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降水確率0%の通り雨4《君の雷雲 僕の離脱性体質》7

「この子が」
「はい、様々な調査、検査をいたしましたところ、この子が姫の鏡面体で間違いありません」
「そうか、探し出せたか」
どこだろう、ここは。父にこの男についていくように言われて、連れてこられた先は、大きなお城だった。
「たける様、この方は」
「私から話そう。こんにちは、たける君といったね」
「はい」
「君には不思議な力があるんだってね」
「ただの、おまじないです」
「実はね、私の娘が病気でね、君のそのおまじないの力で治してやってほしいんだ。」
「でも、僕の、」
「お願いできる、よね?」
にっこりと、お願いのはずなのに拒否はさせない、そんな口調だった。
「さ、おいで。ん?そっちの子は?」
びくっ、蛇ににらまれたカエルのように門脇は動けなくなった。
「たける様の乳母の子で付き人をしています。時空転移の能力者です」
男が説明する。
「ふ、ん、使えるかもしれないね、君もおいで」

いくつかの回廊を抜け、中庭にたどり着いた。
「さ、私はここから先にはいかない。あそこに娘がいるから仲良くしてやってくれ、じゃあね」
「あ、」
女の子の父の姿は消えてしまった。
指さされたところを見ると、白銀の光がうずくまっている。
たけると門脇は目を見交わしてうなずくと、恐る恐る近づいていった。
白銀の光は女の子で、黒い何かを両手で握りしめて泣いていた。
「あの、、」
女の子がこちらを見る。青い澄んだ目、その目に一杯の涙。
「あの、、」
「来ちゃダメ、」
女の子が叫ぶ
「だめよ、この子のようにあなたも黒くなる、だから、、」
そういって、ますます激しく泣き出してしまった。
「ねえ、それ何?」
女の子が手に持っているものを指さす。
「竜よ」
「竜?」
「白い竜だったのに黒くなっちゃったの。みんなそうなの。だからあなたも来ちゃダメ、黒くなっちゃう」
「ちょっと見せて」
「ダメ」
「いいから」
女の子からその黒いものを受け取ってじっと見る。気が止まっている。ならば、
「生々流転」
つぶやくと、竜はだんだんと白くなり、やがて白銀色に輝きだした。
「ほう」
後ろで、さっき消えたはずの男の人の気配を感じる。何だか、薄ら笑いがみえるようだ。そう思ったのだけれど
「うわー、銀ちゃんが戻ったーーー」
目の前で大喜びしている女の子を見ているうちに、そんな思いも忘れてしまった。
「銀ちゃん銀ちゃん!ね、あなたすごいのね。今まで誰にも治せなかったのに、あなた誰?」
「僕はたけると、」
「たけるたけるたける!ありがとう!たける!」
女の子が体当たりするかのように抱き着いてきて、結局転んでしまった。
「ありがとう!」

その時以来ずっと、俺は姫の、時止めの傍にいた。無意識に時を止めてしまう、力の流出を抑えるために。万が一止めてしまった時には、とまった時間を解除するために。どれだけの時が経っただろうか、俺たちは人間界で言うところの成人を迎えようとしていた。それでも俺は、時止めの傍にずっといると思っていた。時止めには俺が必要なのだと。
あのときまでは、

「時止めの姫は、時を止める力を持つと誤解されているが、そうじゃない。リピートさせるんだ。繰り返し同じ時間の中へと対象を閉じ込める。幸せな時を望む者は幸せな時の中に、悲しみに浸りたい者は哀しみの時の中に。未来へと向かうことなくただ繰り返す。」
「あきらの記憶消失と似ているな。一日で記憶が完結する」
「そうだな、時止めの力が働いていたのかもしれない」
「たける、お前があきらの記憶から消えなかったのは、あきらの力を相殺できる力を持っていたからか?」
「いや、俺たちが鏡面体同士だからだろう」
「何、その鏡面体って」
「鏡に映っているものは左右逆だが、写っているものは同じだ。鏡面体とは、成分といっていいかなーは全く同質で、力の流れだけが真逆の存在同士をいう。つまり、俺とあきらは、魂の構成は全く同じで、エネルギーの方向性だけが異なるつがいなんだ」

創始の長は時の神。時止めの姫はその愛娘。あまりに愛されすぎたため、姫に呪いがかかる。時を止める力を授かってしまう。
喜びの時よこのままでと思えば、その時は永遠にリピートする。
このまま哀しみの中にいたいと思えば、永遠に繰り返す。
おかしいと思ったのは時の神のみ。
他の者は繰り返す時の中に閉じ込められてしまっていたから。
どうにかしなければと、時の神は別次元の知り合いに、姫の力を相殺する存在を探してくれないかと依頼する。そこで、探し出されたのが小国の皇子のたける。
姫の鏡面体。
予定では、星の1クールほどで、たけるの役目は終わるはずだった。

「だけど、時止めの呪いは異常に強くて、姫自身で制御するのに時間がかかった。俺はできる限り傍にいて、助けになろうとした。俺が姫の支えになりたいと、その不安定さを包み込む存在でいたいと思った。俺が望んで姫の傍にいたんだ」
「姫には全然通じていなかったけどな」
門脇が思い出して苦笑する。
「出だしからそうだったのね」
あいすが妙に納得する。
「おそらくだが、時止めの姫はきっと逃げていたんだと思う。皆のすべての想いから。近づけば永遠に閉じ込めてしまうとおびえていたんだろうな」
「あきらはそんなに弱くない。他人を傷つけるくらいなら、自分が傷を負うような子だ」
「そうだな、倉石はもっと自分を信じないとな」
「ああ」



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