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連載小説 奪われし者の強き刃     第2章34話 「後方の仕事 見えない戦い」

悠が安倍晴明と一騎打ちをしていた頃、避難所に避難していた人たちの不安が溜まり、爆発する寸前まで来ていた。

 避難者:
 「おい、いつになったら出られるんだ。」
 
 モモ:
 「ただいま師団長が対処していますのでお待ちください。」

 避難者:
 「そういってどのくらい時間たった?さっきから大きな音もしているし本当に倒せるのだろうな。」

 モモ:
 「はい!必ず師団長が倒してくれます。」
 
 避難者:
 「師団長って確かこの間発表されたあの子供だろう。本当に大丈夫なんだろうな?」

その一言を皮切りに他の避難者の不安も一気に高まり、避難者の不安の声や怒号でその場が収拾できなくなってしまった。

 モモ:
 「皆さん!落ち着いてください。大丈夫ですから落ち着いてください!」

モモがいくら声をかけてもその場が収まることがなく、団員に詰め寄る人や悠を非難する人でその場はまさに阿鼻叫喚であった。

 モモ:
 「どうしよう・・。」

モモが自分の声が届かず落ち込んでいると、メガホンを持った彩音がやってきた。

 彩音:
 「モモちゃんありがとう。よく頑張ったね。」

 モモ:
 「彩音さんすみません。私の力不足でこんな状態になってしまって。」

 彩音:
 「モモちゃんのせいじゃないよ。ここにいる市民の皆様が不安に思うのも当然だし、師団長を疑うのもしょうがない。」

 彩音:
 「だから、ここからは私の仕事よ。」

彩音はモモの前に立ち、メガホンを持って避難者に語り掛けた。

 彩音:
 「皆さん落ち着いてください。不安になる気持ちもわかりますがここで落ち着きをなくされても何も変わりません。」

すると、1人の避難者が

 避難者:
 「だけどよ彩音ちゃん。戦っているのはあの子供の師団長なんだろ。流石に子供じゃ不安だよ。」

 彩音:
 「それはごもっともです。それではこれをご覧ください。」

彩音の合図とともに巨大なスクリーンが現れ、ある映像が流れた。その映像には今まさに血まみれになりながらも安倍晴明と互角に戦っている悠の姿があった。

 彩音:
 「この映像は師団長が戦っている場所の近くの監視カメラの映像です。今まさに師団長はあなた方の安全と幸せのために戦っています。」

 避難者:
 「すごい・・。」

 避難者:
 「でも、結構やばいんじゃない?ふらふらしてるし。」

 避難者:
 「確かにやられそうじゃないか。これじゃあ・・。」

避難者はみな、悠の戦いを食い入るように見ていたが、戦況から再び不安が募り始めた。

 少年:
 「そんなことないもん!」

すると突然、1人の少年が大声をあげて叫んだ。

 少年:
 「あのお兄ちゃんは強いもん。僕を守ってくれたもん。お兄ちゃんは絶対負けないもん!」

 避難者:
 「でもな・・。」

 少年:
 「だったらあのお兄ちゃんの目を見てよ!」

そういって、少年はスクリーンに映った悠に指をさした。そこには、体はボロボロのはずなのに立っているだけでやっとのはずなのに光が消えることはなく、諦めるという言葉が似つかわしくないほどに生気に満ちた目をした悠に姿が映っていた。

 少年:
 「お兄ちゃんは諦めてないんだよ。僕たちを守るために必死に立ち上がっているんだよ。なのになんで戦っている本人が前を向いて、守られている僕たちが下を向けるの?僕テレビで見たよ。あのお兄ちゃん、僕が生まれた時くらいから東部を魔物からを守ってくれているって。だったら信じようよ。ここを守ってきてくれたお兄ちゃんを。勝って当然じゃなくて勝ってありがとうを伝えようよ。」

 彩音:
 「皆さんお願いです。」

彩音は少年の言葉に続くように言って深く頭を下げた。

 彩音:
 「師団長を信じてあげてください。確かに師団長はまだ若いです。皆様より一回りも二回りの若いかもしれないです。ですが、就任してからこの5年間、皆様のため粉骨砕身務めてきた師団長の勝利を信じてあげてください。お願いします。」

 避難者:
 「わかったよ。頭を上げてくれ彩音ちゃん。」

彩音は頭を上げた。

 避難者:
 「確かによく考えたらこの5年間、魔物による被害が極端に減ってた。それもあの子のおかげなんだよな。それをわかっていたはずだ。それなのに、あの子のことを責めるなんて大人失格だよな。僕もごめんな僕の熱い言葉、おっちゃんに響いたぜ。ありがとな。」

 少年:
 「うん!」

 避難者:
 「だから信じるよ。あの子の勝利を。声は届かないかもしれないがここから精いっぱい応援させてもらうよ。」

すると、避難者はみなスクリーンに向かって大声で悠の応援を始めた。

 避難者:
 「行け―、兄ちゃん。」

 避難者:
 「頑張ってー。」

先程までの怒号や非難が飛び交っていた阿鼻叫喚の状況から一変し、全員で悠を応援する光景にモモは涙を流した。

 モモ:
 「よかった。彩音さん、ありがとうございます。」

 彩音:
 「あの少年の言葉がなければ危うかったわ。でも、オペレートだけが私たちの仕事じゃない。市民の皆様のメンタルケアや前線の団員たちが安心して戦える場を整えるのも私たちの仕事よ。後は師団長の帰りを待つだけね。」

 モモ:
 「はい!」

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