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淫魔屋敷・拾七話

卑猥な街に花月が照らす月夜を
闇の魔物が漆黒の帳を降ろす。

今宵、この街に何かがおこる…

〜淫魔屋敷〜
「三人共おかえりなさ〜い!」お蜜

久しぶりに舞、麻子、加代の三人が揃って帰ってきた。

「よく戻ったね…」麗子

「バカ…心配したよ!(グスっ…)」久美

皆が帰ってきた三人を労う。

「ちゃんと取り返してきたよ〜!」舞

「わりとキツかったけどね…笑」麻子

「麗子さん、これ百両あります」加代

加代は麗子に取り返した金を渡した。

「これはさ…おまえ達で分けな」麗子

「なんで?!元は屋敷の金ですよ!」舞

「こっちはこっちでキチンと稼いださ、その金はアンタら三人の報奨金だよ」麗子

「そんな…アタシら屋敷のためと思って自ら言い出して行かせてもらったのに」麻子

「嬉しかったよ本当に…ありがとうね」麗子

「いや…それは…」加代

「いいじゃん、もらっときなよ〜私、買いたい物が出来たら貸してもらうから〜笑」純

全員がその金銭授与を受け入れるほど、三人の苦労は目に見えて分った。

見るからに痩せこけ、髪も艶がなくボサボサで、着ていた着物は色褪せ擦り切れていた。

「とりあえず湯でも浴びておいで、上がったら一杯やろうじゃないか!」麗子

「新人さんも入ったんですよ〜!」お蜜

「そうだ!紹介しなきゃね!」久美

少し懐かしい顔に、新しく入った顔ぶれで屋敷は賑やかな夜を過ごした。

皆が笑顔で楽しげに、男だらけの女子会は飲めや踊れや大騒ぎとなった。

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〜吉原・竹中組〜

「おい、馬之助」竹中

「へい、何でしょう?」馬之助

「紫緒に火口とおが屑を持たせろ」竹中

「…放火ですかい?」馬之助

「屋敷を火の海にしてこさせろ」竹中

「わかりやした…」馬之助

「それと、鹿衛門」竹中

「へい」鹿衛門

「華恵を殺れ」竹中

「…わかりやした」鹿衛門

「アイツらは俺を怒らせ過ぎた、大人しく奪われてりゃいいものを…」竹中

「首掻っ切って、屋敷まで紫緒に持って行かせますか?笑」馬之助

「…好きにしろ」竹中

竹中は紫緒に屋敷への放火と、華恵の処刑を命じた。

不穏な空気が吉原を包み込み始めた…

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〜深夜の屋敷〜

(ゴソゴソ…)

