったよ…妻で…」
俺は妻の顔の前で満面の笑みを浮かべながら、目一杯力任せに妻の顔面を殴打した。

「グゲェッー…!!」
妻に扮したイザナミは顔を大きく揺らした。

「一発じゃ足りない、あと十発殴らせろ」
俺は妻の襟首を掴み、襲いかかる。

「ア゛ッ゙………ガァッ……グゥ~ー……」
何発も何発も容赦せず顔面を殴りつける。
苦しむ妻の表情を目に焼き付けながら、次は後ろに放り投げようと後方に目をやると…
何やら、光る物体が目に入った。

「おい、アレは何だ?」
と、妻に聞いてみた。

すると、妻は…
「…大概にしろ…」
と、俺の身体を大蛇の方へと投げ込んだ。

大きく口を開け待ち構える大蛇。

「ヒッ!ヒローー…!!!イヤァァーー!」
ハルカが叫ぶ。

「(調子に乗り過ぎたか…ごめんな、ハルカ…でもさ、妻に変化するのは反則だろ。今までアイツに散々な目に合わされてきたのを知らないで、それを選んだの?なんとなく、妻なら夫として言う事聞くと思ってそうしたの?イザナミさん、大間違いだよ。
俺は妻には手加減しない。
娘に化けられてたら危なかったな…。
でも…
これで、蛇に喰われて死ぬんか、俺は?
あ〜なんかあまり面白くない人生だったな〜
小学校時代は虐められて、中高も特別何もなかった。学生時代は良い思いした記憶もないし、社会人になってからもパッとしなかったな…ビットコインとか初期の段階で手を出しておけば今頃は億り人としてウハウハな人生だったかも知れないけど、博打とか苦手な俺がやるはずもないし…まぁ、最後にハルカと出会えて、こんな理由のわからない経験が出来ただけでも良かったのかな〜………

長げぇ〜な…
時間止まってんのか?
このあと作者はどうするつもりなの?
展開に悩んでるんでしょw
そうゆう時はさ、レジェンドキャラを出しちゃえばいいんだよ。
なんで、突然このシーンで登場するの?!
うそっ!出ました、主人公を救う救世主!みたいな!
よし、そうしよう。
続きをご覧下さい…)」


大蛇の目の前で静止する俺…

「……ぐぶりーさびら…ぃやー…」
{※…どうもーすいませんね…お前さん…}
また脳内に誰かが呼びかけてくる。

「…ぃやー、カイトちゃ〜まじゅんよ…にふぇ〜でーびる…」
{…お前さん、海人(ハルカのこと)と仲良くしてくれて…ありがとねぇ…}
これ沖縄弁だ、なに言ってるかわかんない…

「…なんくるないさ〜あぎちゃびよい!!」
{…心配ないさぁ〜ビッくらポン!!}
あぎちゃびよいってw?! おいおい…
なんだ?身体が急にデカくなってきたぞ…!
うそだろ…俺の身体が…なにこれ?!…

何者かの何かしらの魔術によって俺は、何かに変化した。
その姿は、この場所には相応しく、そしてどこか懐かしい気がした。

俺の中に
ずっと潜んでいた
ずっと機会を伺っていた
ずっと出番を待っていた
そんな獣が顔を出した

思う存分に暴れなよ
可愛いあの娘を守ろう


大青大将
俺、参上


止まっていた時間が動き始める。

「お…俺、蛇になってる!」
俺は自分の姿に驚く。

「ヒロ…?なんで?」
ハルカも驚く。

「…チッ…小賢しいまねを…あの老婆か…」
イザナミが舌打ちをする。

「(シャーー〜!)」
大蛇が威嚇する。

「やろうか…同じ蛇同士、どっちが強いか力比べだ!来いよ、蛇公。」
俺は大蛇と睨み合う。

「(シュ〜………ガッ!)」
大蛇が俺の首元を目掛けて飛び込んでくるが、俺はそれをかわし大蛇の身体に巻き付いた。

「お前、いつも自分より弱い相手ばかり狙って喰ってきたんだろ…おい…」

「(シャー!シャー!…)」

「老人、子供、小動物と…お前からは卑怯でしみったれた嫌な臭いがするよ…」

「(ジャー!ジュラーー〜!…)」
大蛇は俺を引き剥がそうともがくが、体内から何者かに抑えつけられ動けない。

「あの飼い主も湿気た臭いがするよな…湿った者同士で仲良くオネンネするか?おい…」

俺は大蛇の尾に噛みつき、身体をしならせてイザナミにむかって大蛇を放り飛ばした。

「…なにを…!……ξξζΗαχ…」
イザナミは自らに飛んでくる大蛇を妖術にかけて小さな姿へ変えた。

「(シュ〜シュ〜……)」
小さくなった白蛇は、イザナミの後ろに隠れ大人しくなった。

気を抜いたイザナミの妖術が解け、ハルカが降りてくる。

「ヒロ…!」
「ハルカ…こんな姿になっちゃったよ…」

「素敵よ…ヘビーな貴方も♪きっと、おばあちゃんが助けてくれてるのよ…」
「あ〜…あの声、ハルカのおばあちゃんか…」

「おい……貴様ら……」
イザナミが怒りの表情でこちらを見る。

「ワシの蟒蛇を傷つけおって…許すまじ…」
イザナミは妖気を放ち姿を変える。



伊邪那美
第ニ形態

「これは…なかなか……」
「ヤバそうね…」

イザナミは蛇のような触手をしならせ、俺の身体を打ってくる。

(バシーン!バシーン!)

