私はあなたの娘 #1

マミー68歳。なんだかおかしい。
いつも穏やかで、笑っているマミーがすぐ怒る。
私の帰りが遅く、ジジや孫たちに何か夕食を作ろうとして野菜を刻んでいるけど、何を用意しようとしたのかわからなくなったと言い、刻んだ野菜はまな板の上。私の帰りが遅いからだと、顔を見るなり怒ってきた。遅いと言っても、仕事帰りに夕食の食材を買い物していただけでいつもの日常と変わらない。

もともと料理は得意じゃないマミー。一緒に暮らすようになってからは、私が家族の食事を用意している。もっと言うと、小学生の時には共働きの母親の役に立ちたくて、食器洗いや味噌汁やカレーを作ったりしていた。高校生になると、5時に起きて、自分のお弁当のついでにマミーのおかずも作っていた。
その日は何でマミーが用意をしようとしたんだろう。お腹すいたのかな。
私は、気づいてなかった。ずっと一緒にいたのに。

私の娘が、くーちゃんおかしいよ。小銭を何度も数えてお金が無いって言ってるの。お金はこれだよって言っても、これはお金じゃないって。他にも飴をいつも何個も食べてるのに、食べてないのになくなってるって言って、私達が勝手に食べたって言うんだよ。黒飴なんて食べないのに。って訴えてきてやっと認知症を疑った。

ネットで認知症について色々調べた。初期症状がいくつか当てはまる。近所の病院を調べて、受診するように進めるけど、全くその気にならない。

仕事を半休していつもより早く帰れた日、マミーが暗い部屋で横になり、一人、天井を見つめていた。ジジは、いつもと変わらないと言って、ヘラヘラ笑いながらテレビを見ていた。

仕事をリタイヤした夫婦は、日が落ちると晩酌を始め、気が済むまで飲むことが日課になっていた。私は、両親の体を案じ、毎日じゃなくて曜日を決めて週に3回くらいに留めるよう勧めたが、定年後は好きなように暮らすの一点張りで、聞く耳を持たない。私の友人がアルコール中毒で通院していた時、主治医から、記憶をなくす飲み方は、脳細胞を壊すから若年性アルツハイマーになると言われ、治療に専念した話をしても両親はヘラヘラしているだけ。

定年後、夫婦の会話もなく、暗い部屋で過ごしていたマミーは、違う人物へと変わっていたのかもしれない。一緒にいる家族が気づかないうちに、少しずつ、少しずつ‥

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