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『Superfly』 Superfly

 今年も紅白に出るようで。
デビューの頃はそんな感じではなかったけれど。
大学の軽音学部の延長のような素人さと、古臭いフレーズの中を突き抜けるヴォーカルが新鮮でしたねぇ。
2023年12月



 いやぁ困ったものだ。
たまたま観ていた音楽番組“僕らの音楽”。
Superflyという名前のシンガーが歌っていた。携帯の小さな画面で、しかも音も内臓スピーカーという小さいものだったが「I Remember」という歌を聴いて、私はSuperflyの虜になった。
 翌日、したり顔で中学1年の長女に
「お前、Superflyって知ってるか?あれ、良いぞ。」と言うと
「あっ!いいよね、パパ持ってないの?私、ラジオでエアチェックはしているんだけど・・・
ちゃんと聴いてみたいんだよね。テレビドラマの主題歌とかCMソングになっているやつとか・・・。」
私は「I Remember」しか聴いたことがないというと、不思議そうな顔をして
「Superflyって結構有名だよ。アルバムが新人初登場1位、しかも2週連続は記録らしいよ。」

私は急いでSuperflyのファーストアルバム『Superfly』(2008)を手にした。

 アルバムジャケットからして音が見えてきそうだ。HIPなスタイル。細いヘアバンドや花をちりばめていて、どこか懐かしい。ジャニスやフラワーチルドレンの香りが漂う。

 “Superfly”は越智志帆のソロユニット。当初は2人組のユニットだったが、ギターの多保孝一がコンポーザー・アレンジャーに専念するという理由でソロユニットになった経緯がある。
彼女が影響を受けたもの…「1969」という作品もあるように、あの頃の音楽をオマージュしたものが多い。
一瞬、ひと昔前の「ラブサイケデリコ」を想起させたが、Superflyのほうがストレートなサウンドだ。
時代は廻るとよく言うが、30年の歳月の中であの当時のサウンドを現代のアレンジに施すことで、今のリスナーに受け入れられたのだろう。

 1984年生まれの越智がティーンエイジャーだった1990年代の半ばは、小室哲哉に代表されるレイブ系のダンスミュージックが日本の音楽界を席巻しており、街中テクニカルなサウンドで溢れていた。
海外でもグランジやヒップホップがトレンドで、そんな音の洪水の中、高校3年の時に聴いたジャニスの声は彼女の心にストレートに入って来たに違いない。
シンプルな音の中で一本筋の通ったヴォーカル、愛と自由を訴えた1960年代後半の音は、混沌とした1990年代後半とオーバーラップするものがあったのかもしれない。

 アルバム13曲を通して聴くと、なるほど音は60年代70年代のテイストに溢れているが、肝心のヴォーカルはことのほか素直であることに気づかされた。しかもソウルフルである。これは簡単なようで、とても難しいこと。ジャニスが好きなヴォーカリストは当然物真似の歌いまわしがあるもので、せっかくのサウンドに水をさしてしまうことが多い。そのヴォーカルを聴くくらいなら本家本元を聴いていた方がいいと言う判断になるのだ。例えば、ビートルズが好きでプロミュージシャンになったチューリップや矢沢永吉がなぜ確固たる地位を築き上げることができたのか、という答がそこにあると言うものだ。
(最近のミュージシャンで言うならミスチルはビートルズを上手く浄化したと思う)

 Superflyのファーストはとにかく聴きやすい。但し、次回作の方向性をどこに持っていくのか、非常に難しい選択を強いられるだろう。このままHIP路線で走り続けるのか、新たな道を作るのか。
懐かしいテイストが散りばめられたSuperflyは、ティーンエイジャーから私のような40代まで幅広い層のフォロワーを作り出した。これは紛れも無い事実である。

この先、流れの速い女性ヴォーカルの世界でどこまでいけるかが楽しみなミュージシャンである。

2008/6/6
花形

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