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「デュラハン」~第五話 オーパーツ アル・ナスラ前編

勇翔はやと
お前、オーパーツを知ってるよな?」
机に海外から送られてきた資料に目を通しながら、
貴田剛広きだたかひろが尋ねてきた。
「当たり前だろ。その時代には有り得ない技術で
創られた現代でも解明不可能な物や地形の事だろ」
貴田は資料を閉じて、ため息を吐いた。
「そうだ。実はサウジアラビアのオーパーツに
動きが出たようで、国がエクストリーム財団に直接
依頼してきたらしい」
勇翔はため息の理由が分かった。
「確かにマズいね。国交的に問題が出るのは
間違いないけど、財団的にはどうするのかもう
決めたの?」
貴田は言い難そうな顏をしていた。
「その顏つきだと、受けると決まったようだね。
行く人は色々大変な事になるな」
「・・・・まあ、そうなるだろうな。
サウジアラビアは勇翔を指名してきた」
ソファに横になっていた勇翔は飛び起きた。
「何で俺なんだよ!?」
「ギリシャ支部にいたソフィア・サマラという女性
と知り合いになったんだろ?」
「ソフィア・・ああ、ギリシャ支部副長の人だね」
「ああ、そうだ。ソフィアはパンドラの箱の件で
栄転として、今はサウジアラビアの支部長に
昇進したらしい。お前を高く評価しているようで
名指しで依頼してきたが、どうする?」

「うーん。どんな案件?」
勇翔は頭をかきながら問いかけた。
「オーパーツだからな。何が起こるかは不明だ」
「当然、他の国からも部隊が来る事になるよね」
「そうだな。抗争に発展する可能性の方が高い」
勇翔は悩んだ挙句あげく了承した。

「じゃあ、明日出発してくれ。
向こうには知らせておく。何が起こるか分からん
からな、くれぐれも気をつけてくれ」
勇翔は部屋を出る時、顏を横にして視線を送った。
そして、「いつもの事だろ」と笑みをこぼした。

「いつもご苦労さまです」
いつもの客室乗務員が挨拶に来てくれた。
「ほんとはさ。俺、高校生なんだ。だけど行く暇
さえないから参ってんだよね」
「デュラハンの方々はお若い方が多いので、
御歳は気になってましたが、高校生だったのですね。
あ、焔さんと言う方はご存じですか?」
「知ってるよ。よく稽古をつけてもらってるからね」
「あの方に、その、あの・・お暇があればお食事に
でもとお伝え願えませんでしょうか?」
勇翔は軽く答えた。
「いいよ。俺の方からも行くよう伝えとくよ」
「私的な事なのに、ありがとうございます」
「焔って人気あるんだね」
「他の方々も人気はあります。私は焔さんが
というだけです」
軽く照れながらそう言った。
「他には誰が人気あるの?」
興味本位で聞いてみた。
「そうですね。あとは雄輝さんとか・・」
「え! 雄輝は俺と同じ高校生だよ?」
「寡黙な所に惹かれる女性も多いので・・」
勇翔的にもこんな話などする事など、皆無に近い
生活だったので、それはそれで楽しめた。
「ちなみに俺は?」少しカッコよく言ってみた。
「まだお若いので何とも申し上げられません」
「いや、だから雄輝と・・もういいや」
綺麗な顏でも分かるほど苦い顏をしていた。
「それでは到着までお休みください」
客室乗務員はお辞儀をして去っていった。
まあ確かになと思っているうちに、
勇翔は寝息を立てていた。

「サウジアラビア空港に到着致しました。
お気をつけていってらっしゃいませ」
「帰ったら焔には伝えておくから」
降りながら軽く微笑んで話しかけた。
女性は照れながら黙ったままお辞儀をしていた。

「勇翔さん、来ていただきありがとうございます」
「こっちに栄転したんだね」
「はい。勇翔さんのおかげです」
「もっと気楽に勇翔でいいよ。その方が気楽だし」
「分かり・・分かったわ、勇翔。これでいい?」
「ああ、その方が全然いいよ」
「早速だけど、最新資料をエクストリーム財団に送った
けど、また伸展があったの。現地に直接行く?
それとも一休みする?」
「武器もあるし、このまま現地に行くよ。
うちの防衛部隊はもう着いてるって聞いたけど」
「ええ、勇翔が来てくれる事が決まってから
すぐに貴田さんがサウジアラビア支部に連絡して
くれたみたい。ⅡAの援護部隊を送ってくれたわ」

「それならひとまず安心だ。ⅡAは他国で言うと
特殊部隊並みの精鋭だから大丈夫。俺の援護役と
しては安心できるよ」
「それなら安心ね。貴田さんにお礼の電話をした
時に言ってたんだけど、勇翔の意見次第ではトリプルAを
派遣すると言ってたわ」
勇翔の目が鋭い眼差しに変わった。
「貴田さんがそう言ったんだよね?」
ソフィアは心配そうに答えた。
「ええ、何かが起きるのは分かっているけど、
勇翔には予測できるの?」
厳しい顔つきで勇翔は暫く考えている様子を見せた。
「貴田さんがそう言うなら、他国の特殊部隊が
動いたとみてまず間違いないね。戦場になる可能性が
高いから貴田さんにⅢAの派遣を頼んだほうが
良さそうだ。確か武器と一緒に入れてたはずだ」