「うっ…、身体が…痺れる…」
おそらく、この触手には毒蛇の毒のようなものが染み込ませてあるのだろう。
俺の身体はみるみる痩せ衰え、元の人間の身体へ戻っていった。

「ヒロ!大丈夫?!」
ハルカが俺に駆け寄り、抱きかかえる。

「戻っちゃったね…これでもう普通の人間だ…」
毒に侵され始めた俺の身体は、痺れて動けなくなっていた。

「大丈夫、もう大丈夫だから…スゴい、凄いよヒロは…」
ハルカは俺に覆いかぶさり、魔の手から守ってくれている。

(バシーン!バシーン!!)
何度もハルカに打ちつけられる毒の触手。

「ハルカ…逃げないと…ハルカまで…」
朦朧としながらも俺は鞭打ちになっているハルカを気遣った。

「大丈夫…ヒロ…これくらい平気よ…」
ハルカの腕や太腿は、何度も触手で打たれ血が滲んで腫れ上がっている。

「ハルカ…」
「ヒロ…」

「…愚かな弱者が分をわきまえず…神の前で図に乗るから…こうなるのじゃ…」
薄ら笑うイザナミ。

「神……?貴女は、自分で自分のこと…神だって思ってるの?笑っちゃうわね!」
ハルカはボロボロになりながらも、イザナミを挑発する。

「……死に損ないが…ワシを腐したところで死ぬ運命は変わらんぞ…」
イザナミがハルカに触手を振り上げる。

「なら、そもそも貴女は神様のくせに何故こんなにジメジメして暗くて臭い洞窟で籠もってるの?」

「……五月蠅い…」

「忘れたのなら、私が思い出させてあげる。貴女は、この国を創った時にその身を傷つけボロボロになった。今の私みたいにね!」

「……」

「その姿を愛する人に見られたくないと、この洞窟に身を隠した。せっかく彼が迎えに来てくれたのに、それを自分の見栄で追い返し、一人で拗ねて引き籠もった…違う?」

「…貴様…神のワシにむかって…」

「なにが神様よ!アンタなんかタチの悪いただの引きこもりじゃない!勝手にイジけて、人のことを僻んで、その蛇に言うこと聞かせて悪い事させてさ!」

「…この蛇は聖なる神の使いじゃ!…」

「聖なる神の使いに泥棒と人殺しなんかさせるな!腐れ女が!そんなんだから、旦那さんが嫌がるんでしょ!」

「…旦那…あの人のことを言うなー!…」

「イザナギ様だって、悲しかったはずよ…たった一人の愛する妻に邪険にされて、脅されて追い返されて…沢山の子供たちを男手一つで育てなきゃいけなくなって…その時、貴女は何をしてたの?!」

「…このワシに恥をかかせおって…死ね!」
イザナミは手の平から死閃光を生み出した。

「殺るならやりなさいよ…私は貴女なんか恐くない!私にはここに大好きな人が居てくれているから!」
ハルカは俺を強く抱きしめた。

「…気色が悪い…」
イザナミは怪訝な顔をしてハルカを見る。

「貴女には分からないでしょう、大切な人を想う気持ちが…ヒロはね、私がどんなにワガママ言っても受け止めてくれる。私が、こんなにボロボロになっても側にいてくれる。私が、化粧が落ちてB面(男性の状態)ぽくなっても可愛いって言ってくれる。ヒゲが伸びてきて、ただのオジさんになっても抱きしめてくれる。ベットの上で屁をこきまくってもキスしてくれるんだよ!こんなに愛されたことのない貴女にはわからないでしょ?!」
ハルカはイザナミに強く言い放つ。

「…それは…もう…たんなる変態…だ…ろ…」
イザナミは戸惑う。

「そうよ!変態よ、私もヒロも変態なの!でも、そんなのどうでもいいくらい互いを想い合っているの…必要とし合ってるの…愛し合ってるのよ!」

イザナミは手の光を収めた。
「…ど…すれ…よ…い…」

「えっ…?」

「……どうすればよいのじゃ…愛するには…」
イザナミはモジモジしだした。

「愛を…知りたいの…?」

「…そう…じゃ…」

「イザナミ様……それは……(バタン…)」
痛みと毒に耐えていたが、ついにハルカは倒れた。

「…おい…ちょっと…肝心な場面で倒れるな!しっかりしろ…おい、愛を知るにはどうすればよいのじゃ!」
イザナミは自分のせいなのにオロオロしだす。

「…そうじゃ、アレを使えばよいのじゃ…」
イザナミは後ろに隠してあった箱から光る玉を出した。


入江家から奪った
宝玉

イザナミはハルカの頭上に玉をかざす。

(キラ~ン…)

