味わうだけではなく

ひとり暮らしの母のところへ行く。
(母は、今年87歳で要介護4でヘルパーさんに助けて頂きながら暮らしている。身体の機能がだいぶ落ち込んできていて、食も細くなった…。)

ちょうどお昼時だったので昼食を買って行った。
自分の分のお弁当と、母には前回リクエストを受けたお刺身を買って行った。(ちなみに、私はお刺身が食べられない。)

けれど、母は食べる気分ではなかったらしく、私は買ったお弁当をひとりで食べた。

「何を食べているの?」と聞かれたので、「油淋鶏、ピリ辛の唐揚げみたいなやつ」と答えた。
母はピリ辛は好まないけれど、せっかくなので匂いだけ嗅いでもらった。

食べていたお弁当を母の前まで持っていくと、母はくんくんと匂いを嗅ぐ。
それから「おしょうゆっぽい匂いね」と言う。

そうか、ピリ辛は味として好まないけれど、匂いなら大丈夫なのか。
食事は食べるだけのものではないから、こうやって、食べないものも匂ってみるのもいいなあと思う。

お刺身は夜ご飯で食べると言うので、食べやすいようにお刺身を一口大に切っておくことにしよう、とその前に、パックに盛られたお刺身を見てもらうことにする。

「これ、マグロの中トロ。少し高級なスーパーで買ってみたよ」と、パックを母の前へ持っていく。

「あら、あぶらが乗っていて美味しそうね」

そうよ、せっかく高級なスーパーのお値段もお高いお刺身なんだから、まずは目で楽しまないとね。
一口大に切ってしまったら、見映えが良くなくなってしまう。

お刺身は、たれとネギなどの薬味とで和えて、器に盛り付ける。
いつものスーパーで買うお惣菜ならば、タッパーに入れておいたほうが、数日で食べるのには便利だけれど、せっかくの高級なお刺身なのだからタッパーなどではなく、やはり器に盛らねばおいしさが半減してしまいそうだ。

食が細くなって、「食べられなくなった」と寂しそうに言う。
食べられなくなった、けれど食欲はまだありそうなので、匂ったり見たりすることで食事を楽しんでもらうことももっと心がけよう、と思った。

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