Web小説発掘記 その277 Life『月と紅茶と幸福を』 作者 るなるな様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330668356068823

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。

あらすじ

 森林に囲まれた、とある村の外れ。
「その森には入ってはいけない」と、村の中で忠告された、『平穏な生活』を望む旅人の『月詠夢』は、その村の中へと入ってしまう。彼は、迷い込んだ先で猫に出会い、とある屋敷へと導かれる。
 その屋敷は百人を超えるか超えないかと言うほどの小さな村の中の近くにあるとは思えないほど絢爛で、大きな屋敷だった。
 本能的に危険を感じ入るべきか葛藤する彼は、しばらく屋敷の前で立ち止まるが、そんな彼を屋敷の中で誘ったのは、屋敷へと導いた猫と同じ髪色、そして同じ耳と尾を持つ、パーカーを羽織るメイド服の少女だった。
 屋敷に入ると、「月詠夢に会いたい」ということを猫になれる種族の『猫人』のメイド長『セッカ』に伝えられ、屋敷の主ルッカへの部屋へと案内される。
 そこで主であるルッカに一つのお願いを受ける。それは、彼女が屋敷の地下で軟禁する、彼女の実の妹『フィリア』の執事となることだった。「僕の感情を表す言葉をひとつ挙げるとするならば……やはり一目惚れと言うしかないのだろう」
 フィリアに心を『壊された』彼は、屋敷に暮らすルッカやセッカ、司書の『氷雨空』、そしてフィリアとの日常を歩みながら、何故彼女が軟禁される理由を知っていく。旅人が迷い込んだ先に見つけるちょっと不思議な日々を記した
 ──パキ
「……見えているかしら?と言っても、返事はできないでしょうけど。少しこの場を借りて話をさせてもらうわね」
「端的に言えば、この物語は、それだけでは終わらない。彼自身の……『月詠夢』という人間の謎、過去。これらが絡み合い初めて物語は、完成する」
「時間を借りてごめんなさいね。ただ、ここまで見てくれた観客達に改めて賛辞を込めて言わせてもらうわ。『これは、幸せになるための物語』よ」
パキ── 
……日常になるまでの物語。

ストーリーと見所

魔法やら魔術があるファンタジー世界の、あるお屋敷を舞台としたミステリー風味の小説。
作品の雰囲気としては大きな戦いやらがあるわけではなく、登場人物のちょっとした会話のやり取りや一人称になっている主人公の思考。

そしてちょっとした言葉の端に隠された謎を解き明かすような物語となっている。
ふんわりとしていながら何処か荒涼とした世界観は、刺さる人にはとことん刺さるようになっている。
作者さんが意識しているかはわからないが、某きのこ先生と某西尾先生を足したような雰囲気。

登場人物の会話も中々に小洒落ており、そのやり取りを見ているだけで物語世界への没入感が高まり、気が付けばついついストーリーを読み進めてしまいかねない魅力に満ちている。

特に物語全体に流れる独特な空気感は出そうと思っても出せるものではなく、かなり練り込まれた世界観の上に成り立っていることが容易に読み取れる。

なのだがまぁ……色々と問題がないわけではない。

詳しくは問題点のところで語るが、基本的に文章の装飾が凄いタイプの小説なので、どうにも話の要点を見逃しがち。なので急な場面転換やその場の登場人物の入れ替わりに気付かずに見返すことも多数。

え?それはお前の読解力の問題だって?……それはまぁ、そうなんだけどね。

それに加えて全体的に迂遠な言い回しが多く、主人公を含めた登場人物が詳しい事情やらをとにかくぼかしがち。
それらが謎を生んでいるといえば聞こえはいいが、どうにも遠回りをさせられている感が拭えない。

また作中に登場する要素も多く、そういった部分を理解するのも苦労する点ではある。
この辺りは良くも悪くも、長編の第一部として捉えるのがいいのかも知れない。

加えてストーリーも結構小難しいので、読んでいると難解さが際立つような作品になってしまっている。
勿論それも作品の味ではあるし、そういった作品を望む人も間違いなく存在する。

そういった点も踏まえて、上で書いたように『刺さる人にはとことん刺さる物語』であるといえるだろう。

キャラクター

月詠夢

物語の主人公。

色々と訳ありっぽい空気を醸し出していたら、やはり訳ありだった。
物語は彼の一人称で語られる。

何処か意味深で謎があり、本人も一筋縄ではいかない人物。
ただそのうえで優しさを貫いたその性格は、読んでいてかなり好感が持てるキャラクターとして描かれている。

フィリア

本編のヒロイン。

なかなかにいじらしく、可愛らしい人物として書かれている。
ちょっとした台詞の変化などから主人公への信頼を読み取ることができるのもとても良き。

もうちょっと出番が多くてもよかったのかも……。

総評

評価点

独特な世界観や空気感。
物語が何処に転ぶのか、いい意味で読めないワクワク感など作品として優れた部分はかなり多い。

作者さんのやりたいことなどもはっきりと伝わってくる。
作品の雰囲気や土台部分はかなりしっかりと作られていることが読んでいてわかるので、そういった部分がに惹かれる人ならばかなりハマれる作品になることは間違いない。

問題点

地の文や台詞を含めた、様々な部分が難解。
文章もよく言えば特徴的だが悪くいえばかなり読みにくい。

主人公を含めた登場人物の大半が「何やら意味深な人物」で固まってしまっているのもそれに拍車をかけている。

とにかく全体を通して意味深なので、物語を理解する前に疲れてしまうというのが正直なところ。
この辺りはミステリー好きな人などが読めば、また違う評価になる可能性は高い。

最終評価 51点(Web小説としては充分な良作)

何度もいうが、作風や空気感などはかなり独特で、それらは上手くまとまっている。
そういった部分もあって、一度世界観にのめり込んでしまえばなかなか抜け出せない魅力がある作品といっていいだろう。

特に土台となっている世界観に関してはかなり作り込まれており、魔法と魔術の違いや魔術を使う際の描写などはかなり秀逸なものとなっている。

総じてレベルが高い小説であるが、同時にもう少し砕けた部分が欲しかったという惜しさもある作品。

所要時間は凡そ1時間30分ほど。

極めて個人的な感想

正直なところ結構評価が難しい作品。
概念系というか、ちょっと小難しくて洒落た言い回しを楽しむ系というか……。

なのでまぁ、実際この手の作品……西尾先生とかが好きな人ならもっとぶっ刺さる可能性は結構高いんじゃないかなと。
洒落た台詞回しとか、そういったところも含めて独特の味があるのは確か。

ちょっと今回は筆者自身が面白さを理解できなかった可能性があるので、気になった人は是非本編を読みに行ってみてほしいところではある。

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