『Are you experienced』 Jimi Hendrix
アニマルズのチャス・チャンドラーはとびっきりの新人を見つけ出した。寒いシアトルの街でくすぶっていた黒人のパフォーマンスが今までに見たことが無いくらいぶっとんだものだったからだ。左利きの彼は左用のギターを使用せず、あえて右用のギターをリバースさせて使用していたところも斬新に見えた。
その黒人は、少し前までは米国空軍のパラシュート部隊に所属していたが、訓練中の事故で腰を怪我してしまい除隊していた。そんなふさぎこんだ彼は、幼い頃に与えられたギターで古いブルースを弾きながら、ライブハウスで暴れまくる日々を過ごしていたところだった。
その黒人は、チャスの誘いに乗った。60年代末のロンドンにも興味があったし、なによりも「真っ白なフェンダー・ストラトキャスター」を買ってもらえることも理由のひとつだった。
チャスとともにロンドンへ向かった男・・・ジミ・ヘンドリクスである。
その後ジミは、毎夜ロンドンのライブハウスでパフォーマンスを繰り広げ、話題の中心になっていった。チャスの巧妙なプロデュース力もあり、噂が噂を呼び、エリック・クラプトンやミック・ジャガー、ポール・マッカートニーなどが狭いライブハウスで他の客同様にジミのプレイを堪能していたという。そして数多くのプレイヤーからはセッションの申し込みもあり、多数のブートレグが出回った。
当時のロンドン・ビートニクスの若きアーティストたちは小洒落た格好でブルースマンを気取っていた。クラプトンしかり、ツェッペリンしかり。でも、そこにブルースの国から同世代のとびっきりのブルースマンが来てしまった。しかも、今まで聴いたことも無いようなブルースであり、ソウルであり。演奏以外のパフォーマンスがあり・・・。
クラプトンなどはロンドンで若くしてブルースの神様なんて言われていたから、ジミを見た瞬間、恥ずかしくなったのではないか・・・。所詮ブリティッシュ・ホワイト・ブルーズは真似事であり、ロンドンでもてはやされていた自分は井の中の蛙だった、と。
よく、ジミヘンをイロモノ扱いする人がいる。歯でギターを弾いたり、ギターに火をつけたり、ギターをバラバラに破壊したりとその部分だけで語る人がいる。もちろんパフォーマンスとして事実だからしょうがない。しかし、それはある意味注目を集める上での手段かもしれないし、本当に自己陶酔してしまったのかもしれない。ドラッグでぶっとんだ末のパフォーマンスということも言える。でもそれだけ「自分」をさらけ出してパフォーマンスするアーティストがそれまでいたか。気持ちのおもむくままプレイを行うジミを誰が笑えるか。だいたい本当にイロモノであればクラプトンやミック、そして全世界が認めないだろう。
デビュー盤『Are you experienced』(1968)はイギリスから火がつき、やがてアメリカに逆輸入という形で入ることになる。スマッシュ・ヒットを記録した。
「Hey Joe」「Purple Haze」「Foxy Lady」「Red House」「Stone Free」「The Wind Cries Mary」などジミの代表曲が目白押しである。
そしてジミは、レコードデビューから怒涛の快進撃を繰り広げる。ウッドストックやワイト島、モンタレーなど1968年から1970年にかけてのビッグイベントには必ず出演し、観客の心を鷲掴みにしていった。
ジミ・ヘンドリクスでこのアルバム!という作品は、正直出しづらい。どうしてもライヴに目がいってしまうし、スタジオ盤のジミを聴いていると狭い小屋の中でこじんまりしたプレイの印象になってしまうからだ。
サイケデリックな演出やレコーディングの演出は、アルバムを楽しむ一つの手段であって、ジミの魅力を引き出せているかというと疑問である。だから、アルバムよりもライブ・パフォーマンスのDVDをお勧めしたい。どれを見てもジミの生き様を見ることが出来る。
見せる(魅せる)ギタリストの最初のアイコンではないだろうか。
2005年8月5日
花形
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