主殿大殿 (プロローグ)

美。輝かしいものだ。それを見るといと苦しきこと。それを抱ける男女誰であろうと嫉妬で苦しむ。涙さえ余は流す。
わしにはなりえない。そうなりたいのに。美を作り出す者、輝かしい者を呼ばせても虚しいのだ!耽美は出来ぬ!その美しさを美しさに、余がなりたいのだ。輝かしい者になりたいのだ!

あれを見よ。あの踊り子を。断髪の美しいこと。
あの美しさ。清らかさ。輝きだ。あの髪になりたい。その一本でもよい。
あぁなりたい。美しくなりたい。輝かしい者に!

死さえ、この嫉妬の苦しみに比べれば軽くすら感じる。
誠に、虚しいのだ。天は余に何も与えず・・。
死して美しく、輝けるなら、いくらでもくれてやろうぞ、この命。消え行くものに美しさを与えてくれ・・。

――――――――――
去る十三日主殿王(ママ)殿御逝去の報を出す。「五月十五日主殿大殿去十三日午後十六時御逝去之事。」民皆驚愕。
――――――――――

どんなに言おうが、無駄なのです。虚しく・・。
それでも、呼びかけるしかないのです。
家親卿、家親卿、主殿様、主殿様、あぁ、この上なき方!武家の棟梁!それなのに、それなのに、悲しい、虚しい、そんな思いを浮かばせるしか有りませぬ。主殿様、ただ死して輝けるなるものなど有りませぬ。生きて、苦しみ、傷つき、そして輝けるものなのです。こういわれても主殿様は否定なさるでしょうが。
主殿様、悲劇でしかありません。私は泣くしかありません。主殿様・・。


主殿大殿家親卿は南堂にて祀られておられる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?