東京12チャンネルの80年代音楽番組
日曜日の夕方、みんなは「サザエさん」の時間になるとマンデーブルー症候群となり、明日からまた1週間が始まる(始まってしまうぅ)という気分になる。しかし、私は高校時代この症候群に陥ることは無かった。それは日曜の午後10時30分から30分間の音楽番組、ファッションブランド「JUN」提供の「サウンズクリエーション」があったからだ。
この音楽番組、非常に硬派だった。それまでの音楽番組にありがちな司会者がいて出演者にインタビューするとか、曲前にくだらないMCが入るといった演出がまったく無い。タイトルが映し出された後、すぐに番組提供画面にJUNの文字。そしてJUNのCMが流れる。
このCMも他のCMと一線を画していて、モデルの女性は比較的露出が高い洒落た服を着て、石畳の街を歩いていたりして、非常に洗練されていた。ここにも余計なナレーションは無い。とにかくシンプル尽くめだった。
この番組は30分間で1組のミュージシャンを特集する。スタジオライブが殆どだが、たまにライブ会場からのオンエアもあった。
もちろん番組内でもMCなどに時間は割かない。とにかく音楽を聴かせる演出なのである。
特にまだまだアンダーグラウンドな状況だった日本のロックやフォークに焦点を当て、生演奏が聴ける贅沢な番組だった(テレビ神奈川やテレビ東京は制作費が無いので、こういう変化球が得意である)。
ジョニー・ルイス&チャー、サンディー&ザ・サンセット、高田渡、斉藤哲夫などキー局で30分オンエアなんかしたものなら、プロデューサーの首がいくつあっても足りない。
しかし、この尖り方が時代の音を掴んでいたとも言える。
矢野顕子の回は、バッキングはYMO+α。顕子の天真爛漫な歌声で「ごはんができたよ~」って歌う姿に反比例するかのように細野晴臣がつまんなそうな顔でベースを弾いているのが印象に残った。
そしてもうひとつ。
「パイオニア・ステレオ音楽館」
「サウンズクリエーション」と比べ、こちらはどちらかというとジャズ、フュージョンのミュージシャンが多かった。
高中正義やデビューしたてのカシオペア、テクノバンドのヒカシュー、プラスティックスといった時代の音が溢れていた。
平日の夕方6時から15分間の番組で、1週間の帯番組でオンエアしていた。好みのミュージシャンが出演するとなると勝手に部活を切り上げ急いで家に帰ったものだった。
この番組もCMは洗練されていた。パイオニア・ステレオの宣伝は高中正義自身が「ブルー・ラグーン」や「レディ・トゥ・フライ」を軽井沢かなんかのロッジの家で気持ち良く弾いているシーンが印象的。
また、パイオニアのカーコンポの宣伝はライ・クーダー。「ゴー・ホーム・ガール」や「ビッグ・シティ」が流れるとアメリカの乾いた映像が映し出され、一瞬にして荒野の雰囲気となる。
そして、まさに東京12チャンネルの隠れた名音楽番組「日立・サウンドブレイク」で紹介されるような映像がパイオニアのCMそのものだったのだ。
音楽の作り手からビデオクリップやMTVなどの映像が送出されるのは1983年あたりからだと思うが、「サウンドブレイク」は音楽プロデューサー毛利元海の選曲で独自の画像処理を行ない、雰囲気のあるビデオ作品を作り上げていた。そのセンスの良さは、売れ線で狙うレコード会社のそれとは一線を画していた。音楽が好きな人が作ったクリップと言えばいいか。
「パイオニア・ステレオ音楽館」は、小室等が司会を勤め、スタジオライブが主であったが、たまにライブ特集となると1週間の帯でライブ中継を行なうこともあり、たとえば高中正義の雨の日比谷野外音楽堂でのライブなどは、『T‐WAVE』(1980)を発表した頃だったので、ずぶ濡れになりながらもノリに乗った演奏をお茶の間に届けてくれた。
また、渡辺香津美、坂本龍一、矢野顕子、高橋ユキヒロ、村上PONTA秀一、小原礼などが在籍していたKYLYN bandのライブ特集など、「ザ・ベストテン」や「ミュージックフェア」では観ることのできない面子が目白押しだったのだ。
こういった番組は再放送とかしてくれないか・・・。著作権や肖像権の問題等あるのかもしれないが、テレビ局界の異端児であるテレビ東京(私はどうもこの名前が嫌いでね、東京12チャンネルと言いたいのだよ)ならやってくれそうな気がするのだが。
2015年9月5日
花形
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