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魔女っ娘ハルカ②(小説)

部屋に現れた女の霊は黒い影となり、ベットで恐れおののく俺にジリジリとにじり寄ってくる。

「くっ……う………」
声が出ない。
身体も硬直して動けない。

「うぅ…うー……」
影が低い呻き声を上げながら近づいてくる。

きっと海岸で見た、あのブラウス女霊だ。
アイツは俺の事を呪うって言ってたものな…
っていうことは、俺もここまでか。
仕方ないのか…
それならそれでいい。
ちょうど生きることに疲れていたところだ、やるならやれよ。
可愛い娘に呪い殺されるのも悪くない。

黒い影は俺の顔に近づき、息がかかる程の距離でこう呟いた。

「お腹空いた……」

は……?

「何か食べるものを…」

予想もしなかった一言に、俺の身体の緊張は溶け、声も出るようになった。

「え…お腹空いてるの?」

「……(コクッ)」

「そうなんだ…」

俺は台所へ向かいジャーに残っているご飯で塩むすびを作り、コップに麦茶を注いで黒い影の前に置いてみた。

すると、黒い影の右側から触手のような手が伸び、塩むすびを口元へと運んでゆく。

「霊もご飯食べるんだ……」

俺が呆気にとられマジマジ見ていると、黒い影は少し赤みを帯び、恥ずかしそうに斜めに身体を向き直した。

「んっ…ゴホッ…ゴホッ」
黒い影は口にご飯を詰め込みすぎたのか、喉を詰まらせ咳き込み始めた。

「これ、お茶…」
左から伸びる触手にお茶の入ったコップを渡す。

「あり…がと……」
コップに入った麦茶をグビグビと飲む霊。

「ふ〜生き返った…」
いや、死んでるけどね…

「大丈夫…?」
俺はおそらくブラウス女霊と思われる黒い影に、話しかける。
「沖縄から着いてきたの?」

「……(コクッ)」
黒い影は頷く。

「俺のことを呪い殺すの?」

すると、黒い影はこちらに身体を向き直し何かを言おうとしたが、俺の背後にある物に意識を移した。

「あれ…なに?」
黒い影はテーブルの上にある箱を触手で指し、俺に聞いてくる。

「え?これ?チョコレートだけど…」

黒い影はモジモジしながら呟く。
「それ…いい?」

「ん?…それ?」

「それも…食べたい……」

俺は少し懐疑的になりながらも、箱に入ったチョコレートを袋から出し、触手の前に置いてあげた。

触手は素早くそれを拾い上げ口元へと運ぶ。

その瞬間、黒い影は見る見る色味を帯びていき、俺が海岸で見たアノ女の娘へと姿を変えていった。

「はぁ〜ん…!美味しぃ〜ん〜〜ー!」

甘いものを食べて上機嫌になったのだろうか、女霊の表情はニコニコとしだした。

「あの〜…ここに何をしにいらしたんでしょうか?」
と、俺が尋ねると霊はハッとした顔になり…

「お、お前を…呪い殺しにきたんだ!」
と、口元に米粒とチョコを付けながら叫んだ。

「やはりそうでしたか…分かりました。では、どうぞ殺して下さい。」
俺がそう言うと、霊は驚いた顔でこう言う。

「えっ?……殺されてもいいの?」

「はい」

「死んじゃうんだよ?」

「仕方ありません」

「怖くないの?」

「アナタの大切な場所を汚したんですものね…その報いは受けます」

「はぁ……」

ブラウス女霊は少し考え込んだように頭を抱える。
きっと思っていた感じと違ったんだろう。

「ん〜……そうだ、こうしよう!私は今日からこの部屋で貴様と一緒に暮らすから、お主は毎日、私に御供えを持ってきなさい。できれば、甘いモノなどを…」

「貴様…?お主…?」

「いや、そなたの名前が分からないのでな…そち、名は何と申す?」

「俺はヒロだけど、君は?」

「拙者の名か?名はハルカじゃ。これから宜しく頼むぞ、ヒロ!」

「甘いモノ好きなんだ…まぁ、俺の仕事はそうゆうものを作る職業だから別に構わないけどね。」

「なに?!お主、パティシエなる者か?!」

「いや、そんないいもんじゃないけど…菓子職人かな。」

「ほうほう!良いではないか!甘い物に囲まれて、さぞ愉快であろう!」

「毎日、作ってたら飽きるよ。それと、君はハルカのキャラ設定それで行くの?」

「いや〜久しぶりに甘いモノを口にして少し浮かれ過ぎてしまったようじゃの〜。そろそろ、清楚系キャラに戻るとしようかの…」

ハルカは俺の前に膝をつき、三つ指ついて頭を下げた。

「これからアナタと暫くの間、共に過ごさせていただくハルカと申します。どうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m」

「おっ…は、はい。宜しくお願いします」

「こんな私めに、食事や甘味を与えて頂き感謝しております。つきましては、毎日ご飯やケーキなどを供えていただけると嬉しいかぎりで御座います。」

「あ…そ、そうですか」

「もし、供え物を忘れたり疎かになさった場合は即殺しますので、どうぞその点だけ御了承していただければ幸いです。」

「やっぱ殺すんかい」

「毎日、美味しい物をよこせば良いのでございますわよ。うふっ。」

「は〜、養うってことですね…」

「はい。ヨロシクね♡」

こうして俺とハルカの奇想天外な物語は始まった。
二人はどうなるのか?
人間と霊の恋は生まれるのか?

なんか最初の方で書いてあったけど、俺が死ぬパターンで終わるのか?
どうなるのか俺にも皆目検討がつかない物語は今、走り出した。

乞うご期待!



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