見出し画像

04.ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー #映画感想・解説

1.今日の余談(俳優とキャラクターの死生)

作品でたまに見かける「この作品を〇〇に捧げる」の文字。
俳優の訃報があった場合
代役をたてるか、そのキャラも出さないか、作品によって異なる。
映画はあくまで映像作品の世界であって、現実を持ち込むかどうかは賛否両論あるだろう。

「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」
ファンにとって今作は、前作主演のチャドウィックへの追悼の一本。
製作側の彼への愛で創られている。
彼の死後に製作されたこともあるが「チャドウィックに捧げる」作品だ。
こんな映画は観たことがない。

懐疑的な見方の方や、彼の訃報、MCUへの愛が薄い方へは刺さりにくいかもしれない。
それでも他の作品を知らなくても見れる、メッセージ性のある作品だ。

今回は他者の感想で見かけた不を自分の中で解消するため、頭を整理するため、この作品を受け入れるために書く。

(ちなみに早速4作品、noteへの記載をさぼっている。)

2.あらすじ

国王とヒーロー、2つの顔を持つティ・チャラを失ったワカンダ国に海の帝国の脅威が迫る。

3.こんな日に観て

・今作に限っては今、彼の死を受け入れるために観てほしい。
・1作目を見た後に観てほしい。
・重いテーマではあるので、そこは気を付けてほしい。

4.評価・感想

★★★☆☆3.4 人には勧めないが、アウトプットしたいので記載。
映画としては5以上で全人類に観てほしいが、人に気軽に勧められない。
各々の思想の核に触れると考えるため、気軽に感想を共有したいと思える作品ではない。

自身の整理のため、ネタばれありで書いていく

テーマは3つ
1:戦争(争いは対話不足によって起きる)
2:残された者(王位継承と守護者は別)
3:追悼

1:戦争(対話不足)

・タロカン VS ワカンダの戦争理由

今回の作品で重要なのは、何故「タロカンVSワカンダ」になるかだ。
ワカンダのみが保有する、万能金属ヴィブラニウム。
それを得ようとする各国が世界中を詮索する中で、海底で発見する。
しかし海底で発見されたものは、未開拓の国、水中に存在するタロカンの所有物であった。
彼らは自国が発見されることで、地上国からの脅威にさらされることを危惧する。
そこで、ヴィブラニウム発見器を開発したリリをとらえるよう画策。
しかし発見器の開発が可能だと判明したということは、リリを確保したとしても、いづれは地上国にタロカンの存在が露呈することは明らかだ。
そこで、タロカンの王であるネイモアは世界への戦争を考える。
地上国への戦争を仕掛ける際に、最も脅威となる国がワカンダだ。
そのためネイモアはワカンダに対して、タロカンと手を組むか、争うかを迫る。

これがタロカンとワカンダが争うに至った経緯だ。
2国間ではなく、他国の影響により争わざるを得ないところが、非常にリアルだ。

今回物語が、シュリの兄への追悼にフォーカスされることで、
誤解され、シュリへの不満意見が見られる。
私は2つの要素を見落とされているからだと考える。
・ネイモアの国王としての未熟さ。
・ティチャラも元は復讐者。

・ネイモアの国王としての未熟さ

彼は国王として国を守っているが、産まれつき王になることが決まっていた。そして、鎖国により外交経験がない。
これは仕方のないことであったことも、書いておきたい。
ーー
親から、海へ移り住んだ理由が、先住民が乗り込んできた際に流行った伝染病であることを散々聞いて育ったネイモア。
幼少期に初めて訪れる地上では、植民地支配を目の当たりにする。
地上へのトラウマと、自国を護る責務は、幼い彼にはあまりにも重いものだっただろう。
ーー
産まれつき王であることで起きている弊害が、見てとれる会話が少なくとも2回あった。
ワカンダに攻め入る前に、民に対して発言する「ワカンダと手を組めると思った。」。
ラストシーンで自分への反感をあらわにする部下への発言「俺を信じろ。」
これらは、一見すると自身の非を認め、威厳ある王の発言にも思える。
しかし謝罪はないところから察するに、
実際は国民との対話が足りず、一人で政治を行ってきたことがわかる。

次に、初の外交相手であるワカンダへは、折衷案を出すのではなく
「私の意見を飲まなければ攻撃する」と脅す始末。
しかも、期限をつきだ。
これではワカンダも対応せざるを得ない。
シュリはネイモアとの会話の中で「もっとこの国が知りたい、何か手を取れる方法があるはず」と発言していたのにだ…。

しかし結果的にはシュリも、研究室にこもり(対話をせず)準備を始める。
彼女が族長や母親の求めていた、ブラックパンサー復活の研究を進めていたことには、苦労と必死さが伝わる。

