シェア
よく晴れたたそがれは まだ明るく どこかに色がかくれている よろよろと最初の花火 とおくから 河のにおい 群集のけはい 一瞬の 同心円の 花々 火の花々 どの屋根にも届かず消える 火のしずくら さいごのスターマインが果てれば なまあたたかい夜が満ちてくる 車と人の群れが わんわんと街に流れ出して すぐに しらじらと暑い朝が来てしまう 毎年こうして もう夏ですと告げられるのだ
キタダヒロヒコ あんなにもひどい言い方しちまった俺に 見て、綺麗な水晶でしょう って 萩原朔太郎/キタダヒロヒコ どうして、俺はいつもかうなんだ
(よく来るのは、)カルパッチョ口に運びつつ真顔でやつぱり新宿と言ふ
なにもかも吹き飛ばしつつうつとりとゆきたいきみの南隣りを
いちにちを脱いではあをき水たたへ何を育てに入る夜の壺
君知るや名残りの花のはなざかり
魂の地獄が、歌にはふさわしい。(岡井隆) キタダヒロヒコ 底冷えの朝わたくしの最も浅いところから凍ててきてゐた 今はなき店のチャーシュー麺のブタころされるとき痛かったろうな とむらへば灰あをぞらにながれゐて光といふことばが口を衝く
なつかしいような 不安なような夢をみたが もうどんな夢か忘れてしまって そこに漂っていた香りだけをおぼえている たぶん そんなふうになるのだろうとおもう 永い永い年月の彼方の痕跡なのに 一瞬でその場所に還る なつかしいとまどいとよろこびに その音はいつでもなんの前触れもなく わたしの前に来て鳴っているのだ
いさかひを夜が聴いてたしんしんしんしんしんしん窓が開いてた瞳のやうに
火の速さで近付いてきて去った影はどの雲かもう分からないけど
うふすなのうみにやすらふおれたちのかくもやさしき祖国こそ散れ
新年の楽しみな予定。 「教育文芸みえ」(休刊から早や10年以上…全国でいちばん最後まで残っていた教職員の文芸誌でした)の短歌欄でつながった皆さんと、1年ぶりの歌会をします。 1月5日しめきりで、ひとり3首の出詠。とりまとめ役はわたしです(笑)。皆さんの歌が楽しみ❗わたしキタダはといえば…今のところできたのはなんだかうら悲しい歌ばかりなので、旧作も交えて「この歌がどう読まれるか?」というのを出したいと思っています。 大正九年盲ひし祖父のまなうらの大正九年の蝶のはためき
あなたに見せたい言葉がある あした あなたに贈りたい また一篇の詩 あなたはいつも読書の手を停めて わたしからの言葉に目を落してゐる そしてなんの飾りもない すきとほつたクリアファイルごと持ちかへる あなたの部屋のどこかに わたしの言葉が蔵はれ しづかに積もる ああわたしのどの言葉が あなたのなかに残つてゐるか 刺さつてゐるか 刻印されてゐるか TATTOOのやうに 鈍感をよそほひ あなたはわたしの目論見を おそらく知つてゐよう のびやかにもひつそり潜く海女