「ちょっと、麗子…」純

「な…なんだい?」麗子

「どこ行くの〜?」純

「あっ…ちょいと買出しにね」麗子

「……そんな格好で?」純



お出掛け麗子さん


「どんな格好でもいいじゃないか!」麗子

「行くんでしょ、華恵のとこ」純

「……みんなには、黙っておいて」麗子

「うん、分かった。
(大声で)
 ねぇーーー!みんなーーー!
 麗子、討ち入り行くってよーーー!」純

「えっ?!やっぱり〜!」全員

「バカ……」麗子

「ウチらも行く〜!」久美

「何で誘ってくれないの〜!」舞

「麗子さん、やる気満々じゃんw」麻子

一人で竹中組に殴り込もうとした麗子を、全員が揶揄した。

「まったく…新しい子もいるから、私だけで行くつもりだったのに…」麗子

奥から音子と莉々が顔を出す。

「心配しないで下さい。私達も仲間なので」音子

「ちょっと位の見張りならできるかなと…」
莉々

「ほんとに……」麗子

さっきまでヘベレケに酔って騒いでいたとは思えないくらい、全員が生き生きとした表情をしていた。

「仕方ないね…分かったよ
 みんな覚悟はいいかい!」麗子

「おー!」全員

「必ず、華恵を救い出すよ!」麗子

「おーーー!」全員

「ひよってる奴…いねぇーよなぁー!」麗子

「ピヨピヨ…ピヨピヨ…」加代&お蜜

「あら、ヤダ…可愛いひよこちゃん♡」純

「この親鳥麗子についてきな!行くよー!」麗子

大切な仲間を取り戻す為、屋敷の住人達は街へ飛び出した。

「梅、悪いけど屋敷に残ってくれるかい?」
麗子
 
「はい…行って足手まといになってはいけませんし、私は屋敷を見張ってます!」梅

「また、悪いやつが来ないともかぎらないしね…頼んだよ!」麗子

「はい、お気をつけて!」梅

絶対に…
絶対に…
助け出す。

夜に輝く天使たちは、忠義の騎士へと姿を変え、仲間の待つ家城へと歩を進めた。
 
みち満ちた月が彼らを照らす…

「綺麗なお月さんだね…」麗子

お月さまは、いつも見てる。
私等みたいな日陰に生きてる連中を、
いつも上から見てくれてる。

誰にも見られないように、
そっと家を出るときも…

人目につかないように、
こそこそ歩いているときも…

物陰に隠れて、
変なことをしているときも…

男を呼んで、
いやらしい事をしているときも…

褒められて、
恥ずかしがっているときも…

おだてられて、
調子に乗ったときも…

自信を無くして、
落ち込んでいるときも…

馬鹿にされて、
泣いているときも…

全部、全部お月さまは見てる

今夜の事もきっと見ているだろう

煌々と照らす月の光が、必ず彼らを導いてくれる…

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〜蔵〜

暗闇の中、紫緒と華恵が小声で話をしている

「アンタ、屋敷から来たのかい…」紫緒

「そう…騙されちゃってね…」華恵

「ここは屋敷と違って酷いところだから…」紫緒

「屋敷の事、知ってるの?」華恵

「うん…少しね…」紫緒

「帰りたいな…」華恵

「………そうだよね」紫緒

「私に憑いてる人達も、皆帰りたいって言ってる…」華恵

「え?憑いてる人?」紫緒

「うん。ここで殺された人達…」華恵

(ガタッ…ギィー…)
蔵の扉が開く。

馬之助と鹿衛門が暗闇の中の二人に近づく。

「紫緒、竹中さんからの御達しだ…」馬之助

「あっ…はい…」紫緒

「これを使って屋敷に火をつけてこい」馬之助

馬之助は火口とおが屑を紫緒につき出した。

「えっ…そんな…」紫緒

「これをしくじったら…分かってるんだろうな」馬之助

「可愛い坊やが泣いて待ってるぜ…」鹿衛門

これをやらなければ紫緒も幼児も殺される。
紫緒は華恵を目の前にして、断腸の思いでうなづいた。

「わかりました……」紫緒

隣りにいた華恵は震えていた。

「おい、華恵!お前はこっちに来い!」鹿衛門

鹿衛門は刃を抜き、華恵の襟首を掴んだ。

「……くっ…くくくっ…」華恵

「なに笑ってやがる?気でも触れたか!」鹿衛門

肩を揺らしながら不気味に笑う華恵。
その周りには、くぐもった声や霧のような煙が立ち込めていた。

「もう終わりにしろってさ…お前らを好きにさせるのは…」華恵

「なんだ、こいつは…」鹿衛門

「お前ら殺した連中は、それで終いと思ってるだろ…」華恵

「おい、下がれ…!」馬之助

ただならぬ妖気を感じた馬之助は鹿衛門を華恵から離そうとした。

「ここで後悔や無念を感じて殺された人達は……怨念と執念に形を変えてお前ら二人に会いに来てるよ」華恵
 
「こ…こいつら…」鹿衛門

「困ったもんだね…ほら…見えるかい?私に教えてくれるんだよ…自分がどうやってお前らに殺されたかを…」華恵

華恵は淡々と語り始めた。

「この娘は裸にされて宙づりのまま刺されたのかい…ちょっと客の前で粗相をしただけで…」華恵

「アンタらは三人で逃げ出そうとしたところを見つかって殺られたんだね…」華恵

「アンタは……そうだよね…病になって…知ってるよ…辛かったね…」華恵

思い当たるフシのある二人は動揺していた。

「くそっ!何なんだ?!気味の悪い!」鹿衛門

「うんうん…痛かったよね…同じ目にあわせたいよね…もう、我慢しなくていいよ」華恵

その瞬間、華恵にまとわりついていた怨念達が一斉に襲いかかった。

「やっ…やめろ!」鹿衛門

鹿衛門は怨霊達に取り囲まれた。

「くそっ!お前らなんかに……兄弟!助けてくれー!」鹿衛門

「ちっ…死んだ連中に殺られてたまるか!」馬之助

馬之助は鹿衛門を見捨て蔵から逃げ出した。

「今だ……」紫緒

それを見た紫緒は、人知れず蔵を出て屋奥の物陰に隠れた。

「もう…終いにしようね。どの道こんな所があったんじゃ、誰も幸せになんかなれやしないよね…」紫緒

紫緒は、火付け石を強く打ちつけおが屑に火花を放つ。

「今夜は綺麗なお月さんだ…この館も最後くらい華々しく輝かないとね…」紫緒

種火がついた木片を軒下に移す。

「燃えろ…もっと大きく…」紫緒

火は少しずつ軒下の支柱に広がってゆく。

「坊や…今、迎えに行くからね…
 坊や…アタシの坊や……」紫緒

続く…


 




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