メタモルフォーゼのゲレンデ
最近話題となった芦田愛菜さんと宮本信子さんのダブル主演映画『メタモルフォーゼの縁側』。今回はこの映画の題から拝借。女子高生のうららと75歳の雪さんが漫画を通じて変化していく様を描いた映画だ。
実は私も似たような経験がある。
その話を綴りたい。
私は小学生の頃から冬はスキー、それ以外はバドミントンと、二足の草鞋を履いていた。
当時高校生だった小娘は、自分のホームゲレンデに、一人で通っていた。基本的に部活がOFFの土日は日帰りで、年末年始や入試休みは泊まりがけで1週間程のような形でだ。
宿泊先は基本いつも同じで、小娘が所属しているスキースクールの系列の山荘に泊まっていた。知った顔ぶれがいつも宿泊しているのだが、ある時自分の祖母世代の女性と同室になり、何日間かを一緒に過ごした。その女性は『ヒロ坊』と名乗った。そのヒロ坊が、かなりパワフルで、常に声を上げて笑うから、こちらまで楽しくなってしまうような、パワースポットみたいな人だ。
小娘16歳、ヒロ坊70歳。
滞在した山荘で、最年少と最年長が同部屋で過ごしたのだ。なんとも不思議な空間である。
小娘とヒロ坊はゲレンデから帰ってくると、一緒に食堂で食事を取り、食後のおやつ等を一緒に部屋で食べ、女子会をした。
普段の生活の話から、スキーでの技術を向上したいという、同じ目標を共有して、滑り方などを思いのままに話すこともあった。
そこで私が一番覚えているのは、ヒロ坊の身体についてだ。
朝食や夕食の後、ヒロ坊は必ず薬を服用していた。スキーをやっているくらいだから、健康ではあるのだろう。そう思っていた。しかし…
話を聞くと、実は医師からスキーをすることは止められていると言う。いわゆるドクターストップだ…
それでもヒロ坊は、スキーをしたいという思いが強く、続けているのだと熱く語った。
後で私のコーチに聞いたら、コーチもヒロ坊の病気のことは知っているようで、過去にレッスン中に倒れてしまったらしい。それから、どこに薬が入っているとか、応急処置方法について、本人から聞いてあるのだとか。
まさに命懸けである。
そこまでしてでもスキーをしたい。というその気持ちに感服した。私にはそこまでのハングリー精神がなかったため、とても恥ずかしくなったのをよく覚えている。
実は小娘はその3年後、スキー中に転倒し手術をする怪我を負った。その話はまたにするが、その時にヒロ坊のあの力強さを思い出し、辛いリハビリを乗り越えることができた。
その後ヒロ坊との生活を終えて、彼女に再会することはなかった。あれから彼女はどうしているのだろうか。
ヒロ坊、どうか元気にいてください。
あなたとの短い生活は一生忘れません。
そしてあなたのハングリー精神を私が引き継げるように、精一杯生きていきます。
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