「さすらいのラーメン五郎」【立志編】
「ジリリーン 」
目覚ましの音で五郎が起き上がる。
「ようし今日も始めるか 」
いつもの調子で身支度を整えてアパートを出る。
店まで歩いて十分程だ。
【朝六時】
誰もいない店の裏口の施錠を開け、シャッターを上げる。
まずは冷蔵庫のチェックだ。
昨日仕込んでおいたスープの状態を見て、コンロに火を入れる。
焼豚の具合も確認し、野菜の具も補充する必要があるか点検する。
足りない物はメモに書きだして、後で業者にFAXしておく。
レジの釣銭も不足してないか重要な事だ。
【朝六時三十分】
さあ店の前を掃除だ。
今日は天気がいいからタバコの吸い殻や空き缶を拾い集め、店周辺五十mを掃いて水を撒いておく。
出勤途中のサラリーマンや学生の邪魔にならないように。
近所の人達に声をかけてもらう。
「おはようございます いつも綺麗にしてもらいありがとう 」
そんな光景を毎日続けていた。
【朝七時】
バイトの健治が出勤してくる。
「おはようございます。五郎さん 」
「おうっ。おはよう 」
コイツが来ると、店の開店準備も忙しくなる。
「ようし、ランチタイムのチラシでも撒きに行くか! 」
昼のランチに備え、新規顧客向けにクーポン券配りだ。
何せここ、高田馬場はラーメン激戦区だ。
SNSを使うのが今風なんだが、あえて紙で配る五十円引券だが、一日限定百枚だ。
あっという間に無くなる。
【朝八時】
師匠の大山一平が登場だ。
この人が来ると緊張感が漂う。
気が抜けないのだ。
店の掃除、厨房のチェック、レジ廻りの管理等を日々見られるのだ。
ダメ出しされないか気が気で無いからだ。
「ようし、今日もオーケーだ。みんな気を抜くなよ! 」
これを聞くと、店が始まる。
兎に角、店は綺麗だ。
隅々まで手入れが行き渡っている。
お客様を気持ち良く迎え入れる為だ。
一杯千円だが、これを食べにくるのを楽しみにしている人達がいる事に感謝するのだ。
【朝十一時三十分】
既に店の前には行列が。
その数、十数名。
次々とお客さんが並び始める。
「醤油一丁! 」
師匠の声が店に響く。
皆、黙々とラーメンをすすっている。
黙って、どんぶりをカウンターに置いて。
「ごちそうさま 」
完食してくれるお客さんがほとんどだ。
限定百杯は一時を過ぎる頃には売り切れとなる。
醤油味のメニューでこれだけだが、毎日食べに来るお客さんがいるのだ。
そして「売切れ御免」の札を下げるのだ。
とにかくありがとうございます。