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キタダヒロヒコ詩歌集

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三重県で詩や短歌、俳句を花びらのように書き散らしてきました。noteマガジンにまとめていきます。ぜひお読みいただけましたら嬉しいです。あなたのどこかに残る言葉がありますように。
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2023年1月の記事一覧

詩的履歴書  書くことは生きること

13歳で萩原朔太郎と出会ってしまい詩を書き始める。 翌年、中原中也と出会う。 この頃から詩の投稿開始。 16歳で知りあった高校文芸部の先輩に詩のノートを見せて感想をもらうようになり、その人を通じて谷川俊太郎に出会う。「本当のことを言おうか 詩人のふりはしているが わたしは詩人ではない」「黙っていた方がいいのだ もし言葉が 言葉を超えたものに 自らを捧げぬくらいなら」などの詩句を彼女から示される。 当時、隣の伊勢高にいらっしゃった詩人の渡辺正也先生にも一度だけ詩のノートを見て

キタダヒロヒコ詩歌集 134 10代の頃の詩より① 頭上に月

 頭上に月    キタダヒロヒコ えぬ子はカアペットのうへで猫になりながら犀星の顔の皺を伸ばしてゐた。手つきが可憐だつた。こしこしと擦られては丁寧に伸ばされていく犀星の皺のはうでも、満更でもない様だつた。「犀星の皺つて……」えぬ子は呟いた。「いゝわね。」わざと僕は聞かなかつた。「そんなら。」と朔太郎の顔を床に置いた。「いや。」えぬ子はあからさまに顔を曇らせて、朔太郎の顔に突つ伏した。湿つた音を立てて何度も接吻した。それから僕に飛び付いて、倒壊した僕の太腿を朝まで舐めてゐた。

キタダヒロヒコ詩歌集 133 夜行列車十首 その➂

 沼津を出れば眠ってしまう。やがて神奈川県内へ。車内アナウンスは貴重品盗難への注意の呼びかけを最後に途絶えた。…… 6 「横浜です」のアナウンスに目輝かせ旅の疲れも忘れむ、友よ!  4時05分。「おはようございます。」の車内放送。まもなく横浜着を告げる。 7 4時12分青く明け来し川崎の冷気の中をわが汽車は行く  4時08分横浜着、同09分発。川崎には停車しない。あと東京まで停車駅は品川と新橋のみ。もう空はあおみを帯びはじめた。皆起きはじめている。横浜のアナウンスに胸

キタダヒロヒコ詩歌集 132 夜行列車十首 その➁

3 友とゐる二十歳の夏の道行きは互ひの距離を短縮せしめ  今回乗り合わせた全員が2年生で同級である。過去に面識のあったK、Yの両君と、この靖国での奉仕への参加が縁となったN、Hの両君と。幸運なことに、彼ら4人とも僕にとって精神的距離を感じさせる相手ではなかった。様々な話をした。H君とは(島崎)藤村のうたを語った。名古屋からの距離が遠ざかるほどに彼らとの関係が徐々に狭まっていく。親密さの度合いが増してくる。  ところで、夜行列車の風情の、「道行き」のイメージになんと相応しいこ

キタダ詩歌集再録Ⅵ プーさんの手術(オペ)

noteを始めたころに投稿して、あまり多くの方に読まれていない作品を再録してアップします。 お読みいただいたあと、引用部の「スキ」をぽちっとしていただけたら喜びます笑。あ、コメント欄は宝物ですので、ぜひ一言お願いします! では、きょうはこの短歌を。 コメントやスキをお待ちしています! サポートやオススメをいただけると、とてもとても嬉しいです。

キタダヒロヒコ詩歌集 131 夜行列車十首 その①

 昭和最末期の大学生だったわたしが、当時書いた連作です。  時代性を感じる表現がところどころにありますが、いまとなれば貴重な記録かもしれません。上京の目的など、どういうこと?と読者が思われるであろう箇所もそのままにしてあります。ぜひコメント等でご質問ください。では、一夜の旅の記録にお付き合いください。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※    昭和61年7月10日夜から翌11日早朝にかけ、靖国神社における社頭奉仕のために東京へと向かうべく、

キタダヒロヒコ詩歌集 130 中体連ソフトボール決勝

球と影いいえ影と球逢ふ刹那そこに来てゐたかつた、左翼手(レフト)は 健気なるエースの父は鳴る神の大音声(だいおんじょう)に鳴りて佇(た)ちゐたり 逆転打みてゐる僕は役員章つけてポカリを飲んでゐしのみ 逆転打まなうらに刻み立ち去れるわれらはおなじけふのむらびと 人生に幾度か区切りの日はありて区切りの涙流せしが終はらず コメントやスキ、お待ちしています。 サポートやオススメ、記事紹介などしていただけるととてもとても嬉しいです!

