Web小説発掘記 その275 天才打者の忘れ形見(仮) 作者 砂糖醤油様
本編URL
https://kakuyomu.jp/works/16817330666933094241
前書き
この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは記事を書いた時点での最新話である『誠意とは金ではなく唐揚げ』までを読んだうえでの感想、レビューとなります。
あらすじ
そろそろ首が涼しいプロ野球選手、入夏(いりなつ)水帆(みずほ)が手に入れたのは万能のバットだった。
強い力を加えても折れない、壊れない、曲がらない、そして体によくなじむ。
まさに最高のバットであった。
……そんでもって、重要な事が一つ。このバット、喋る。
万能のバットにはデメリットがあったのである。
亡霊に憑りつかれるという、とんでもないデメリットが。
その亡霊は勇名(いさな)涼(りょう)と名乗る。
それはかつて伝説と呼ばれながら25歳の若さで命を落とした打者の名前だった。
入夏は未練を探す代わりに、勇名からのバッティングを教わることに。
同じように過去の選手に憑りつかれた選手達との戦い。勇名の残した未練とは何だったのか。
この出会いが自分のみならずプロ野球全体の大きく揺らす騒動に発展する事を、入夏はまだ知らない。
ストーリーと見所
うだつの上がらない野球選手である青年が、喋るバットと出会ったことをきっかけにして成長していく物語……多分。
物語自体は独特の、ちょっとばかり淡々とした語り口調で進んでいく。それ自体は作品の味付けとしては個性が出ていて悪くはない。
どうにも上手くいかない主人公の前に現れたのは、かつて若くして命を落とした伝説の打者と呼ばれた男を名乗るバット。そこには彼の亡霊のようなものが憑りついており、それらを中心として騒動を……。
……うん。
あんまり騒動という騒動は起こらない。
いや別に騒動が起こることだけが漫画ではないのでそれ自体が問題であるわけではないのだが。
よく言えば丁寧、悪くいえば少しばかり冗長で退屈。
……で、この退屈の部分なのだがここが結構難しい。
恐らく作者さん的にはかなり『野球』、しかも結構珍しい『プロ野球』に焦点をあてた物語にしたいように見受けられる。
これがまた青春などが絡む高校野球とは違って、どうにも読んでいて感情が乗りにくいというのが実際のところだ。
そういった意味での珍しさや、野球に対しての造形の深さなどは間違いなくこちらの作品の優れたポイントではあるのだが……。
物語の展開としてはかなり丁寧。
別にそのバットを手に入れたからといってとたんに無双するわけではなく、そういった面でも少しずつゆっくりと成長し前に進んでいくといった部分は人によってはとても魅力的な部分だろう。
それに加えてバットに宿った人物の未練や彼が命を落とした理由など、物語的には気になる謎も多く、先が気になる小説といえる。
あらすじや最新話付近の展開を見るに、主人公の成長や他の未練を残した野球選手達の登場など、まだまだこれならな部分も多い今後に期待したい小説。
キャラクター
入夏 水帆
物語の主人公。
負けず嫌いで自己鍛錬を欠かさないストイックさを持つが、同時に他の選手に対して関心を持たず期待もしない。
物語開始当初はあまり成績も振るわず、何ともいえない立場の人物ではあるが、バットとの出会いを得て少しずつ変化が見え始める。
喋るバットにもそれほど動じないなど、なかなかに肝が据わっている。
自分に足りないものを見つけた彼がどのように変わっていくのか、楽しみなところ。
勇名涼
かつて伝説的な打者と呼ばれた野球選手。
若くしてこの世を去り、その謎を解き明かすのもこの物足りの肝の一つとなっている……と、思う。
所謂天才肌の人物として現状は語られており、誰にも真似できない技術を持っているようにも言われている。
総評
評価点
とにかく丁寧に進む物語とキャラクターの少しずつ変化していく心情。
またファンタジー要素があるとはいえプロ野球が舞台の物語も中々珍しいのではないだろうか?
野球に関しては作者さんの方にも強いこだわりが見て取れて、野球描写は(筆者が野球に詳しくはないので正しいかどうかはわからないが)かなり見応えがあるものとなっている。
問題点
なのだが。
プロ野球、主人公の成長、未練を残した選手達、バットに憑りついた(?)選手の死因。
などなどの要素が、少しばかり渋滞を起こしている感は否めない。
この辺りは展開の丁寧さが災いして、どうにもとっ散らかった印象を受ける。
実際筆者も最新話付近でようやく「あ、これってこういう物語だったのか」と理解できた。
最終評価 50点(Web小説としては充分な良作)
喋るバットのキャッチーさ、プロ野球という舞台の物珍しさなど、読んでいて楽しみな要素は数多く含まれた作品。
物語としてはかなり丁寧に描かれており、現状の最新話でようやく火が入ってきたといったところだろうか。
これからの展開がどうなるのか、作中に散りばめられた謎がどのように回収されていくかなど気になる部分は多く、スポーツ……特に野球好きな人にこそお勧めしたい一作。
所要時間は『誠意とは金ではなく唐揚げ』までで凡そ40分ほど。
極めて個人的な感想
喋るバットとかいう驚きの始まりからの、予想外に丁寧に運ばれるストーリー。
主人公の欠点なども読者にはそれとなくわかるように語られており、今後に対しての期待感は高い。
なのだがやはり、途中まで方向性が読み取れなかったのはうーん……といったところ。
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