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1999年から2003年までの阪神タイガース その⑬

名前は伏せる。

「12球団男」をご存知ですか?

文字通り、12球団を応援する男。

断言する。
関西の古参、球場に通っている野球ファンなら
「絶対に」一度は見たことがあるはずだ。

こいつには逸話が多い。
とにかく多い。
ここでは話せない話もある。

12球団男について簡単な紹介を。

彼は僕が生まれる前。
かれこれ40年以上前から球場に通っている。
年齢不詳。だが随分と先輩だ。

僕は阪神、横浜、広島、そして巨人。
パリーグだとオリックス、近鉄、そしてダイエーの応援グッズに身を纏った12球団男を目にした事がある。

応援歌はコンプリートだ。
ネットのない時代に応援歌をコンプリートするにはかなりの努力が必要かと思われる。

他の客のどんなリクエストにも応える。
99年に酔った巨人ファンがからかってレフトで近鉄の応援歌を歌わせていた。
これには外野席にも笑いが起きた。
知らない応援歌はこいつに聞くと分かった。

こいつの凄いところは、
40年以上冷める事なく球場に通っている事だ。
そして、純粋にプロ野球を愛している事。
野球への愛は深い。

こいつの悪い所も書いておく
トラブルが多い。
球場でよく「揉め事」を起こす。

※以下省略

いや、省略しなくても良いか。
簡単に書いておこう。

まず他球団のファンや通行人に絡む。
とにかく絡む。

警備員にも絡む。
球場や他の客への不満をぶちまける。

喧嘩も目にした。
喧嘩と言っても、
一方的にやられていたのだが。

この男はガタイが良い。
彼方から迫って来られ
「阪神!!!好きですか!!?」
「写真撮ってくれる!!!」
などと大声で言われると周りは凍りつく。

2000年。
甲子園でダフ屋のババアと喧嘩をしている姿を目にした。
全身ベイスターズの格好で現れた12球団男がポッキーをくれとババアに絡む。
ババアがブチ切れて逆上し12球団男に蹴りを入れる。
倒れ込んだ12球団男が逃げる。
この時は12球団男よりババアの強さに驚いた。
しかしユニが佐伯だった為12球団男の勝利だ。

2002年。
大阪ドームでの試合。
ダイエーが勝利し、
ファンは二次会に酔いしれていた。
応援団がリクエストを募ると、
12球団がふざけながら手を挙げた。
応援団がブチ切れ外野席が一気に凍りついた。
(周りは知らないフリ)
柴原のユニを着ていた。

2000年。
グリーンスタジアム神戸でファンとトラブルになり
球場外の噴水に嵌められたが笑顔で泳いでいた。
オリックスのニールのユニを着ていた。

2003年。
チケットぴあ阪神プレイガイドでマスターズリーグの前売り券を買いに来たが
発売日が未定ということに腹を立て叫び倒していた。
矢野のユニを着ていた。

2003年。
枚方の花火大会にカツノリのユニで来ていた。

1999年。
指定席なのに始発できて21号門前に並んでいた。
前日に乱闘に巻き込まれハッピはボロボロ。
顔面アザだらけだった。
朝焼けの笑顔が眩しかった。

1999年。
真弓ダンスでコケる。
アンスリーの前。
真弓もきっと苦笑い。

1999年。
巨人の格好をして二次会に参加。大乱闘。

2000年。
ヤクルト稲葉のユニを着てアンスリーで買い物をしていた。
おれは稲葉が嫌い!!!
と叫んでいた。

稲葉はお前の事がもっと嫌い。

1998年。
ダイエーのハッピを身に纏いグリーンスタジアムのレフト際のポールによじ登り小久保にポッキーよこせと叫んでいた。
小久保はキレていた。

2000年。
星野伸之!!25勝!!
と僕らの目の前で叫び消えていった。
この記録は2013年マー君まで達成される事はなかった。
広島の西山のユニを着ていた。

1996年。
お好み焼き屋に大声で入ってきて
「おばちゃん!!!!お好み焼きー!!!!!」
いやいや豚玉とかモダン焼とか言えや。
広島の帽子を被っていた。

40年前から。
二次会にはオール参加。
ネタフリが全く面白くない為嫌われていた。

2001年。
こいつが西武の格好をしている姿を目にした時は
良い事が起こるという噂が流れた。
これは笑った。

2008年。
僕は球場に全く通ってなかったが、
mixiの「野球迷物ファン」というコミュニティで話題にあがっていた。
画像付き。久々に見た12球団男。
思いっきりカメラに向かってピースしている。
大学のPC室で爆笑していたところ注意された。

2020年。
コロナ禍に突入。
チケットが全てインターネットでの発売となった。
12球団男を目にしたという声が無くなった。

2022年。
死亡説が流れた。






2023年5月。

プライベートで梅田を歩いていた。
目の前に阪神の格好を目にした男がいた。

目を疑った。

間違いない。12球団男だ。

良かった。生きてたんだな。

あの頃迷惑がっていた男も、
いなくなると寂しいもんだ。

ちなみにこの日は阪神の試合は無い。
服装?
水色。阪神の復刻ユニだ。

安心した。
そして遭遇したのはかつて阪神プレイガイドのあったあの場所。
並んだ。徹夜した。
思い出が沢山あるあの場所だ。

その瞬間、
一気に2003年に戻った。

あれから随分と時間が流れたんだな。


おい12球団男。
あの頃に来てたみんな、
もう球場行ってないぞ。

理由はわかるだろ。流石のお前でも。

40年以上休むことなく球場に通ってんのはお前ぐらいだよ。
日本中、いや、世界中探してもいない。

野球観戦規約というルールが出来た。
ヤジが笑えない時代となった。
替え歌ももう歌えない。
あの時代とはルールも雰囲気も違う。

失業、疾病、不慮の事故に家庭の事情。
生きてると納得のいかないこと、辛いこと、落とし穴や霹靂がある。

球場に来る事を諦めた人間も多いよ。

残念ながら
人生を終えた人間も。


でも、お前だから出来るんだ。
お前だから試合数をこなせるんだ。
強運の持ち主だ。



阪神のヒッティングマーチを口ずさみながら
消えていく12球団男。


生きてる間は球場に通うのをやめんじゃねぇぞ。

絶対に。



去り際に、心からそう伝えておいた。


メンタルモンスター。
12球団男。
甲子園で知った天然記念物の一人。

野球が「だいすき」
40年以上、ずっと一人で球場に来ている。

あと一人
あと一球

でも、生きている。

最後に勝つのは
きっとこの男。




試合の無い日に
プライベートで三度もこいつに会うのは
きっと野球の神様からの警告だ。




続く

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