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「デュラハン」~第六話 オーパーツ アル・ナスラ中編

勇翔は夕日が沈むのを眺めながら、どこの国が
介入してくるのか考えていた。
表向きにする理由などいくらでもあるのを彼は
知っていた。
今回の任務は完全極秘任務になるだろうと、
アル・ナスラを見た時にそう感じた。

アメリカやロシア、フランス、イギリス等の
精鋭特殊部隊と戦う事になるとまた大勢犠牲者が
出ることは明らかだった。
今も恐らく遠くから監視されているような
確かな視線を勇翔は感じていた。
岩肌には見た事も無い模様や、文字が刻まれていた。
勇翔は言語学が得意であった。
彼はゆっくり岩肌の周りを見て回ると、
言葉が離れて書かれている事に気がついた。

その言語は岩が繋がると、ヘブライ語になっていた。
EMETHエメス・・・・確かヘブライ語で真理
の意味だったな。確かもう1つの意味があったような・・。
岩が繋がるのと何か関係があるのかもしれないな)
あとはこれといった言葉は見当たらず、見た事もない
模様が所々に刻まれていた。

勇翔は戦場になると見て、ソフィアのいる仮の司令部
へ足を向けた。
「ソフィア、ちょっといい?」
「ええ、大丈夫よ。何かあった?」
勇翔は視線を流す事によって、
二人で話す事があると伝えた。
「皆、とりあえず調べてちょうだい。
何かあったらすぐに知らせて」
大きなテントから、それぞれを受け持つ研究者たちは
ぞろぞろと外へ出て行った。

「何があったの?」彼女はすぐに問いかけた。
「まだ特に何も無いから来たんだ」
「どういう事?」
「遠くから視線を感じるし、たまにチカチカと光が
見えるんだ。スコープで様子を見ている他国か、
軍事部隊を持つ俺たちのような財団が少なくとも
二カ所から来ている。逃げるなら今しかない。
非戦闘員と一緒に支部に戻れないか?」

ソフィア・サマラは勇翔の顏を見て、想像以上に
危険な状況にあるのだと察した。
「分かったわ。いつも危険な目に合わせて本当に
ごめんね。ドローンで随時様子は見る事にするわ。
この案件が終われば、一緒にご飯でも
食べにいきましょうね」

勇翔は女性との会話はあまりないので、
ソフィアにも見抜けるくらい照れていた。
「楽しみが出来たから、上手く片付けとくよ。
正直、今も緊迫感を各方面から感じてて、
入り乱れの戦いになると思うから、
サウジアラビア支部のデュラハンと、ⅡAの部隊
はソフィアたちの護衛について貰うよ」

彼女は心配そうな顏をしながら、
「また一人で戦うつもりなの?」
そう言ったソフィアの顏から哀しみが見て取れた。
「ⅢAには残ってもらうから大丈夫。
争いが終わればすぐに連絡するから、
安心して少し休んでてよ」
「ありがとね、勇翔」
彼女の笑顔と言葉に勇翔は癒されていた。

研究者たちとソフィアは、ⅡAの戦闘ヘリのアパッチ
に守られながら夕日が落ちた方へ飛び去って行った。
彼女たちとすれ違いざまに、ⅢAの部隊が勇翔の方へ
飛んでいくのを、彼女はずっと見つめていた。

「高杉勇翔さんですね。
私はトリプルAの部隊長を務める
ハジュン・メフィストだ。
兵士数は100名だが、
選りすぐりの精鋭部隊だから相手が誰であろうと
簡単に敗れるような事は決して無いと断言できる。
アメリカとも友好国だが、
今回の案件は断られた事から、
アメリカ陸軍も来ると思われる。
敵の数から見ても、防衛戦になる
だろうから君の意見を伺いたい」

「確かに司令塔は俺になるけど、わざわざ水を濁す
つもりは無いから、ハジュンさんにⅢAの部隊は
一任する。俺の装備は新型で速度も威力も桁外れ
に出来ているから、隙を見て遊軍として動くよ」

