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「時を超える魔法、横井軍平の任天堂ノスタルジア。」

牧野 武文
任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代 (角川新書)

📕 ブックレビュー
この作品は、任天堂の黎明期に活躍した伝説の開発者、横井軍平の生涯と功績を描いています。彼は「ゲーム&ウオッチ」や「ゲームボーイ」など、数多くのヒット作を生み出し、カリスマ経営者・山内博の右腕として知られています。本書では、横井の斬新な発想と、それに隠された苦悩や挑戦に焦点を当てています。また、彼の「枯れた技術の水平思考」という哲学が、どのようにして任天堂のイノベーションを牽引したかも詳述されています。

本の評価
牧野武文は、横井軍平の人物像と彼の仕事へのアプローチを深く掘り下げ、読者に彼の思考プロセスと創造性の源泉を理解させます。本書の強みは、単なる経歴の紹介に留まらず、横井の哲学と任天堂の文化を織り交ぜながら、読者が彼の成功の背景にある要因を感じ取れる点にあります。ただし、著者の私見が多く含まれているため、客観性に欠ける部分もあるとの指摘もあります。それでも、横井軍平という人物を知り、彼が任天堂に与えた影響を学びたいと考える読者にとっては価値ある一冊です。

まとめ
「任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代」は、任天堂という企業が世界的な成功を収めるまでの道のりと、その中心人物の一人である横井軍平の貢献を描いた重要な文献です。彼の革新的な思考と、時には逆境に立ち向かう姿勢は、今日のビジネスリーダーやクリエイターにとって多くの示唆を与えるでしょう。牧野武文による丁寧な調査と情熱的な記述が、横井軍平の遺産を次世代に伝える貴重な役割を果たしています。この本は、ゲーム業界に興味のある人だけでなく、イノベーションと創造性に関心のあるすべての人に推奨される作品です。

横井軍平は、日本の技術者でありゲームクリエイターとして知られています。彼は1941年9月10日に京都市で生まれ、1997年10月4日に石川県で亡くなりました。横井は「携帯ゲームの父」とも称され、任天堂開発第一部部長として「ゲーム&ウオッチ」、「ゲームボーイ」、「バーチャルボーイ」などの開発に携わりました。彼の「枯れた技術の水平思考」という哲学は、任天堂のイノベーションを牽引する原動力となりました

横井は同志社大学工学部電気工学科を卒業後、任天堂に入社しました。彼のキャリアは、暇つぶしで作ったおもちゃが社長の山内溥に認められ、商品化されたことから始まります。その後、横井は任天堂の玩具開発を担当し、多くのヒット商品を生み出しました。また、彼は「十字キー」を考案し、これが後続の任天堂のテレビゲームのデファクトスタンダードになりました

1996年に任天堂を退社した後、横井は株式会社コトを設立し、携帯ゲームや玩具の開発を続けました。彼は「ワンダースワン」の開発にもアドバイザーとして参加し、ワンダースワン用のパズルゲーム「GUNPEY」は横井の監修によるヒット作となりました。しかし、会社設立からわずか一年後の1997年に交通事故で亡くなりました

横井軍平の功績は、今も多くの技術者やゲーム業界で語り継がれており、彼の思考や技術がビデオゲームの発展にもたらした影響は計り知れません。彼の創造性とイノベーションの精神は、現代のゲームデザインにも大きな影響を与えています。横井軍平は、ゲーム業界における真のパイオニアであり、その遺産は今後も価値を持ち続けるでしょう。

枯れた技術の水平思考は、任天堂のゲーム開発部の巨人である横井軍平氏によって打ち立てられた製作哲学です。この哲学は、価格が安くなった古い技術を新しい方法で活用し、新しい商品を生み出すという考え方に基づいています。横井氏は、技術者としての自分の技術をひけらかしたいという欲求に反し、最先端技術を使うことを夢に描いてしまいがちな傾向に対して、売れない商品や高い商品が出来てしまうという問題を指摘しました。その代わりに、彼は値段が下がるまで待つ、つまりその技術が枯れるのを待つというアプローチを提唱しました。枯れた技術を水平に考えていくことで、既存の技術を新しい角度から見ることができ、オンリーワンの商品を生み出すことができると考えたのです。

この哲学は、横井氏が任天堂で手掛けた多くの製品に反映されています。例えば、1969年に発売された「ラブテスター」は、理科の授業で使われる検流計と同じ技術を使用しており、愛情測定と結び付けることで新しい商品として開発されました。また、1980年に発売された「ゲーム&ウォッチ」は、新幹線の中で暇潰しに電卓のボタンを押して遊んでいる人を見て、暇つぶしのできる小さなゲーム機を発案したことがきっかけで商品化されました。この商品は電卓と同じ技術を使用しており、電卓需要が頭打ちだった当時、新たな販売先を模索していたシャープと協力して発売に至りました。

枯れた技術の水平思考のメリットは、すでに一般化・陳腐化した技術を使うことによって、開発・製造コストを安くすることができる点にあります。逆説的に言うと、これは技術競争には参加しないということにもつながります。横井氏は1990年代半ばに「家庭用ゲーム機はアイデア不足。アイデア不足の逃げ道はCPU競争であり色競争しかないものだ」と述べ、高性能化する家庭用ゲーム機を皮肉っています。CPU競争や色競争などの技術競争になると、その分開発費が嵩み、商品の値段も高くなります。その結果、高いだけの売れない商品が生まれてしまうことを横井氏は懸念していました。古い技術の使い方を工夫することにより、オンリーワンの商品を生み出すことが、結果的には競争にならない、売れる商品が生み出せると横井氏は考えたのです。

横井氏の死後も、枯れた技術の水平思考は任天堂に受け継がれています。例えば、2004年に発売されたニンテンドーDSは、画面にタッチして操作する技術が一般的であり、画面のグラフィックも当時発売されていた他のゲーム機に比べて劣っていましたが、爆発的ヒットとなりました。その成功要因を当時の任天堂の社長・岩田聡は、同社に残っていた枯れた技術の水平思考の伝統だったと述べています

このように、枯れた技術の水平思考は、新しい技術に飛びつくのではなく、既存の技術を新しい視点で見直し、それを活用して新しい価値を生み出すという強力な哲学です。横井軍平氏のこの考え方は、今日のビジネスや製品開発においても非常に重要な意味を持ち、多くの企業やクリエイターに影響を与え続けています。

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