正気を取り戻すハルカと俺。

「はっ!…治った…」
「ヒロ!大丈夫?!…良かった…」
俺達は抱きしめあった。


「…おい…愛を…教えて…」
イザナミはマゴマゴしている。

「あっ…そうだった…それはね…」
と、ハルカが説明しようとする。

「可愛くあろうとすることですよ。」
俺はハルカを遮り口走った。

「…可愛く…あろう…?」
イザナミはキョトンとしている。

「えぇ、女性は誰かのために可愛く美しくあろうとするから輝いて見えるんです。誰かに喜んで欲しい、綺麗だって思って欲しい、元気を出して欲しいって、好きな人とか大切な人を想っているから素敵になるんだと思いますよ。それは、女の人も女装娘も神様も…」
俺は思いのたけを伝えた。

「…好き…大切…」
イザナミは考え込んでいる。

「貴女にも大切な方がおられるんでしょ?なら、話は簡単です。ねっ、ハルカ!」

「そうね、可愛くなっちゃいましょうか…イザナミ様!」

「…可愛く…ワシが…?」

「そうと決まれば、あ~してこ〜して…(チョチョイのチョイ!)」
ハルカはイザナミに化粧を施し、着物を着付けて、お色直しを仕立て上げた。

「ふ〜…どうでしょ〜」
全力を尽くしたハルカは満足気。

「か…可愛い…」
見違えるようなイザナミの姿に俺は息を飲んだ。




伊邪那美
最終形態

「…ワシが…可愛い…だと…」

「(……シャー〜………)」
白蛇も驚いてトグロを巻いている。

可愛くなった
蟒蛇


「これは、男がほっとかないな…」

「これなら、きっと…」

「…お〜い、伊邪那美〜!…」
後ろの方から男が駆け寄ってくる。

「…あ…あの声は…」
イザナミが振り返る。

「お〜い!迎えきたよ〜!」
その駆けつけてきた男は…



伊邪那岐命
ちょっとチンチクリン


「可愛くなったから、スグに迎えに来たよ」
イザナギ

「そんな…だって…アナタ…」イザナミ

「こんなに可愛くなるなら、早く迎え来れば良かった〜」イザナギ

「なんてことを…何千年も放っておいたクセに…」イザナミ

「それは、ナミちゃんがずっと怒ってたからじゃないか〜」イザナギ

「それは…その…恥ずかしくて…」イザナミ

「ねぅ、ナミちゃん。チューしよ、チュー」
イザナギ

「…ちょっと…人前で…こら…やめ…あ〜ん…」イザナミ


「あの…すいません…ちょっと宜しいですか」
ハルカ

「…あっ…ごめんなさいね…もう…旦那が…」
イザナミ

「イザナミ様、その宝玉は我が入江家に御返し願います。」ハルカ

「…ぬっ…」イザナミ

「その代わりと言っては失礼かと存じますが、そちらに置かれている古代の箱…そこに入るべき宝を私達がお持ち致しました。」
ハルカ

「…おまえ達が…その宝を…?」イザナミ


契約の箱

「はい、十戒の石版、マナの壺、アロンの杖…御二柱のご子孫が遥か西の国より、その契約の箱に入れて持ち運びし宝に御座います。」ハルカ

「…そうじゃの…よく見つけた…」イザナミ

「その箱に必要なのは、この宝玉ではなく、この三種の神器かとお見受けいたします。どうか、お納め下さい…」ハルカ

「…誠に…感謝申す…」イザナミ

「いずれ、その宝を失ったカノ国は本当の地獄と化すでしょう。しかし、その箱と神器があれば最悪の事態は避けることが出来るかと…差し出がましいようですが、同祖の国を憂いております。」ハルカ

「…お前のような未熟者に、そこまで心労かけてしまうとな…あとは、こちらでなんとかしよう…」イザナミ

「数々のご無礼、お許し下さいませ…」ハルカ

「…人も神も愛を知ってこそ…じゃの…」イザナミ

「はい…この国と世界に愛を…御頼み申し上げます…」ハルカ

「…承知した…」イザナミ

「それでは、これにて失礼致します…」
ハルカ

「…帰り道…気をつけよ…」イザナミ

「ウチの奥さん可愛くしてくれてありがとね〜!バイバ〜イ!」イザナギ

「お幸せに…」ハルカ

「蛇公、もう悪さするなよ〜!」ヒロ

「(シャー…!)」白蛇

俺はハルカに肩を貸してもらいながら、洞穴を入口へと戻った。

帰り道の暗闇では何も恐ろしいことはなく、イザナミ様の晴れた心の様を表しているかのようだった。

「おばあちゃん…ありがとう…」

続く。。

























この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?