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『イン・ザ・シティ・オブ・エンジェル』 ジョン・アンダーソン


「こういう音楽は自分には合わなかった・・・」ってアルバムを発表してからコメントしてしまう潔さというか何と言うか。
やはりジョンは天使の子供なのだ。

 澄み渡るエンジェル・ヴォイス。
バッキングはドラマチックあり、変拍子ありの曲者YES。そのヴォーカリスト、ジョン・アンダーソンが1988年に発表した『イン・ザ・シティ・オブ・エンジェル』は当時の流行であったAORを取り入れた意欲作だ、と思っていた。
冒頭のインタビューを聴くまでは。

 当時、私は心待ちにしてこのアルバムを聴いたわけでもなかった。ただ何となくレコード屋に行き、何となく手にとってみただけだった。ほんの気まぐれ。
 ジョンが西海岸のミュージシャンとどんなアルバムを作ったんだろうか、くらいの軽い気持ちだったと思う。
なにせ霧雨の降るロンドンのジトジトした地下室のスタジオで、ガッチャンガッチャンと変拍子を刻んでいるイメージのYESのヴォーカリストが、西海岸でTOTOのメンバーとどんな音を出すんだ、という興味本位だけだったかもしれない。

 YESは当時『ビッグ・ジェネレーター』(1987)を発表しており、トレヴァー・ラヴィン色の強いアルバムでジョンはどこか居心地が悪そうだった。
実際ライブのセットリストでも揉めることがあり、バンドに対してフラストレーションが溜まっていたのではないかと思われる。だからソロアルバム制作ということもわからないではないが、今までの曲調と180度違う音楽ともいえるAOR。いくら時代がそうであってもブリティッシュ・プログレの雄であるYESのフロントマンが・・・と思うのだが、私はとにかく軽い気持ちで聴いた。

 これが実に気持ちよいのである。
ジョンのハスキーハイトーンヴォーカルが一つの楽器の如く、乾いた軽快なブライトサウンドに溶け込む。
 アメリカ西海岸の一流どころのミュージシャンが集まって制作したアルバムだ。クォリティ的に悪いはずが無い。あとは好みの問題。
 ついでに言えば、ヴォーカリストとしてのジョンが好きなのか、YESのジョンが好きなのかと問われそうだが、どちらの音楽性にも音はフィットしているということは、私はきっとジョンの声が好きなんだろうなと思うのだ。

 今、改めてアルバムを聴くとシンセサイザーの音色やリズムパターンに多少の古臭さは感じるが、80年代ポップスのフォーマットに則った上質なアルバムである。
跳ねるようなジョンのヴォーカルが、お気楽なリズムに適用し、YESでは出すことのできないシーンを私たちに体感させてくれる。
 世間的には名盤とは言い難いかもしれないが、決して侮れない作品であるし、少なくとも私は発表されてから何度も聴きなおしているので、私にはとてもフィットした作品だ。

 偉大なバンドのヴォーカリストがソロアルバムを出すと、比較対象が有る分余計な感想を持たれる。
ストーンズのミックやキース、フロイドのギルモア、ビートルズのジョンやポールだってそうだった。
 私は、バンドではできないことをソロアルバムに託すミュージシャンが結構好きなのでこのアルバムもすんなり入ったのかもしれない。たとえジョンが冒頭のコメントのように失敗作だと言ったとしても!
だから、バンドと同じようなことをされるとゲンナリすることもある。
誰とは言わないが、それバンドでやれば良いじゃない!って突っ込みを入れたくなる。
そういう意味でこのアルバムは大満足である。


2015年9月25日
花形

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