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『マウンテン・ライブ 暗黒への挑戦』 マウンテン


 太ったロックミュージシャンって中々想像できない。チープトリックのドラマーのバーニーとかかなぁ。ミュージシャンでなければツェッペリンのプロデューサーであるピーター・グラントとか思いつくんだけど・・・。でも、昔から巨漢ギタリストという形容をされているレズリー・ウエスト。こりゃ何者だ?という感じで高校時代にプレイバック。
 私の高校時代の友人K君。彼はクリームのジャック・ブルースにしびれてしまい、勢いでギブソンのEBベースを買ってしまった。今思うと高校生にしてはかなり無理をした買い物だった。んでもって、彼の手の中でショートスケールのそのベースはブインブインと細切れな音を連発し、ジャック・ブルースを気取ってフリージャズのような音を速射していた。しかし、そんな彼に誰も合わせることができず、結局はいつもの緩い(彼にとっては・・・)ロックを演奏するしかなかったのだ。
 K君は「んじゃあ、わかった。フェリックス・パパラルディを知っているだろ?そう、かのクリームのプロデューサーだ!そのフェリックスが組んだマウンテンというバンド、これやろう!」
なんという変わり身。クリームからマウンテン。フェリックスつながりでバンドの選曲をしちゃう彼。
私は唖然としながらもK君から借りたマウンテンのアルバムを聴きまくった。

 マウンテンは1968年にギターのレズリー・ウエストとベースのフェリックス・パパラルディが知り合ったことから始まった。1969年のアルバムデビュー後、グランド・ファンク・レイルロードなどとともに、70年代のアメリカンハードロックの代表的なバンドとして知られている。日本でマウンテンの名が知られるようになったのは、1971年の「ベートーヴェンをぶっ飛ばせ」(「ロール・オーバー・ベートーヴェン」として知られているチャック・ベリーの曲)がヒットしたことであろうか。この「ベートーヴェンをぶっ飛ばせ」だが、原曲はチャック・ベリー。ビートルズのカバーで有名な曲だが、マウンテンのそれを聴いてしまうとあのビートルズが可愛い虫に見える。やっぱりこれくらいでかい音でぶっ飛ばさないと!・・・ビートルズはぶっ飛ばしてないもんなぁ・・・。
さて、マウンテン。K君が一押しだったアルバムは1971年『ナンタケット・スレイライド』である。

 タイトル曲の「ナンタケット・スレイライド」は18分にも及ぶ大作でジャック・ブルースとは正反対のどっしりしたそれでいてロックの真髄というベースラインが格好良い。筋の通ったベースに粘りつくようなレズリー・ウエストのギターとスティーブのオルガンが絡みつくまさに70年代ロックなのである。
テクニック面で名が知れるベーシストは大勢いるだろうが、そんなものは関係なく、フレーズが心底格好よいというシンプルなベースラインはこのフェリックスの右に出る者はいないだろう。ベーシストというより有能な作曲家というべきか・・・。
てなわけで、K君とのバンド・・・。
 私は「ナンタケ~」もいいのだが、このバンド・・・演奏するより聴いている方がいいなぁなんて思ってしまったのだ。つまり長々と演奏する意味がわからんということ・・・これは上手いバンドが鬼気迫る演奏を時も忘れて続ける良さというものがあるが、素人の高校生が長々と演奏しても誰も喜ばないと我ながら悟っていたんだな。だから、長いジャムって自分ではぜんぜんできないし、興味も無いのだ。ましてやドラムなんて疲れるだけだし・・・。
ということで、K君のアイデア(思いつき)もすぐにポシャッてしまった。

 しかし、私にとってはマウンテンを教えてもらったということは儲けもので、その当時アルバムを結構聴いた。
私のお気に入りは彼らの4作目である『マウンテン・ライブ 暗黒への挑戦 (Live - The Road Goes Ever On) 』(1972)である。

 このアルバムの聴きどころは、やはり18分にも及ぶ大作の「ナンタケット・スレイライド」なのである。

 メルビルの小説「白鯨」で知られるかつて鯨の捕鯨基地であったナンタケット島を舞台にした巨鯨モビー・ディックとエイハブ船長を題材にした作品。
スレイライドの、スレは(SLEI) 「ソリ」のこと。そして RIDE は「乗る」でソリに乗って引きずられることを言う。
 つまり、この小説は人生を海、善と悪をエイハブとモビー・ディックに当てはめ、人生の機微を思索した作品で、この小説の内容を詩にまとめたのはフェリックス・パパラルディの奥方であるゲイル・コリンズだ。才女であり、アルバム・ジャケットのデザインも手がけていたゲイル・コリンズ・・・しかしこともあろうか1983年、そのゲイルがフェリックスを射殺してしまうという事件が勃発!びっくりした!

 さて、この『マウンテン・ライブ 暗黒への挑戦 (Live - The Road Goes Ever On) 』は、M-1「Long Red」は69年のウッドストック・フェスティヴァル、M-3「Crossroader」とM-4「Nantucket Sleighride」は71年のニューヨーク、アカデミー・オヴ・ミュージックでの録音。M-2「Waiting to Take You Away」は詳細不明の新曲である。なんだかまとまりのないアルバムに聞こえるが、とにかくレズリー・ウエストの体が示すとおりマウンテンはでかい壮大なアメリカンロックを体現したバンドであり、弾くより聴くバンドなのであるから、いちいち細かいことは気にしてはいけないのだ。痩せていて長髪で足の長いロックスターが多い中で相撲取りのようなレズリーがギターをウクレレのように抱えて弾くシーンはアメリカンサイズな音楽そのものなのだ。ながーい演奏をうだるように聴くってのも最近の音楽ではお目にかかれなくなってきた。今時マウンテンを好んで聴く人がいるかどうかわからんが、レズリーはいまだに弾いているらしい。

 因みにK君はマウンテンを諦めたあとベースを買い換えていた。はは。

2012年9月11日
花形

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