「話が速くて助かる。現在の状況を教えてほしい」
「研究員の意見だと、あと一週間ほどで岩が繋がる
との意見だったけど、速度は上がってきているから、
明日か遅くても明後日には岩は繋がると見てる」

「繋がったら何が起こると思うかね?」
「オーパーツはどれもが未知なるものだから、
繋がるまでは何も解らないけど、嫌な予感しか
しない」
勇翔は思っている事を話した。
「では私の部隊100名は、私の指揮下に入れて、
東西南北に25名づつ配置させて、
防衛任務に就かせる事にする。では失礼する」
軽めに一礼して勇翔の前から去って、各自に
指示を出していた。

部隊員の手際の良さや、ハジュンの指揮系統
は見事なもので、自分でもⅢの防衛線を突破
するのは困難なほど、緻密に指示を出して
いた。
勇翔は少しだけ肩の荷が下りた気持ちになった。

夕日が落ちて夜になると一気に寒くなり、
ネフド砂漠にあるアル・ナスラは、
アラビア半島の北にある巨大な砂浜にあり、
夏は40度を超え、冬は氷点下になる事も
あるほどで、そう言った環境では防衛しやすい
面もあった。砂漠地帯のため、見晴らしも良く
ハジュンによって防衛ラインをしっかり築かれた
事により、要塞化されていた。

更に強風が襲い、砂嵐となって視界を完全に遮断
され、ソフィアたちが築いた仮の司令部も
吹き飛ばされ、彼等は砂嵐が過ぎ去るのを
地面に身を置き、耐え忍んだ。
この国に身を置いて長いせいもあり、
慣れているようで、じっと動かずに砂丘と一体化
して、嵐が去るのをひたすら待ち続けていた。

朝日が地平線から顏を出してきた頃、ようやく
砂嵐は過ぎ去っていた。ⅢAは慣れているようで
新たに仮施設を組み立てる準備をしていた。
勇翔は周囲の警戒はハジュンに任せて、自身は
アル・ナスラの様子を見に行った。

昨日より明らかに近づいているのは、
確認しなくても見ただけで分かる程近づいていた。
もう小指も入らないほどで、
勇翔は今日中に接触すると思った。
ハジュンにだけ話をしたら、今から綿密な作戦を
部下に伝えると言って彼等の元へ向かった。
ソフィアにもドローンではハッキリ確認できない
だろうと思い、連絡を取って今日中にも繋がる
事になるだろうと話した。

勇翔はオーパーツ関係の任務は初めてであったが、
ほむらは何度か任務を遂行していたので、
ここに来る前に参考までに話を聞いていた。
いずれの任務も容易くは無い上に、現代よりも
明らかに発展していたでろう古代文明の遺物だった
と焔は話していた。

多くは神話や伝説に出て来るような遺物が多くて、
財団内部で新しく就任した会長はやり手ではあるが、
会長の意向では確保できる場合は、犠牲を払って
でも確保するよう言われていた。
当然、犠牲者の数は以前に比べて多くなったと
焔は言っていた。

勇翔は内部事情等はあまり関心が無かったが、
焔の話を聞いて、貴田さんが上手く取り計らって
くれているのだろうと知った。それと同時に
ⅢAが護衛に来た理由も見えてきた。
最善は、敵に奪われる事無く、破壊可能な物
である何かしらの攻撃性能を持つ何かで
あったが、そんな都合の良い事など無いと
若者はこれまでの経験から、可能性は薄い
ものだと悲しくも知っていた。

「隊長、アル・ナスラの岩の隙間が消えました」
ハジュン・メフィストは部下に問い質した。
「消えただと? 割れ目も消えたというのか?」
「はい。割れ目自体が無くなりました。全ての
場所から確認しましたが、1つの岩になりました。
二度確認したので間違いありません」
ハジュンは頷くと、勇翔のテントに向かった。

