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淫魔屋敷・陸話

〜淫魔呑処〜

「まいったわね……」麗子
「全然、お客さんこな〜い…」純
「どこの店もそうみたいですね…」梅

我々、現代人の記憶にも新しいだろう。
得も言われぬ流行り病が人々を襲うと、誰しもが萎縮して遊びになど出ようなどとは思わない。
コロナ禍ならぬ、コロリ禍がこの時代にもあった。

「今日もお客さん一人だけか〜」純
「えっ?お客さんいるんですか?」梅
「華恵のとこに来てるよ」麗子

華恵さんはスレンダーな美人で、男からも女からも好かれそうな方。
優しい笑顔と切れ長の瞳の奥には、どことなく哀しげな雰囲気が感じ取れる。

「毎日来てるよね!華恵に会いに〜w」純
「へぇー!スゴイw」梅
「良いんだか悪いんだか…」麗子

〜華恵の部屋〜

「キレイだよ…華恵」男
「…ありがとう」華恵
「ずっと一緒にいたい」男
「ワタシも…」華恵
「こないだの話、考えてくれた?」男
「…うん。」華恵
「来てくれるかい?」男
「もう少し待って…」華恵
「…わかった」男
「ごめん……、ねぇ…」華恵
「ん?」男
「……愛してる」華恵
「ふっ…俺も愛してるよ」男

二人は抱き合った。
毎日毎日、互いの想いを確認するように…
華恵には彼が必要だった。
そして、彼にも…
 
「さぁ、そろそろ行かないと…」男
「うん、また…来てね」華恵
「あっ、花代…」男
「いらない…」華恵
「君は僕から一度も受け取らないね」男
「好きだから……」華恵
「華恵……ありがとう」男

二人は別れを惜しむように身を寄せ合う。
何度もキスをかわし、
何度も抱き合い、
そして、何度も見つめ合った。

「お麗…何か不満なの?」純
「…ん、ちょっとね…」麗子

麗子は男の素性が気がかりだった。
男は竹中組という組織の頭を務めている。
この竹中組は色々と手広く商売をしており、吉原で遊廓も経営している。

「お客様おかえりです」華恵
「ありがとうございました、またお越しくださいな〜」純
「……(ニヤッ)」竹中
(ガラガラ…ピシャン)戸が閉まる。

「……なんか笑ってましたね」梅
「私見てニヤついたね…」麗子

この男の商売の仕方は、従業員に対し最初はオイシイ良い話しかせず、いざ働いて不平不満が出ると色々な面から脅し洗脳して、最終的に奴隷の様にこき使うと噂が絶えない…

詐欺師の香り漂う、この男の名は…
竹中平蔵、御年60過ぎのオッサンだ。

そして…また、淫魔屋敷に不穏な陰が…


「お晩でやんす〜」謎の女形

「は〜い、いらっしゃいまし〜」純

「淫魔屋敷ってのは、こちらでよろしおすか?」謎の関西弁

「はい、あなた様は?」麗子

「わっちは、上方(関西)から来た女形のマリコーンと申しますどぇ」マリコーン

「マリコーンさん…?」梅

「はい、なんだか江戸でも上方の陰間商売の真似事して稼いでるって聞いたもので、一つ勉強にと思い、遠路はるばるやってきたってわけですわ」マリコーン

「それはご苦労さまで〜す」純

「マリコーンさんは向こうで女形を?」麗子

「もちろんどすぇ。舞踊に三味線、お琴に笛と…殿方の御相手も若いものには負けませんよってに。笑」マリコーン

「へぇー、凄いですね!」梅

「このマリコーンって源氏名もハイカラでっしゃろ。上方では南蛮の外人さんも多くいらっしゃるよってに、キリシタンさんにつけてもらった聖なる名前ですねん」マリコーン

「性なる名前…」梅

「呼びづらければマリコでええで」マリコ

「じゃあ、マリコさん。みんなに紹介がてら上方の素晴らしい舞踊などを教えて下さいな。上の座敷へどうぞ」麗子

「今日は疲れてるから、ひとまず休ませておくんなまし。指導するのは明日でええやろ」
マリコ

「まぁ、それもそうですね〜……梅ちゃん、使ってない部屋に案内してあげれば?」純

「あ、はい。それではコチラへ…」梅

マリコーンは突然あらわれ、突然休んだ。
上方からの使者は、この屋敷にどんな旋風を巻き起こすのだろう…

〜翌日〜

「おはようございます、あれ?お蜜ちゃんだけ?」梅

「おはよう、梅さん。皆んな昨晩来たマリコーン?って人の舞を見てるよ」お蜜

「そっかそっか、なんか凄い人みたいね」梅

「……いや、あれは…ないな〜」お蜜

「えっ?ベテランさんなんでしょ?」梅

「ん〜…さっき少しだけ拝見したけど、流派?とか所作とかメチャクチャだし…本人は外人向けとか言ってるけど…」お蜜

「え〜…そうなんだ…」梅

「多分、明日にはいないと思うw」お蜜

「はは…」梅

〜しばらくして…〜

「あ〜期待損だったわ〜」麻子
「なに?あの変な踊り…」舞
「マジで三味線なめてるよ」久美
「尺八は本当に舐めてたw」加代
「お琴は弾きもしなかったね」華恵
「マリコーンって名前……変よねw」純

