1999年から2003年までの阪神タイガース その⑳
こだまという男がいた。
体重は140kgを超える巨漢。
顔は童顔のリベラ。
タイガースの縦縞の帽子を被り、
常に笛と線香を持ち歩く。
500m離れていても、それは「こだま」だと分かる。
前出しておくが新幹線の話ではない。
狂ったタイガースファンの話だ。
イエローシートに座っていても外野席にいる事が確認できるとても便利な巨漢だ。
改装前の甲子園の外野席はとても狭く、
こだまが座るには三席分必要だった。
当時の甲子園は巨人戦を除きガラガラ。
外野席上段のチケットがあればこだまは楽に座れる。
体臭だって気にしなくて良い。
こだまはとても早口で声が小さい為、
聞き取るには二度三度と聞き直さなけらばならない。
しかし仲良くなってくると、相手の思っている事は大体分かる。
当時の阪神ファンはそんなもんだ。
こだまは凄い。
何が凄いって?
それを話そう。
あのクソ弱かった暗黒時代に
甲子園で巨人を3タテしたレアなカードがあった。
記憶では2001年だ。
夏場に最下位が確定しているようなチームにとってそれはそれは嬉しいカードだった。
二次会が物凄かった記憶がある。
みんな六甲おろしを歌いながらストリップ大会で丸裸になっていた。
いつも通り甲子園から阪神電車、
ホワイティまで軍団は騒いだ。
しかしそれでは物足りず、こだまがこう言い出した。
「○×?◻︎💩🐕な○ば行△がう!!」
翻訳すると
「はんしんがきょじんにさんたてしてぼくはとてもうれしいです。ぼくははんしんをあいしてる。どうとんぼりからとびこみたい。ぼくはひととしておっきくなりたい」
巨漢がこれ以上大きくなると糖尿病確定だ。
お前は十分デカく、民度としては誰よりも低い。
引き止めるもこだまは聞かなかった。
そろそろこいつを病院に連れて行こうと話していたがそれでも道頓堀を目指した。
道頓堀、ひっかけ橋に着く。
川は相変わらず汚い。
軍団がやめておけと言うも、
このキチガイは聞かなかった。
こだま「行ーきまーすよー!!」
どっぱーーーーーーーーーーん!!!!!!!!
鼓動と水飛沫で真夏のなんばの街が揺れ、
街中が雨が降った後のように潤った。
十戒で川底が見え、
85年に沈められたカーネルサンダースが見えた。
軍団は爆笑。
しかし、こだまが浮いてこない。
あれ?!
あれれ!!??
二分後、やっと浮いてきた。
140kgある巨漢は川から上がる事が出来ず、
しばらく川べりで焦っていた。
既に軍団は過呼吸になるぐらい爆笑している。
軍団全員と駆け付けた警察官、周りにいた方の力を合わせ、やっと川から上がる事が出来た。
「こんなデカい奴、飛び込ませるな!!!!」
引き揚げた後に警察の方からお叱りの言葉を頂戴した。
当時はこれだけで済んだ。
寛容な時代だったと思う。
暗黒時代に道頓堀へダイブ出来るファンはいたかなぁ?
騒ぎファンではない。
タイガースを心から愛している不器用な本物の男だ。
これほど笑った一日は無かったかもしれない。
最高の夏休みだ。
その日阪神がどんな試合をし、勝利し、ヒーローインタビューは誰だったか。
全て忘れるぐらいの出来事がある。
それが二次会だ。
帰りの電車は
いつもクタクタで爆睡だった。
生きている事が嬉しくなる。
それぐらいの充実感があった。
この日のヒーローインタビュー??
誰か忘れたよ。
だって、この日のヒーローはこだまだから。
こだま!
最高の夏休みをありがとう!!
55000人のファンがこだまコールだ!!
さぁベンチからこだまが出てきた!
お立ち台に上がるこだま!!
あの巨人に3タテだ!
感極まるレポーター!!
煽るタイガースファン!!!
今日のヒーローはこだま選手!!
この55000人の大歓声!
あの瞬間、
どのような想いで打席に入りましたか!!?
インタビューは
聞き取れません。
続く
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