『ディープ・パープル・イン・ロック』 ディープ・パープル
アタシはどうしたってツェッペリン派だったから、あまりパープルというのは真剣に聴いてこなかったのよね。もちろん代表的なアルバムは所有しているし、それなりに曲も知ってはいるが、どうも座り心地が悪いというか、なんかしっくりこなかったのよ。
ツェッペリンとパープルは全盛期もかなりリンクしているからブリティッシュハードロックバンドとして、世間的には重要なアイコンなわけだが、何故パープルにそんなに惹かれなかったか・・・。
すげー幼稚な理由なんだけど、好き嫌いってそんなもんだし・・・。
で、誤解を承知で書くんだけど、まず、イアン・ギランのヴォーカル。
イアンのヴォーカルが破壊型というか、あのシャウトが、気持ちよすぎるくらい叫ぶわけで、そのシャウトにアタシが反応しないのよ。
アタシはどちらかというとブルース系というか演歌というかこぶしが回るヴォーカルの方が好きなわけで、そうなるとロバート・プラントに軍配が上がってしまうの。だからといってパープルがこぶしをブンブンに回すデビカバにヴォーカルを交代したときに好きになったかというとそうでもなくて、バンドのメインヴォーカルが変わるなんてことは、もうそのバンドはバンドとして成立していないなんて固苦しいことを考えてしまうわけ。たかが中2の分際で。しかもアタシが聴いた時点ではもうすでにデビカバはホワイトスネイクを結成していたんだけど・・・ね(笑)。
とにかく、ヴォーカルが気に食わないとなるとバンドとしては致命的でしょ(ちなみに、ホワイトスネイクのデビカバは好きなんだけどね)。
でも、パープルは全体的にみて嫌いなバンドではないんだよ。私が聴く機会が少なかったというだけ。
だって、ベースのロジャー・グローバーなんてアタシ、大好きで、ロジャーがツェッペリンに入ったらもっとすごくなるのになんて思ってたくらいだもん。もちろん、ジョン・P・ジョーンズの寡黙さと底知れぬ音楽性には敬意を表するんだけど、ロジャーがツェッペリンにいたら・・・どうだったんだろう。リッケンの図太い音を響かせながら「移民の歌」とかやって欲しいな、なんて(笑)。やかましいか?!
ギタリストはリッチー・ブラックモア。トミー・ボーリンじゃあない。そのリッチーだけど、どの写真見ても怖そうでしょ。いつも何か怒っているみたいで。真面目な人なんだろうと思うんだけど、もう少し笑ってくれても良いのに。
もちろん、テクニックやステージパフォーマンスは最高なんだろうけど、顔が・・・怖い。
その点ジミー・ペイジは笑っちゃうくらい笑顔が可愛い。特に若い頃。最近は太ってしまって大阪のおばちゃんみたいな顔になってしまっているが、手足が長く、レスポールを股間までずり下げて同じようなペンタトニックスケールをせっせと上下上下と弾きまくる姿は(馬鹿にしてんのかなぁアタシ)、中2の坊主をイチコロにするのに5秒もいらなかった。
「おーっ!カッケー!」ってな具合で、なけなしの小遣いで買ったミュージックライフのグラビアを見ながら、当時もっていたモーリスのクラッシックギターに紐を括り付けて足を広げて真似をしたもんだ。あー恥ずかしい。
アタシは大学に入り、先輩にエレキギターの取り扱いについて教えて頂いた時に、その先輩に尋ねた。アタシは大学までエレキなんてまとも弾く環境が無かったもんで、強引に入れさせられたバンドの都合で突然弾かなければならなくなった。新入生は文句が言えないの。そんで、エレキギターについて、ある先輩に師事した。なんせシールドの向きすらまともに知らなかったアタシは、先輩に貸していただいたギターを手にするとおもむろにローコードでスリーフィンガーを弾いてしまった過去がある。ストラトでかぐや姫かなんか弾いた(恥)。
「先輩はミュージシャンで誰が好きなんすか? 好きなアルバムとかあります?」
その先輩は7thコードが得意でシティポップのギターなんか弾かせたら最高の人だったのだが、その先輩の口から出てきた言葉は・・・
「『イン・ロック』(1970)。パープルの『イン・ロック』じゃ。あのアルバムは聴き倒したわい」と仙人のような雰囲気で応えてくれた。
「それは何故っすか?」と聞き返すと、
「あれにはロックの全てが入っている」と話された。多くは語らない。
いつもは7thコードをお洒落に決めていたギタリストから出てきたアルバムとしてはかなり異質で、でもその異質さが妙に心に残ったのだった。
アタシは家に帰り、納戸からレコードを探し、ターンテーブルに置く。そう、とりあえず、揃えることは揃えているのよ。『イン・ロック』に加え『ファイアーボール』(1971)、『マシン・ヘッド』(1972)、『ライブ・イン・ジャパン』(1972)という黄金の時期のアルバムは中古盤屋のハンターでせっせと1枚700円で購入していたの。なんか、聴いとかなきゃいけない作品って無意識に買ってたんだよ。中2の分際で。
先輩の言葉を心で反芻しながら『イン・ロック』を聴く。
このアルバム、パープルがハードロックバンドとして飛翔するために重要な作品として位置づけられている。
バンドには勢いというものが必ずあって、その上り調子になる時のアルバムだけに、音にその躍動感が溢れている。
ギターテクニック的に優れた先輩が教えてくれた1枚。しかし、それがヒット曲満載の『マシン・ヘッド』ではなくその成功を作り上げる序章であった『イン・ロック』であることに先輩の言いたいことがわかった気がした。
ロックは理屈じゃないということ。目に見えない勢いって一番大事なこと。
先輩から『イン・ロック』と聞かなければ、アタシは単にツェッペリンのライバルバンドと言われている、くらいの認識しかなかったと思う。
いまだにイアン・ギランのヴォーカルはそんなに好きじゃないし、リッチーは怒りんぼだし・・・だけどパープルのアルバムが無性に聴きたくなる時があるのよ。
何か、気合を入れるとき、『イン・ロック』を取る。
『マシン・ヘッド』じゃないんだよ。
2015/10/7
花形
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