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淫魔屋敷・拾四話

〜団子の椿屋〜

バァバの茶屋を手伝う事になった天音は、せっせと団子を器に乗せ準備をしていた。

「美味しそうだな〜ちょっと食べちゃおうかな〜」天音

そこに一人の遊女が団子を買いに来た。

「お嬢さん、団子を二つ下さる?」紀美

「あっ、いらっしゃいませ!お二つお持ち帰りですね」天音

「うん。私はアンコで、あの子はみたらしがいいかな?」紀美
 
「はい。どうぞ!」天音

「ありがとう」紀美

「ありがとうございました!………綺麗な人だな〜」天音

紀美は団子を二つ買い、ある場所へと向かっていた。

その頃、陰間茶屋の小丸は…

左・太客の男
中・小丸
右・大奥の女中

一人で男も女も同時に相手していた。

(ガラガラ〜)
「ごめんくださいな〜」紀美
 
「あらっ、いらっしゃい」まわし

「小丸くん…いらっしゃます?」紀美

「小丸、今は接客中でね。もうじき、空くと思うよ」まわし

「あ…これ、お土産持ってきただけなので」紀美

「ん?会っていかないの?」まわし

「ええ…お忙しいでしょうから」紀美

すると突然、奥の襖がガラッと開いた。

「紀美ちゃーん!来てくれたんだね!」小丸

「あら!坊や。お客様いるんじゃないの?」紀美

「終わった終わった。さっ!上がって」小丸

小丸は紀美が来てくれた事が嬉しく、相手していた客を適当に帰し、自分の部屋へと紀美を連れ込んだ。
 
「も〜仕事中だったんでしょ?」紀美
 
「あんなの仕事じゃないよ…気持ち悪い……」小丸

「…仕方ない子だね〜ほら、お団子。」紀美

「わ〜!ありがとう、いただきまーす」小丸

「ふふ…ゆっくり食べなさい」紀美

遊廓や屋敷では、決して見せることのない紀美の穏やかな表情。
まるで、可愛い弟を見守るような優しげな顔は、汚れのない娘のようにも見えた。

「ねぇ、紀美ちゃん…僕ね、もうココ辞めたいんだ」小丸
 
「うん…辞めてどうするの?」紀美

「紀美ちゃんと一緒になりたい」小丸

「こらこら!一周りも離れてる遊女をからかうんじゃありませんw」紀美

「…僕、本気だよ。お金もいっぱい貯めたんだ!」小丸

「それは自分の為にとっておくのよ」紀美

「そのお金で紀美ちゃんと飲み屋やるんだ」小丸

「まだ未成年のくせにw」紀美

「そこでね、二人で踊ったり歌ったりしてお客さんを盛り上げるの!」小丸

「楽しそうねw」紀美

「ねぇ…だから、紀美ちゃん。一緒に…」小丸

紀美は小丸をスッと引き寄せた。

「アタシらはね、籠の中の鳥なんだよ。籠の中の鳥はね、自分で飛び方を知らないから籠から出ちゃうと、すぐに死んじゃうんだよ…」紀美

「そんなことないよ…」小丸

「坊やは飛べるの?」紀美

「飛べるさ…紀美ちゃんと一緒なら何処へだって」小丸
 
「なら……連れてってもらおうかな…」紀美

「紀美ちゃん……」小丸


〜淫魔屋敷〜

「あれ?紀美ちゃんは?」梅

「そういえばいないですね…」音子

「あ〜紀美なら好いてる子のとこに行ってるよ〜」葵
 
「へ〜、わりと自由なんですね」莉々

「ウチら、向こう(遊廓)じゃ見張りがいて自由気ままに出歩いたり出来ないのよ」葵

「だから、紀美ちゃんも少し羽根伸ばしてるのかも知れませんね…」紫緒

確かに、ここに来て緊張が緩んでいる気持ちはわかる。
でも、やっぱり営業前に仕度が間に合わないとお客さんにも迷惑がかかるし、お店としても良くない。
ここは、私が先輩としてガツンと言わないとね!

「で、でもさ…やっぱり時間通りに…」梅

すると、突然店の入口が勢いよく開いた。

(ガラッ!)

「おい!葵ってのいるかー!」ヤクザ者

「…ヤバい」葵

「ん?」莉々

「あ、あのスミマセン。営業時間はまだなんですが…」梅

「俺は客じゃねぇよ、ちょいとその葵に用があってよ」ヤクザ者

「なんだい!アンタこんなとこにまで…縁ならとうに切ったはずだよ!」葵

「馬鹿言っちゃいけねぇ、やっと会えたんだ。ほら、行くぞ!」ヤクザ者

ガラの悪い男は葵の腕を掴み、無理矢理連れ出そうとした。

「イヤだって言ってんだろ!離せ!」葵

「いいから、来い!」ヤクザ者

揉み合う二人の間に割って入る形で、莉々が顔を出した。

「ねぇ、ちょっと。お前さん」莉々

「なんだテメェは?!」ヤクザ者

「あら、お忘れかい…淋しいね。私がイイ女になっちまったから喉に突きつけられた、この刀の事も忘れちまったらしいね」莉々

「くっ!なんでこんなとこに…」ヤクザ者

「アンタ、ずいぶん女に乱暴ばかりするんだね。その下に付いてる物、切り落とせば少しはマシな奴になるんじゃないかい?」莉々

「ははっ!wそれか、私のネネに踏んづけてもらう?」音子

「こいつら…くそっ!お前がココにいる限りまた、来るからな!」ヤクザ者

男は威勢よく入って来て、威勢よく追い出された。

私、この子達に教えることなんかなんにもなさそうだ…w

「大丈夫?」莉々

「…ありがとう」葵

「昔の男って感じかな?」音子

「そんなんじゃないけどね…ヒモだよ!」葵

「遊廓では近づけなかったから、噂を聞いてここに来たんだね…」紫緒

「なるほどね…」音子

(ガラッ)

