あゝ青春 トランザム
1970年代の青春ドラマは、「俺たちシリーズ」に尽きる。
「俺たちの旅」:中村雅俊主演。大学生が就職を控え、社会に旅立つ苦悩を描いた。
「俺たちの祭」:中村雅俊主演。売れない劇団員にスポットを当てた。
「俺たちの朝」:勝野洋主演:鎌倉を舞台に男2人と女の友情を描いた。
そしてこの「俺たちシリーズ」の中で異質だった「俺たちの勲章」。
「俺たちの勲章」は「俺たちシリーズ」の中で唯一の刑事ドラマで、当時の人気俳優、中村雅俊と松田優作という2人が主演した。
それまでの刑事ドラマにはない破天荒な刑事が登場し、強引な捜査や優しさのため犯人を逃がすなどの珍事件を繰り広げる。しかし最後は事件を解決していく。
「あぶない刑事」の原型ともいえる内容だが、松田の激しさと中村の優しさのコントラストが見ているものを引き込む。
僕が小学5年生の頃のドラマだ。学校でもかなりの人気があり、同じ刑事ドラマでも「太陽にほえろ」よりファンは多かった。
たしか、友達と「俺たちの勲章ごっこ」をしたこともあったっけ。
~中村雅俊のスリーピースのスーツと松田優作の革ジャン革パンツに憧れ、それに近い服装(全然近くないのだが・・・)を着て刑事ごっこをするのだ~
ドラマのオープニングはピアノのイントロ。松田優作と中村雅俊が交互にアップで映し出される。
そしてオンリズム。エレキギターが主旋律を奏でる。
出演者や脚本家のテロップのあと、「音楽 吉田拓郎 演奏 トランザム」と出る。
この瞬間がたまらなく好きだった。
「ああ青春」はこのドラマのために拓郎が書き下ろしたもので、この曲の他に「いつか街で会ったなら」も挿入歌として発表された。歌は中村雅俊だった。
「ああ青春」は、トランザムもシングルを発売し、拓郎も後に『ぷらいべえと』(1977)で発表している。それぞれアレンジが若干異なるが、やはり、テレビドラマのテーマソングが一番しっくりくる(サントラでシングルが出されていた)。
僕は、自転車に乗りながらいつもこのテーマソングを口ずさんでいた。
のんびりした旋律だが、“なんか、自由だな~”という気になっていた。小学生の分際でこんなことを思うのもおかしいが、本当にのびのびとした歌に聞こえた。
時は流れ、僕の住んでいる町のスーパーの催し物会場に懐かしい名前が掲げられた。
「トランザム・店頭ミニコンサート」
1981年、NHKは「国際障害者年プロジェクト」を立ち上げ、そのPRテーマソングをトランザムが担当していた。だから全国各地をキャラバンで廻っていたのだ。
僕の目の前であのトランザムが演奏している・・・。その時、トランザムは、コカコーラのCMやお酒のCMなど、CMソングをよく歌っていたので、会場は耳慣れた歌に活気付いていた。
買い物籠をさげたおばさんや店員たちもにこやかに手拍子をしていた。ミニコンサートは40分ほどで終了し、アンコールも無かった。1日2回のステージ。何かが足りない。
僕は勇気を振り絞って次のステージで「ああ青春」をやってくれ、とリクエストをしに楽屋(店の隅にパーテーションで仕切られたスペース)を訪ねた。
高校の制服姿の僕は、緊張しながらも「俺たちの勲章」で受けた感動を訴えていた。
ヴォーカルの高橋伸明は、びっくりした顔をしながらも了承してくれた。
2時間後、今日2回目のステージが始まった。
メンバーが立ち位置に散らばる。高橋伸明の白いテレキャスターがバイオリン奏法で効果音を出す。NHK「国際障害者年」プロジェクトのテーマソング「地球の仲間」から始まった。
コカコーラのCMで有名になった「裸足で地球を駆けるのさ」や「世界は今日も回っている」など耳慣れた歌が続く。そして、最後に再度「地球の仲間」でミニコンサートは終了した。
拍手の中、ヴォーカルの高橋伸明はマイクに向かって叫んだ。
「あと1曲やらせてください!知っている人は歌って!」
あのピアノのイントロが流れた。
鳥肌が立った。
“あー青春はもえる陽炎か・・・”
僕は、大きな声で歌っていた。
周りをみると、結構口ずさんでいる人もいた。
ベースの富倉安生が僕にピースサインを送ってくれた。
2006年9月29日
花形
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