『シャーマン』ツアー サンタナ
人ごみの中でダフ屋を見つけ、交渉。値段を聞くときはいつもよりちょっとだけ大きな声で臨む。そうすることで、相手は後ろ暗い行動を早く納めたいと思い、交渉にスキができる。金額交渉後、アリーナをほぼ定価でゲットした僕は、開演ギリギリの武道館に吸い込まれた。
自分の席にたどり着いた瞬間、暗転した。そして地面を轟くビートが会場に充満する。
ネイティブアフリカンのリズムとラテンのリズムが入り混じり、真っ赤な照明の中からギターを抱えたカルロスが登場。「Jingo」のビートに合わせて弾きまくり始めた。
カルロス・サンタナの2003年11月11日の武道館公演はこうして始まった。本来なら、4月に行なわれるコンサートだったが、SARSの影響で公演が半年延期されていた。当然、シートキャンセルも出たようだが、そのおかげで僕のように見ることができた人間もいる。また、サンタナの2年前の公演時、ちょうど来日中のクラプトンが飛び入り参加したこともあり、今回もそのチャンスがありそうだ、との噂が飛び交い、開演前から異様な雰囲気に包まれていたのだった。
『スーパー・ナチュラル』(1999)の大ヒットによりグラミー賞主要9部門受賞でサンタナは生涯何度目かの頂点を迎えていた。ウッドストック世代のアーティストが30年以上も第一線で活躍していること自体が驚きだが、それ以上に『スーパー・ナチュラル』は若いアーティストとのコラボでも有名になり、ヒップ・ホップやラップとの融合は、往年の栄光にすがっているビッグネームや伝統芸を重視しすぎて新しい波に乗れないオヤジアーティストたちにショックを与えた。
立て続けに発表された『シャーマン』(2002)も『スーパー・ナチュラル』の延長線上にあり、内容の濃いものとなっている。ゲスト・アーティストを迎え、それにサンタナのギターを絡めることで新しい波が生まれる。ゲストも決して臆することなく堂々と自らを主張する。それは真剣勝負である。前作ではクラプトン、本作ではスティービー・ワンダーとのコラボも実現している。以前のようなラテンラテンした音楽も収録されているが、新しいラテンそしてアフリカンロックのあり方を表現したアルバムである。
そして今年の11月には『スーパー・ナチュラル』『シャーマン』に続く3部作の最終章である『オール・ザット・アイ・アム』(2005)が発表される。とにかく最近のサンタナの新しいことへの飽くなきチャレンジは、目を見張るものがある。
コンサートは『スーパー・ナチュラル』『シャーマン』を中心に展開された。もちろん古い作品も並ぶが、今のサンタナに「哀愁のヨーロッパ」は不釣合いだ。本人も演奏する気も無いだろう。1980年代初頭の「ホールド・オン」といった大ヒット曲でさえ演奏されなかった。しかし武道館の空間はそんな曲を欲していなかった。クラプトンの乱入も無かったが、逆に乱入できる雰囲気ではなかった。もし乱入していたとしたら、ブーイングが出るくらい緊張感がある公演だったからだ。
『シャーマン』の「ビクトリー・オブ・ウォン」は壮大なバラードである。前回のツアーでも取り上げられていたが、今回のステージでは核の曲になった。僕の周りの人で目頭を押さえている人が数人いた。僕もステージのサンタナがにじんだ。
最後は「ブラック・マジック・ウーマン」から怒涛のラテンメドレー。とにかく血が騒ぐ音楽だ。土着の力というか・・・。サンタナが神の領域に入ってしまったかと思った。
『スーパー・ナチュラル』『シャーマン』は最近のサンタナの代表アルバムであり、ロックアルバムの代表アルバムといっていい。新作が待ち遠しい。
2005年10月14日
花形