「勇翔さん、割れ目が完全に消えて、1つの岩に
なったようだ。至急、岩の状態を確認するよう
支部への連絡を頼む。私は直接調べれる所は
調べるよう部下に命じた。
私もこれから確認に行ってくる。では任せたよ」

勇翔はすぐにソフィアに電話を入れた。
「ソフィア!? 勇翔だ! オーパーツが完全に
1つになったとハジュンから聞いた! すぐに
ドローンで状態を調べてくれ! ああ、分かった!」
ソフィアは確認し次第連絡すると言って、指令室に
向かった。
「現地のデュラハンからオーパーツに動きがあった
と連絡がきたわ! 何故報告しないの!?」
支部長は部下に大声で怒鳴りつけた。
「何かの間違いでは? ドローンでずっと監視して
いますが、報告に値するような動きはありませんが」

「現地にいるのはデュラハンとⅢAの特殊部隊よ!
見間違うはずが無いわ。監視ドローンを降下させて
あらゆる視点から観察して見て! 援護ドローンは
そのまま待機させて、周囲の軍の警戒を続けて」

「おいおい、こりゃ一体何だ!?」
勇翔は見上げるほど高い物体に驚きの声を上げた。
「隊長! 陣形を崩して包囲しますか!?」
「いや、防衛ラインはそのまま周囲の警戒に当たれ!
このバケモノはデュラハンと私で対処する」

「ハジュン! コイツは一体何事だ?」
「今、呼びに行こうと思っていた所だ。
岩が一体化して激しい心音のような音が聞こえ初めて、
まるで生命体のように人間の形になった。
敵か味方かも分からないので、
まだこちらからは攻撃は一切していない。
コイツが敵なら最悪の展開になる」

勇翔の暗号解読機を介して、ソフィアから連絡がきた。
「ソフィア、コイツは一体何なんだ?」
「今、ドローンを周囲に送り込んで全てのデータを
回収している所よ。ハッキリとは断言できないけど、
ハイパフォーマンス・コンピューティングHPC
答えはゴーレムだと示してるわ。高性能だからほぼ
間違いないはずよ」
勇翔は脳裏に何かが過った。

「ゴーレム・・そうか、真理ともう1つの意味は、
命を吹き込むだった! ということはコイツの頭を
ドローンで映してくれ! ❝EMETH❞と額に書かれている
はずだ」
ハジュンはすぐに正体不明の物体を見破った勇翔に、
驚きの目で彼に目を向けた。

「確認したわ! 勇翔の言う通り❝EMETH❞と額に刻まれて
いたけど、それとゴーレムに何の関係があるの?」
「まだ俺がガキの頃、親父に聞いたことがあるんだ。
親父は目覚めたゴーレムからは逃げろと言っていたが、
デュラハンとなったからには逃げる訳にはいかねぇな!
頭文字の❝E❞を削って消せば、倒せると言っていたが、
これは確かに逃げたほうが良さそうなくらいヤバい相手だぜ」

「悪いが時間が惜しいので通信に介入させて貰うぞ。
我々はどうすればいいのか指示を頼む」
「この回線に入れるとは恐れ入ったぜ。流石はⅢAだな」
「フッ、こんな事は私の部隊員なら誰でもできる。
それよりもソフィア支部長に命令をして頂きたい」

「そうね。ハジュンたちは周囲からの応戦に備えて」
「デュラハンの援護は必要ないと?」
「資料を見た限り、数でどうにか出来る相手では
ないようだし、周囲からの攻勢も総合的にはゴーレム
に匹敵するくらい厄介だと思うわ」
「確かにその通りだ。的確な命令に感謝する。
ではゴーレムは任せて、我らは応戦に徹する」

ハジュンは通信を切って、すぐに動き出した。
勇翔はそれを見て、ここまで凄い部隊は見た事が
無かった。冷静かつ指揮系統の一糸乱れぬ動きに、
感心を示して、ゴーレムに集中できると拳を握った。

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