「マリコさんは荷物まとめてもらって、今日中にお暇していただくから」麗子

「私も見たかったなw」梅

「もっと良いもの見といで、今日は吉原の花魁道中だよ」麗子

「あー!行きたい!行こ行こ!」舞

「お蜜ちゃん…行く?」加代

「うん…野風さんって人、見てみたい」お蜜

「そうだよね、元気になったかな…」梅

「よし!そうと決まれば皆で行こう」麻子

「なんか外出るの久しぶり〜」華恵

「アンタいつも部屋で「あの人」とチチクリ合ってるからでしょw」久美

「乳…クリ…って!クリは無いわよw」華恵

「ほら、いいから行っといで。私はお客さん来るし留守番してるから」麗子

「お客さん?あ〜…w」純

淫魔衆一同は麗子を残し、吉原へと物見に出掛けた。

〜吉原道中〜
 
「すっごい人だかりだね〜!」舞

「どこ?花魁どこ?!」麻子

「お稚児さん可愛い〜!」加代

「綺麗な着物だね〜」華恵

「竹中さんに買って貰いなよw」久美

「あっ!見て、花魁さんだよ!」梅

「素敵……」お蜜

「お蜜ちゃんも着付けしてもらえば、あのくらい可愛くなるよ」純

「いや〜…そうかな〜w」お蜜

「え〜と、野風さんは…」梅

「もっと後ろの方ですかね?」お蜜

「かもね…ちょっと先回りして行ってみる?」梅

「うん、早く会いたいです!」お蜜

「すいません、ちょっと後ろの方に行ってきますね!」梅

「迷子にならないように気をつけてね〜」純

私とお蜜は野風を探し、人をかき分け行列の後方へと足を進めた。

「この辺が最後の列かな…」梅

「梅さん…あの人…凄い綺麗」お蜜

「あっ!あの人…野風さんだ」梅

病床にふせていた時より、少しだけ元気を取り戻したようで、私は胸を撫で下ろした。

艶やかな着物ではなかったものの、存在感は別格。
吉原にこの人あり、といった風貌だった。

「話しかけづらいね…」梅

「一目見れたから…大丈夫です」お蜜

すると、野風が私に気づいて声をかけてくれた。

「アナタは、あの薬をご所望にいらした…」野風

「はい!ご無沙汰しております。その節は大変失礼いたしました」梅

「いえ、こちらこそ何もできずに…そちらのお若い方は…」野風

「はじめまして、お蜜と申します!」お蜜

「あの時、薬をお譲りいただいて元気になりました。私達の仲間です」梅

「まぁ〜ー!それはよろしゅう御座いました。ワチキもこうして何とか歩けるようにはなったでありんすのよ」野風

「良かった〜!とてもお綺麗です」お蜜

「アナタのような若い方に言われると照れますわね。でも、病み上がりですので花形は若い娘に任せて、今日は末席のお勤めでありんすのよ」野風

「そうでありんすか〜」お蜜

「白いお着物もお似合いですよ」梅

「死に装束みたいでしょw」野風

「アーメンw」お蜜

「こらっ!w」梅

「ふふっ…w ほんに元気になられたようで、薬が合ったようですね」野風

「ペニスチン!」お蜜

「ペニス…?ちん?」野風

「そうでごわす、ペニスとチンコを飲んだでごわす」お蜜

「あーーっ!と、ちょっと後遺症が出てるみたいです…お蜜ちゃん、シッカリして」梅

「後遺症…?」野風

「また、遊びに行かせていただきますね!
お忙しところお邪魔しました!」梅

「さらばでごわす!」お蜜

「…ごわす」野風

〜路肩にて〜

「お水飲んで、お蜜ちゃん」梅

「(ゴクゴク)ふ〜」お蜜

「大丈夫?」梅

「ごわす出ちゃいましたね…」お蜜

「まぁ、お蜜ちゃんもまだ本調子じゃないから…後遺症は出るよね…」梅

「後遺症がごわすって…何で?」お蜜

「濃すぎたのかな…まぁ、じきに良くなるよ!皆のとこに戻ろうか」梅

私達は元の来た場所へと歩いて行った。
とても混んでいる花街、人々が華やいでいる中で私は目にしてしまった…
一番見たくないものを見てしまった。

私を地獄に落とした奴らの姿を……

続く…

ぺにす…ちん?









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