Web小説発掘記 その253 オリジン・オブ・クラウン 作者 旧早田 弦様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330661385477291

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第1章 無垢な君への道標』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

「俺の名前は……わかりません」

 異世界で目を覚ました少年は、記憶も常識もない。魔法も使えない。
ーーー挙句の果てには美少女に無視される。
 そんなどん底で、命を脅かされた末に手に入れたのは、全ての物質を作り出す、忌まわしき『異能』だった。
 あらゆる物質を作り出す異能『オリジン』。少年は辛うじてチートと呼べる能力を手に、迫り来る魔獣や魔人の脅威、そして待ち受ける己の運命に立ち向かう。

ストーリーと見所

記憶喪失、そして異世界転移した主人公がどったんばったん……はしない感じのダークファンタジー小説。

あらすじにもある通り、主人公が持っている『異能』と呼ばれる力は確かにチート能力ではあるのだが、何かと制限があったりするので状況的にはチートとは言い難い。
それとは別に魔法と呼ばれる力があり、魔法と異能は別のものとして扱われている。

そんな力を持ってはいるのだが、主人公は精神的にも肉体的にも普通の少年。一応作中で訓練することでそれなりの強さを手に入れるのだが、それでも人間の範疇を出ない。

なので魔獣や魔人と呼ばれる強大な敵と戦うたびに生きるか死ぬかの死闘を繰り広げることになり、それが展開としてかなり熱の入ったものになっている。

で、作品の雰囲気としては割と暗め……とはまたちょっと違うかも知れないがシリアス寄り。
ちょっとした心温まる会話などはあるものの、基本的には殺伐とした世界観であり、次から次へと危機が訪れるような形となっている。

これがまぁ……かなり面白い。

全体的にレベルが高いものとなっており、主人公の異能が人間達の宗教的にあまりいいものではないとされていたり、目下の敵である魔人達と同種の力であったりと今後が気になる展開が続いていく。

文章も読みやすく、物語の入りから衝撃的な展開が用意されているので作品にも入り込みやすい。

しかも主人公が記憶喪失ということで、彼と同じ視点に立って世界観を知っていけるというのも読んでいて親切設計。

作品の文章や物語の展開としては、チートとは書いてあるが所謂『なろう系』ではなくダークな雰囲気のライトノベルやファンタジー文芸に近く、丁寧で落ち着いたものとなっている。

主人公を始めとした各キャラクターも全体的に色濃く、イメージしやすいように書かれており印象に強く残る。

総じてレベルの高いファンタジー小説となっている。

キャラクター

テル

物語の主人公。
記憶喪失で、時折語られる断片やスマホを所持していることから恐らくは現代社会で生きていた少年。

記憶喪失といっても全てを忘れているわけではなく、時折現代のことを思い出しかけたりもする。

性格としてはちょっとひねたような言動もあるが、基本的には年相応の少年となっている。
反骨精神や熱血さもあり、実にいい感じの主人公。

こういうのでいいんだよ、こういうので。

ニア

ヒロイン。

白髪無口系美少女。
こういうのがいいんだよ、こういうのが。

一章の時点では謎が多く、正直出番もそこまでではない。
とはいえ彼女自身も重要人物であることが示唆されているので、これからが楽しみな要素が多い。

ティヴァ

一章のボス。

獣の魔人。
いいキャラをしている。

総評

評価点

全体を通したレベルの高さでストレートに殴ってくる小説。

ファンタジーとしての世界観や、主人公の独自能力、敵として戦うことになる魔人など様々な部分にワクワクさせてくれる要素がある。

またキャラクターに関しては丁寧且つ個性的に書かれており、出番が多い主人公は勿論、そこまでではないヒロインも可愛らしく魅力的に描かれている。

特に一章のボスであるティヴァは喋り方や台詞なども含めで、一章後半の登場にも関わらず強い輝きを放っている。
主人公の戦闘シーンは、かなり苦戦をしつつもチート能力を生かしたものとなっており、作者さんのアイデアが光る。

問題点

大きな問題というほどでもないが、戦闘シーンは丁寧だが連続したときにやや読んでいてダレるような気がしないでもない。
とはいえそれも作品の味として片づけられる程度の話ではあるだろう。

最終評価 59点(Web小説としては充分な良作)

世界観や文章、キャラクター性などどれをとっても高いレベル。
チートとあらすじにはあるが、決して主人公が無双するわけではない。

それでも傷つきながら少しでも前に進もうとしている姿が丁寧に書かれており、そこに物語自体の様々な謎や伏線も踏まえると目が離せない内容となっている。

その丁寧さが上手く作用し、一章のラストでは思わず涙してしまいそうな展開となっていた。

所要時間は『第1章 無垢な君への道標』までで凡そ1時間ほど。

極めて個人的な感想

一章三話の『目をつむっても眠れないまま、なんだかやるせない一日を思い返していると、自分の回想できる思い出が今日一日分しかないことに気づいて、本当に悲しくなった。』という表現が秀逸。

作品としてはかなり好みで、一気読みしてしまった。
いや、大抵の作品は一気読みしてるんだけども。

後、主人公の異能が宗教的に微妙な扱いだったり、その理由とかが読んでてかなりワクワクポイント。

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