キタダヒロヒコ詩歌集 129

忘[ら]るるは死ぬると同じさういへば木の葉のやうな魚を飼つてゐた コメントやスキ、お待ちしています。 サポートやオススメ、記事紹介などしていただけるととてもとても嬉しいです!

キタダヒロヒコ詩歌集 128

火の速度で近づいてきて去つた影はどの雲かもうわからないけど コメントやスキ、お待ちしています。 サポートやオススメ、記事紹介などしていただけるととてもとても嬉しいです!

キタダヒロヒコ詩歌集 127 JR参宮線宮川駅

  JR参宮線宮川駅     キタダヒロヒコ 名にし負ふ宮川の橋わたらひて伊勢よりかへり来る車両かな 緑蔭に各駅停車(ローカル)停まり若き日の教へ子たちが手を振りてゐつ 昼もなほ改札に駅員無きをくぐりて吾も手を振りにけり 笑つてゐたのであらう 誰だかはわからなかつた かげになづんで 「見はるかす伊勢の大野」を日々よぎりやがて見えなくなるあなたたち コメントやスキ、お待ちしています。 サポートやオススメ、記事紹介などしていただけるととてもとても嬉しいです!

キタダヒロヒコ詩歌集 126 すなとけい 

すなとけいたふせはおつるすなのかさふしのかたちにかたふきにけり ※漢字変換の一例 (砂時計倒せば落つる砂のかさ富士の形に傾きにけり) とめとなくまさこはおちてさらさらとまさこのふしのみねくつれけり (止めどなく真砂は落ちてさらさらと真砂の富士の峰崩れけり) すなとけいたふせはすなのおちはててまさこはつかにさかにのこれり (砂時計倒せば砂の落ち果てて真砂はつかに坂に残れり) はつかに…古語で「僅かに」の意。 コメントやスキをお待ちしています。 紹介記事を書いてくださ

完全なる詩人

朔太郎は完全なる詩人であると思う。生涯、いたたまれないほどのポエジイを頭のてっぺんから爪の先にまで抱え、蒸散し、滴らせ、引きずり、起爆力ある詩句を書き続けた。常に変貌し、自己完結しようとせず、肉体亡びて80年のいまなお甚大なる磁場で他の表現者を、他領域をインスパイアし続ける。そしてなにより、生きづらい生活者であった。「師よ 誰があなたの孤独を嘆くか」(三好達治)。のすたるぢやとポエジイの化身、わが師萩原朔太郎よ。

キタダヒロヒコ詩歌集 125 土蜘蛛 

 土蜘蛛     キタダヒロヒコ はるかなるセンベイ布団の夜の底で這ひまはりゐた土蜘蛛である Deutsch語の辞引を閉ぢて瞑想し女性名詞の物ら恋ふらし 垂直に頭をもたげ起床せり朝へ打ち込む棒杭のやうに コメントやスキをお待ちしています。 サポートとオススメをしていただけたら最高に嬉しいです。

キタダヒロヒコ詩歌集 124 海辺にて

 海辺にて     キタダヒロヒコ なにか散文的な用のため 海辺へ来たときにも 一群のさざなみとともに 沖から走つてくる衝動を 見る日がある。 自由の証として 潮風に朽ちかけた柱に攀ぢのぼり たるんだ電線を手繰りよせるときにも 味の失せたガムを噛みながら 測量器を覗きこむときにも 死ぬまで出逢はぬひとの数に 思ひを馳せたりする 質量とか重力とか それから時間とか 地上での自由を 神々が統べている でもいつでも 解き放たれる準備は ととのつてゐる ととのつてゐ