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淫魔屋敷・拾八話

〜吉原への道すがら〜

「ねぇ…なんか、あっち燃えてない?」久美

「火があがってる…あそこって竹中組の遊廓じゃない?!」加代

「嘘でしょ……」舞
 
自分達が向っている目的地が燃えている事に、唖然とする一行…

「急ぐよ!」麗子

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〜吉原・竹中組〜

「坊やー〜!坊やー!どこにいるんだい!」紫緒

館内を駆けずり回り、我が子を探す紫緒。

「わ〜ん!わ〜ん!」幼児

遊女達の待機室から子供の泣く声がする。

「坊や?!今行くからね!」紫緒

だんだんと煙が立ちこめてきた館内は、何人もの遊女達が右往左往して互いにぶつかりあい、パニックを起こしていた。

「邪魔だよ!どきな!」遊女

「ごめん…早く…早く逃げて!」紫緒

この火災を起こしてしまった責任を感じ、遊女達に道をゆずる。

自分と我が子がココから逃げ出す方法は、これしかなかった…
混乱に乗じて子供を見つけ、二人で逃げれば幸せが待っている。

魔の手から解放されると信じて…

「ここにいたんだね…坊や」紫緒

「わ〜ん!わ〜ん!」幼児

「よしよし……お母さんと一緒に行こうね…」紫緒

我が子を抱え、急いで部屋から出ようとすると背後に奴があらわれた…

「テメェ…やりやがったな…」馬之助

「ふっ…アンタがあんな物渡すからだろ!」紫緒
 
「ぶっ殺してやる…」馬之助

「いやぁーー!!」紫緒

紫緒は子供をかばい馬之助に背を向けた。

それを馬之助は容赦なく後ろから斬りつけた。

「けっ…放火魔が…自分でつけた火に巻かれて死んどけ…」馬之助

「坊や…平気かい…坊や…」紫緒

そこに竹中が慌て顔で入って来た。

「一体どうゆうことだ!」竹中

「こいつが火を放ったんですぜ」馬之助

「クソ女が!もういい、金だけ持って逃げるぞ!」竹中

「へい…おい!紫緒、お前は坊主とここでネンネでもしとけ!」馬之助

竹中と馬之助は紫緒を置きざりにし、館内から脱出した。

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〜蔵〜

「もう……やめ…て…くれ…」鹿衛門

怨霊に精神を貪り食われ、もはや人の心を失いつつある鹿衛門は必死に懇願していた。

「華恵……た…すけ…ろ…」鹿衛門

縋りついてくる鹿衛門の手を払いのけ、華恵は遊女達にすり寄った。

「アンタ…散々、人の命を奪ってきたくせに…ここに居る女達の前で、よく命乞いなんかできるね!」華恵

「殺せ…早くころせ…」鹿衛門
 
鹿衛門は激しくのたうち回り、自ら外にある焼却炉へと突っ込んでいった。

「怖い…」倒れている遊女

「大丈夫だよ…私がなんとかしてあげる!」華恵

すると表から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「華恵ー!どこだー!」麗子

「助けに来たよ〜!」純

仲間の声がする…
来てくれたんだ!