両国の代表が、国民との対話を欠き、戦争が始まる。
シュリはまだ子供だと、エムバクも冒頭に言っていたが、一国の責任は重すぎる…。

長年国を支えた王ではあるネイモアは落ち着きも威厳もある。
しかし対話が足りていないことにより、今回の争いが引き起こされたことは明白だ。

・ティチャラも元は復讐者。

シビル・ウォー/キャプテンアメリカのティチャラを振り返りたい。
先代の国王であり、自身の父親でもあるティチャカが、ジモによって命を奪われる。
守護者としての役目を果たせず、父親の命を守れない。
彼は復讐者として、ジモを追いつめる。
そして、彼は最終的に復讐の連鎖を断ち切るのだ。
その後、敵対していたスティーブとバッキ―を保護する。

続くブラックパンサー1作目では、
誰もが尊敬する守護者として、活躍を始める。
シビルウォー時点の彼は、今作のシュリ同様、身勝手なふるまいだった。

改めてシュリの行動を振り返りたい。
国の統治者であり、自身の母親でもあるラモンダが、ネイモアによって命を奪われる。
守護者の存在を頑なに拒み、母親の命を守れない。
彼女は復讐者となり、ネイモアを追い詰める。
戦争映画とするのであればご都合主義ではなく、ここでネイモアをしとめてしまっても良いのではないかとさえ思った。
しかし兄同様、命を奪わない選択をする。気高く生きることを選択をする。
そのうえ、敵対していたネイモアを、地上国から護ると約束する。

非常によくできた対比だ。
今作は彼女がブラックパンサーとなるための、兄の背中を追いかける。
ヒーロー誕生譚だ。

2:残された者(王位継承と守護者は別)

・主要人物5名

シュリ
妹。彼女は兄を助けるのに不足していた、自身の分野である科学に没頭。
ブラックパンサーとして、国の守護者として、気高さを継承する。

ラモンダ
母。旦那を失い、息子を失い、家族のためであれば手段を選ばない。
国王不在の中、統治者を継ぎ、シュリに気高さを継ぐ。

ナキア
妻。旦那失い、故郷を離れ、新しいコミュニティを形成する。
彼より継いだ子を、その国の文化にとらわれないように育てる。

オコエ
衛兵。あくまで伝統に忠実に行動し、生きがいを失う。
伝統を継ぎつつ、国王を、守護者を、国を護るために一歩前進する。

エムバク
友。一国の長としての威厳はすでに備え、他の族長とも対話し、新ブラックパンサーを精神的に支える。
おそらくティチャラの意思を継ぎ、次期国王となる。

・ブラックパンサーと王の継承

混同してしまうのは、ワカンダ国内での継承戦の扱いだ。
あれは王位継承戦であって、ブラックパンサーの継承戦ではない。
つまり王=ブラックパンサーではないのだ。
ブラックパンサーの能力があれば、継承戦で有利に働くため、継承戦前は一度ブラックパンサーの能力を外すのだ。
(基本的には王になる者が、ブラックパンサーとなるのだろうが。)
それを示す要因が二つある。

1つ目は、ティチャラはブラックパンサーになる前、前王ティチャカの護衛をしているシビルウォーの時点で、すでにブラックパンサーとして活動をしている点。
2つ目は、今作の最後のエムバクのセリフ「シュリは不在だ。私は王位に挑戦する。」おそらく今後は国王=ブラックパンサーではなくなる。
また今作で、ラモンダは女王ではなく、国の統治者として紹介されている。

つまりワカンダフォーエバーは、シビルウォーと同様
国王不在の喪中期間なのだ。

3:追悼

感情的な感想を書く。
作品開始2分で泣いた。
大げさではない、ここまで感情移入した弔いのシーンはないだろう。
今回は、喪に服す作品なのだとわかる冒頭。

続くオープニングの無音。
過去のキャラクターを魅せるシーンで、
ただただチャドウィックの顔を…、泣かずにはいられない。

主要キャラにも書いた通り
全員が、彼の喪失から、前を向く物語だ。観客も含めて全員だ。
彼を失ったから、彼がこうあったから。
立ち上がるために一番時間のかかるシュリにフォーカスする。
それによって観客の喪失にも寄り添ってくれる物語。

科学力として研究室に引きこもるシーンは、ヒーロー映画にある修行シーンだろう。私たちも現実を受け入れられない。
彼女は最後、服を燃やす儀式により、兄の死を受け入れる。
そして彼の息子と出会うことで、自分にも、国にも、彼の意思は確かに受け継がれていることを示す。
喪が明ける。

一貫して彼への愛にあふれた作品だった。

まとめ(余談)

あまりにも戦争映画で追悼映画であったので、他に触れられなかった。
・タロカンの登場は、得体のしれないホラー。
・リリ・オコエ・シュリの絡みはコメディ。
・3人の逃走劇はかっこいいアクションで、サスペンステイストがある。
・音楽は、MCUの中でも群を抜いてオシャレ。
これらの演出も素晴らしすぎた。

評価云々はするべきではない気がしているし、とてもではないが「面白かった」とは言えない。
戦争も、継承も、自分が思っているよりずっと早く、世の中は動いていく。その流れの中で、自分はどうありたいか。
観た人に何かを残す作品であった。

ワカンダの教えでは、死は別れではない。
ティチャラ・フォーエバー。

この記事が参加している募集

#映画感想文

66,723件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?