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第12話 生き地獄

「これで最後ですぞ、最後まで愉しませてくれますね」
上階にいた中央の男はそう言った。

男は少しずつ意識を取り戻しつつあった。松明が各所を照らし、
その男たちの顏を見た。

皆、面をつけていた。取り仕切っているような
中央の男は般若の面を被っていた。その男は配下が引いた札を
面をつけていても分かる程、楽しみながら紙を落とした。

妻は舞い落ちる紙を、恐る恐る拾い上げた。

その紙を見て、妻は愕然《がくぜん》として、倒れるように
座り込んだ。

「これで最後だ……何と書いてあるんだ?」
夫は息も絶え絶え、妻に最後の命令を尋ねた。

すでに両足を失い、妻が愕然と倒れても仕方の無い程の凶行
だったため、その様子を見ても特別驚かなかった。

「何と書いてあるんだ? 覚悟はもう出来てる。私で終わらせよう」

そう言っても、妻は言葉一つ言えなかった。

「時間制限がある。いい加減受け入れろ」

その言葉で妻は口を開いた。

「この子たちに……首を落とさせるのよ?! そんなの無理でしょ!
生涯、忘れない行為を何度もさせる事になるわ!」

確かに、まだ10歳ほどの子供に、このように重い斧を振り上げる事すら
難しい事だった。

「共に死のう……お前の言う通り、父親が死ぬまで斧を振り上げるような
行為はさせてはいけない。上にいるような腐り切った人間の皮を被った
悪魔に育ててはいけない」

妻は静かに頷いた。

「ここまで来て最後の試練を前にして、諦めるのですか?」
笑みを浮かべて男は言った。

「まあ、いいでしょう。豚の餌ならいくらでもいますからね」
笑いながら言い放った。

豚の餌?——!! 自分たちが食べていた豚の餌は……人間の肉だと知り、

今まで毎日食していた豚肉の餌は人間だと分かった途端、
胃液が一気に上がってきて、気持ち悪いどころの騒ぎでは収まらなかった。

子供たちは親が吐くのを見て、心配したが、
このような事を教える訳にはいけないと父母は目を合わせて何とか、
吐き気や手の震えを抑え込んだ。

その頃、闇に紛れて近づく一党がいた。
通称『黒狐』と言い、忍びの一団であった。

大名とは違い、長子の世継ぎは、商人が自ら損をする行いに対して
異変を感じていた。山へと足を自ら運ぶ商人に対して、世継ぎの男は
忍びの一小隊に尾行させた。

自分の領土でありながら、商人たちは隙を見せずに、警戒しながら
山の中を進んでいた。まるで敵でもいるかのような程、慎重を期して。
その足取りや警戒を緩めない事から、忍びの者だと言う事は分かった。

一小隊の忍者は気配を断って進んでいたが、余りにも不釣り合いな豪邸を
目にした。それを見て、四人の一小隊ではこれ以上進むのは危険だと判断して、
小隊長の指示で引き返そうとした。

気配を断っていたはずなのに、部下たちは一瞬で殺されていった。
尾行の尾行か……慎重すぎる。この裏には絶対に何かある。
小隊長はそう思うと、殺されて落下する部下に一瞥もせずに、
その忍びの首を一瞬で刎《は》ねて、木から木へと飛び移り、再び気配を消した。

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