また入口の戸が開く。

「ただいま…どうしたの?」紀美

「ふっ…おかえり。いい気なものね」葵

微妙な空気に全員が気まずくなる。

「…さぁ!もうすぐ開店時間だから仕度しましょう!ほら、急いで急いで!」梅

「は〜い」音子&莉々

若い女は私情を持ちこむ。
若ければ若いほど…
可愛ければ可愛いほど…
その女に纏わりついた面倒な人間関係で、周りの人まで振り回す。

別に彼女達が悪いわけじゃない。
ただ、その存在が
過大評価された必要性が
周りの人に影響を及ぼしてしまうだけ…

その夜…
紀美は屋敷を抜け出し、カケオチした。


「どこ行く?」小丸
「どこか遠くへ…」紀美

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ちょっと〜!紀美ちゃんいなくなっちゃったわよー!」純

「あわわ…あわわ…」梅

「まだ、そんなには遠くに行ってないでしょ。音子、走ってくれるかい?」麗子

「はい、わかりました!」音子

「悪いんだけど、葵も連れて行って」麗子

「なんでアタシが!?」葵

「アンタ仲間だろ。それと音子…(ゴニョゴニョ)」麗子

「…わかりました」音子

麗子に何か耳打ちされた音子は、店を出て愛馬にガソリン(飼葉)を食わせ、ある荷物を受け取り出発の準備をした。

「じゃ、葵ちゃん乗って!深夜のタンデム楽しんじゃおうぜ!」音子

「な…なによ。別に楽しくなんでないでしょ…人探しなんだから…」葵

「行先なんて無いに等しい、全ては風の向くまま気の向くまま……行くよ、ネネ!」音子

「ヒヒーン!」ネネ

ネネは二人を背に乗せ、夜の街を飛び出した。
どこに行くかなんて知ったこっちゃない、ただ走りたいだけ。
野を越え山を越え、しばらく走ったところで音子はネネを空き地へととめた。

「ふ〜夜風が染みるね!」音子

「ちょっと!ここどこなの?!紀美のとこに行くんじゃないの?」葵

「まあ、少し話そうよ。座って…」音子
 
「なに?…」葵

「葵ちゃんさ〜地元どこ?」音子

「はっ?…相模の国(神奈川)だけど…」葵

「そっか…行けるな」音子
 
「ちょっと、何なの?!」葵

「葵ちゃん、戻りたい?」音子

「えっ……」葵

「屋敷を乗っ取ろうと思って派遣されてきたんでしょ?」音子

「……」葵

「でも、店に変な男来て、紀美ちゃんがバックれて紫緒ちゃんと二人になって…」音子

「だから何?」葵

「紀美ちゃんは、なんで逃げたのかな〜?」音子

「そりゃ、男を取ったんでしょ!」葵

「それだけ?違うでしょ」音子

「なに分かったようなこと言って…」葵
 
「上手く屋敷を乗っ取れても、先にあるのは地獄しかないからじゃないの?」音子

「知ったような口聞くな!」葵

「アタシ、まだ少ししかいないけどさ…なんか君達見てると悲しくなる」音子
 
「は?」葵

「屋敷の姉さん達って、実は男でしょw なのに君達よりも女らしくて気を使ってて、可愛げがあってキラキラして見えるんだよ。」音子

「なに、それ…」葵

「わかんないかな〜?たぶん、君達は女って事にアグラかいてるっていうか…女である事をおろそかにしてるっていうか…」音子
 
「うるさいよw」葵

「うん。ありのままで女の子でいられるものね…アタシ達からしたら羨ましいことなのよ。でもね、輝いて見えない。」音子

「輝くって…」葵
 
「だってさ〜顔が暗いもん。三人共」音子

「わかってるよ…」葵

「うん…」音子

「わかってるけど、仕方ないじゃん!どこにも逃げれないんだもの!」葵

「なんで?」音子

「親に売られて、吉原で男の相手させられて、逃げようとしたら殺すって脅されて!」葵

「……」音子

「アンタみたいな奴にコッチの気持ちわかんないでしょ!」葵

「わかんないよ、でもさ…逃げればいいでしょ」音子

「どこに…」葵

「どこでも行けるよ。今がチャンスだよ。」音子

「そんなこと言ったって…」葵

「麗子さんに言われたんだよ、逃がして来いって」音子

「えっ?」葵

「ほら、葵ちゃんの荷物も持たされたよ。」音子

「本当に…?」葵

「たぶん、三人はアソコにいても殺されるみたいな話も聞いたし…」音子

「クソっ…」葵

「女の子がクソとか言わないの!笑」音子

「決めた!家に帰る」葵

「地元?」音子

「うん、それで親ぶん殴ってやる」葵

「お好きにどうぞ…」音子

「いっぱい殴って、叩いて、泣いて…」葵

「……」音子

「一回だけ抱きしめてもらう」葵

「…そうだね」音子

「あとは、どーにでもなれ!」葵

「行こうか!相模の国へ」音子

「ヒヒ〜ン!!」ネネ

子は捨てた親を恨む
だが、心から引き離す事は出来ない
許せない気持ちを癒やして欲しいだけ
孤独に苛まれた心を癒せるのは、愛だけ

さよなら紀美
さよなら葵

あとは紫緒
君はどうすれば輝ける?

続く…







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