勇翔が後ろの手荷物の中をガサゴソし始めた。
「やっぱりあったよ。今から俺が貴田さんに
要請するよ」
「話が速くて助かるわ」
「・・・・貴田さん、勇翔だけど、さっき空港に
着いたんだけど、ⅢAが必要になりそうだから
こっちの支部にいるかな? ああ、なるほどね。
だから早く動けたのか。じゃあⅢAもこっちから
すぐに派遣するよう伝えといてよ。うん、いや、
ああ、確かにね。分かったよ、その方が良さそう
だし、まあ仲良くしてみるよ。じゃあ頼んだよ」

「どうしたの?」
「日本とサウジアラビアは友好国で、エクストリーム財団
も寄付とかしているらしくて、こっちの支部をすぐ
に動かせたらしい。あと、支部からはⅢAとこっちの
デュラハンも来るらしい」
ソフィアはなるほどと頷きながら聞いていた。
「デュラハンが二人も来るなんて、珍しいのよね?」
勇翔は何とも言えない顏で答えた。
「状況次第によるけど、今回はかなり荒れそうだから、
二手に分かれて動けたほうが良さそうだと思ったわけ」
ソフィアは話に納得したみたいで少し安心したが、
一番厄介な問題は別にあると思った。
「問題は日本の友好国も来そうなのが厄介だね。だから
日本政府に言っても、門前払いされるのが分かっていた
から直接スペシル財団に話を持ち掛けたのは賢明だった
と思うよ。政府から財団に圧力がかかるだろうけど、
スペシル財団は世界的にも大きな組織だから強くは
言えないだろうからね」

ソフィアは感心していた。若干16歳の若者がここまで
洞察力に優れている事に感銘を受けた。
そしてその反面、デュラハンになるのはほんの一部の
人間しかなれないのだろうと思うと、哀しみも湧いて
きた。普通なら友達と遊んだり、彼女が出来たりする
年頃の若者を、皆が頼りにしている現実を考えるだけ
でやるせない気持ちになった。

「着いたわ。荷物は私たちで降ろすから、そのまま
ついて来て」
勇翔は言われるがままついて行った。そして問題の
岩場まで行った。
「これがアル・ナスラか。間近で見ると大きいね」
「そうでしょう。約4000年前からあるとされている
高さ9メートル、幅7.6メートルの巨石で、これが
謎とされている割れ目よ」
勇翔は割れ目をじっくりと見つめた。
斬る事には慣れていたが、現代では不可能では無い
かもしれないが、これだけ大きな岩が綺麗に
真っ二つになっていた。
可能かもしれないというのは、あくまでも
レーザー兵器等を使えば斬れるには斬れるが、
大きさを考えると不可能に近いものだった。
途中で崩れる可能性も高いし、
実に不思議な岩だった。
「それで問題って一体何が起きてるの?」
勇翔は近くで見ても全く解らなかった。
「実は最初は誰も気づかなかったんだけど、
たまたま論文の為に研究者が調べた時、
割れ目が近づいている事に気づいたの。
少しずつだけど、確かに動いてるの」

そう言われて勇翔は、地面に一番近い下に目をやった。
確かに動いた形跡があった。
「この岩の中って何かあるの?」
「調べてみたけど外部と同じ砂岩だったけど、
日毎に動く距離が増している事だけは分かったわ。
このペースで行くと、あと一週間以内に
隙間が無くなる事になるわ」
勇翔は腰を伸ばして、大きく息を吐いた。
「それまではお預けってことになるってことか」
「財団のお陰でこの辺り一帯には誰も近づけないように
してくれてるから、安心して観察できるわ」

「・・観察か」
「どうかしたの?」
「いや、フライトでちょっとね」
珍しくしおらしい勇翔を見て、
ソフィアは優しく問いかけた。
「何があったのか話してみて」
「んー。俺はあんまり人気が無いみたいでさ。
客室乗務員の女の人たちの間では、俺はどうやら
下の方らしくて、まあ別にいいんだけどね」

「私なら勇翔が一番いいわ」
「ソフィアは優しいから言ってくれるんだよ」
「違うわ。ギリシャ支部で暫くの間、入院していた
人の中にダリルって人がいて、最初は私を口説こう
としてたけど、話すことが全部あなたのことだけ
だったの。私、話を聞いてて笑っちゃったわ」
「ダリルの怪我は治った?」
「ええ、後遺症も無くて治って、
退院していくまで色々話したわ」
勇翔は心から安心した表情が出た。
「ダリルがね、勇翔は向こう見ずで、自分の命を
投げ出して自分たちをかばって戦い続けていて、
負けそうになった時に、逃げろって叫んで一歩も
退かずに一人で戦っていたって。
デュラハンとしては落第だけど、同じ男としては満点
だって、若造が父親くらい離れたオヤジを守る為に
命懸けで勝ち目が薄い戦いに身を投じる姿を見て、
涙を流しながらあなたの事を褒めていたわ」
勇翔は想い出に浸ったように懐かしい顏をしていた。
「だから私は勇翔が一番よ。自信を持って大丈夫」
「ありがとう、ソフィア」
自然と心から言葉が出ていた。


デュラハン:あらすじ
デュラハン:人物紹介、組織関係図、随時更新、ネタバレ
デュラハン:敵の人物紹介、敵対組織、随時更新、ネタバレ
第一話:始まり
第六話:オーパーツ アル・ナスラ中編


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