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連載小説 奪われし者の強き刃      第3章9話 「八部鬼衆の襲来 林杏の『ギフト』」

悠たちが元陸王領地を調査して美月たちを発見した頃、中央部では魔物襲来の警報が鳴り響いていた。

 林杏:
 「場所と数は?」

 オペレーター:
 「東の農村付近で数は2体です。」

 林杏:
 「了解。私が行くわ。冥々(めいめい)ついてきて。」

 冥々:
 「はい。」

冥々は林杏率いる第8師団の副師団長で白髪のメッシュが特徴的な女性だ。中国拳法の達人であり、第1師団副師団長である新田と渡り合う実力がある。

 林杏:
 「普通に行ったら間に合わないわね。」

乗り物での移動では間に合わないことを悟った林杏は冥々と自身の足に触れ、『ギフト』を発動させた。

 林杏:
 『付与(エンチャント)・韋駄天』

 林杏:
 「これで間に合うわ。走るわよ。」

 冥々:
 「はい。」

林杏の『ギフト』のよって、新幹線より早く走り出した。
林杏の『ギフト』は【付与】(エンチャント)。自身が触れたものに様々な効果を付与するというもの。ひとつの効果につき5分間継続するが、付与する効果によって継続時間が前後する。
しばらく走り目的地に近づくと、独特なリズムの音楽と農民の叫び声が聞こえた。

 林杏:
 「!急ぐわよ。冥々は農民の救助最優先で。」

 冥々:
 「了解。」

目的地の農村に着くと、小学生くらいの身長で全身黒色の体毛でおおわれた人型の魔物が今にも農民を食べようと大きく口を開け襲い掛かろうとしていた。

 林杏:
 「させない!」

林杏はそのままのスピードで駆けつけ、魔物を蹴り飛ばした。

 林杏:
 「大丈夫ですか?けがは?」

 農民:
 「ありません。ありがとうございます。」

 林杏:
 「冥々、この人たちの保護をお願い。他の人たちの救助も。」

 冥々:
 「はい、さぁこちらにそこにいては危険です。」

 農民:
 「はい。」

農民たちが冥々のもとへ行き離れていく。林杏も辺りを探そうとした時、

 魔物:
 「いたた、何をするだ。」

蹴り飛ばしたはずの魔物が何事もなかったかのように戻ってきた。

 林杏:
 「新幹線以上のスピードで蹴り飛ばしたのよ。普通は身が破裂するはずだけど。」

 魔物:
 「おいら、お前らのこと知ってるぞ。おいらたちに歯向かっている師団ってやつだろ。そうだろ。」

魔物は無邪気に林杏のことを指さして言った。

 林杏:
 「悠たちの報告程の知性は感じられないわね。でも、人語は話しているし他の魔物よりは賢いわね。」

 魔物:
 「よくもおいらの食事を邪魔したな。お前のせいで腹減ってるのに人間食いそびれたじゃないか。もう怒った、おいらお前を食う。」

魔物は猛スピードで林杏にとびかかり、丸のみにしようと大きく口を開けた。林杏は魔物の攻撃を難なく避けて再び魔物を蹴り飛ばした。『韋駄天』が継続中の林杏の蹴りは掠れば身が抉れ、まともに受ければ破裂してしまうほどの威力がある。だが、魔物はそんな蹴りを2度も受けたにも関わらず、傷1つつかなかった。

 林杏:
 「頑丈が過ぎるでしょ。」

 魔物:
 「おまえ、痛いじゃないか。もう怒ったお前を絶対食う。」

魔物は先ほどまでの子供のような無邪気さから急変し、威圧感が急激に増した。

 魔物:
 「ちゅっと毘舎遮(びしゃしゃ)なに道草食ってるの。帰るわよ。」

林杏が声のする方を振り返ると、腕が4本生え2本の腕で琵琶を持っている異形な魔物が立っていた。

 毘舎遮:
 「乾闥婆(けんだつば)。だってこいつがおいらの食事を邪魔したんだもん。こいつ食うまで帰らない。」

 乾闥婆:
 「何言ってるの。今日は挨拶しに来ただけでしょ、帰ったらいっぱいおやつあるから。」

 毘舎遮:
 「む~。」

毘舎遮は拗ねた子供のように頬を膨らませた。

 乾闥婆:
 「あなた見たところによると師団長ね。挨拶しとくわ。私たちは空王様の眷属【四天王】。その側近【八部鬼衆】が一人、乾闥婆と毘舎遮よ。以後お見知りおきを。」

 林杏:
 「これはご丁寧にどうも。挨拶ついでに村1つ崩壊なんてやることが大胆ね。」

 乾闥婆:
 「まぁ余興のようなものだしね。じゃあね、次会う時はボロボロになるまで踊らせてあげる。」

乾闥婆が琵琶に音を奏でると後方に霧が発生した。

 乾闥婆:
 「毘舎遮帰るわよ。」

 毘舎遮:
 「次は絶対食べてやる。」

毘舎遮達はそう言い残し帰っていった。

 冥々:
 「団長、魔物は?」

 林杏:
 「帰っていったわ。挨拶しに来ただけだって言ってたけど。それより村の皆様は大丈夫?」

 冥々:
 「はい、負傷者も行方不明者もゼロです。今は近くの洞窟に避難してもらってます。」

 林杏:
 「そう、よかった。とりあえず村が復興するまでうちの近くの施設で生活してもらいましょうか。」

 冥々:
 「そうですね。迎えを呼びますね。」

 林杏:
 「お願い。私はもう少しこの近くを捜索してくるわ。」

 冥々:
 「わかりました。」

その後、林杏だけを残し村の人たちと冥々は基地へ帰っていった。

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