「ここの蔵だよ!早く来てー!」華恵

麗子達は蔵を見つけ、中に入って来た。

「華恵……なんてところに…」麗子  

「麗ちゃん…ごめん……」華恵

「謝ってる場合じゃないでしょ!逃げるよ」純

「この娘達は…?」加代

「ここで酷い仕打ちにあってきた娘達だよ」華恵

「……みんな連れてくよ!」麗子

「遊廓にも火は燃え移って来てるよ!さぁ、急いで!」久美
 
一人が一人ずつ遊女達を背負い、蔵から逃げ出した。

火は建物の中ほどまで燃え移っていき、全焼は免れ無い様子だった。

外は野次馬と火消し衆でごった返している。

「紫緒…あの子は…」華恵

「どうしたんだい?まだ誰かいるのかい?」
麗子

「まだ紫緒が……行ってくる!」華恵

華恵は、まだ火の手が及んでない館内へ戻って行った。

「ちょっと!華恵!」久美

正面口から館内へ入る華恵と入れ違いになるように、左隅の勝手口からコソッと二人の男が出てきた。
竹中と馬之助だ。
それを麗子は見過ごさなかった。

「あいつ…」麗子

「麗子さん!華恵どうすんの?!」麻子

「華恵だって馬鹿じゃないよ、ちゃんと生きて帰るさ…あんた達は女達をアノ医者のとこに連れて行ってやりな。手の空いてるのは火消しを手伝うんだよ!」麗子

「わかった、仁さん所に行こう。みんな付いてきて!」加代

「アンタはどうすんのさ!」純

「アタシはちょいとケリつけて来るよ…音子!アタシをネネの後ろに乗せて!」麗子

「は、はい!」音子

麗子はネネに飛び乗り音子の後ろに跨がる。

「あっちに走って!みんな頼んだよ!」麗子

音子は麗子を乗せ、颯爽と走り出した。

「大丈夫かな…アタシはココで華恵を待ってるよ」麻子

「わかった、じゃあ私達も行くね」久美

着々と燃え広がる炎を前に
全員が助かるために
全員を助けるために
命をかけて行動していた

自分よりも大切な人を守る為に…

〜遊廓内・待機室〜

「よしよし…困った子だね…、まだ…おっぱいが恋しいのかい……」紫緒

煙が充満する室内で、泣きわめく我が子を静めるように半裸で子を抱きかかえ、乳をあげる紫緒の姿があった。

「もう…大丈夫だからね……おかぁと一緒に楽しいとこに…、行こう……ね……」紫緒

意識が朦朧とする中、紫緒を呼ぶ声がする。

「紫緒ちゃん!」華恵

「ん…、アンタ…まだ、いたのかい…?」紫緒

「子供?!それに、酷い傷も……とにかく早く!逃げよう!」華恵

「華恵…アタシ…もう…動けないよ…」紫緒

「ちょっと…この子どうすんのさ?!」華恵

「可愛いだろ…アタシの子…名前もつけてないんだ…すぐに引き離されたからね……」紫緒

「これから名前つけてあげようよ!これからでしょ!母子で…一緒に…ねぇ……」華恵

「アンタの……仲間…いいね…」紫緒

「私の仲間?…」華恵

「うん…この子…頼めないかい…アンタらとなら…楽しく……生きれ…る…」紫緒

「紫緒!なに言ってんの!ねぇ!」華恵

「元気でね……坊や…」紫緒

紫緒は小さな命を華恵に託した。

自分みたいな人生は送って欲しくない、子供には明るく楽しい未来が待ってると信じて…

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〜街外れの竹林〜

「ふ〜ここまで来れば大丈夫だろ」竹中

「へい…ん?あそこに一人ウチの店から逃げ出した女がいますぜ」馬之助

「ほ〜捕まえてこい。どうせ使い捨ての女だ、ムシャクシャしてるから、少し遊んでやろう…」竹中

「おい!待ちやがれ!」馬之助

馬之助は火事から逃げてきた遊女を追いかけ捕まえた。

「堪忍して下さい!戻りますから…」遊女

「こっちに来い!手籠めにしてやる」竹中

その時、急な疾風と共に一頭の馬が馬之助の頭上を駆け抜けて行った。

「な…なんだ?」馬之助

馬から一人の侍が飛び降りる。
間髪入れず、竹中の下に駆け寄り首元に刀を這わせた。

「久しぶりだね…クソジジイ」麗子

「この……オカマ野郎が…」竹中

「その大事そうに持ってる包はなんだい?」麗子

「う…うるさい!お前には渡さん!」竹中

「ふふ…じゃあ奪う」麗子

麗子は竹中の持つ小包をはぎ取り音子に投げ渡した。

「それ、みんなの向かってる医者のとこに持って行ってくれるかい?こいつが無理させてボロボロにした女達の治療費だって」麗子

「おい!ふざけるな!」竹中

「ふざけてなんかないよ…お前だろ、ふざけてんのは」麗子

「おい、馬之助!やれ!」竹中

「テメェ!舐めんじゃねぇぞ!」馬之助

馬之助が麗子に斬りかかろうとする。

そこを音子がネネと割って入り、脚で蹴り飛ばした。

「つっ〜…邪魔しやがって…」馬之助

「アンタ、馬之助って名かい?馬の風上にも置けない奴だね…」音子

ネネが馬之助の背中を蹴飛ばす。
何度転んでも、何度も起き上がっても、ネネは馬之助を蹴り飛ばす。

「ちきしょー…こんな連中知るか!
 おい、女!行くぞ!」馬之助

馬之助は這々の体で女と竹林の奥へと逃げ去った。

「おい!俺を置いていくのか!」竹中

子分に見捨てられた竹中は狼狽していた。

「音子、アンタは行きな」麗子

「わかりました!」音子

音子は包を持って竹林を抜け、街へ戻って行った。

「どうだい気分は?遊廓は燃え、女は逃げ、子分にも捨てられた竹中さんよ…」麗子

「どうしようってんだ…お前ごときが」竹中

「まぁ、そう威張るなって。もう、他に誰もいないんだから…」麗子

麗子は竹中の背後に周り、両手を後ろ手にし着物の帯で手首を縛る

「せっかく二人きりになったんだ…ゆっくりと話そうじゃないか…ふふ…」麗子

続く…








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