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第15話 特別捜査本部

明智の予期した通り、あれから二日後に
通称、特捜。特別捜査本部が設立された。

この二日間でも犠牲者が出たのが、決め手となった。

明智は所轄の警察署で刑事あったが、
本部でも名の知れた人物であった。

警視庁からは、女性警視である真田香織が指揮を執る為、派遣された。

明智とは面識は無いものの、お互いに名前は知っていた。

特に明智は、他の者が解決出来ず、引き継いだ事件を
幾つも解決した実績があり、真田警視はその実績を大きく買っていた。

通常、所轄の人間は誰でも出来るような仕事を任され、
警視庁から来た者は、重要な仕事を任されていた。

第一回の特別捜査本部会議では、これまで調べた所轄の刑事の報告や、
聞き込みで得た情報等が、次々と報告される中、真田警視は報告を聞きながら、
明智を度々見ていた。

「以上が我々の報告になります」やや不満ぎみに初老の刑事が報告し、席についた。

真田警視は直接マイクに向かって初めて声を出した。

「明智刑事。何か報告はありませんか?」

明智は立ち上がり、
「現時点では報告できるような情報はありません」とだけ言って席についた。

真田警視は隣に座っている参事官に視線を送った。

「これにて、第一回特別捜査本部会議を終了する。
各自、担当した仕事を忠実にするように、では解散」

報告された内容は、殆どが使い物にならなかった。
その為、本部の刑事たちの視線は痛々しいものだった。

明智が席を立ち、仕事に戻ろうとした時、
「明智刑事。話があるので残ってください」真田がそう言うと、

参事官に何か話していたが、静かな部屋であっても聞き取れなかった。

そして参事官は立ち上がり、明智に対して難色を示した顏で、
一瞥《いちべつ》して出て行った。

明智は立ち上がり、真田警視の所まで歩いて行った。
「何か私にご用命でしょうか?」
「あなたの話は月島警視から聞いてるわ。私と二人きりの時は
気楽に話してちょうだい」

「月島の奴は何か言ってましたか?」

「あなたは非常にユニークな着眼点を持っていて、
自分よりも遥かに優秀だから、事件を解決したいなら
奇抜な意見も真剣に聞くように言われたわ」

「あいつがそんかことを……」

「そんなあなたが、報告会議で一切発言しなかったのは
つまりはそう言う事でしょ?」

「まあ、そんなとこですね」

会議室に入ってきた警官が「明智刑事。例の件の報告にきましたが……」

そう言った警官は、真田警視を気にしている様子だった。

「問題ない。調査結果はどうだった?」

「はい。明智刑事の言う通り闇市場には出回ってないようです」
「報告ご苦労。下がっていいぞ」

警官は敬礼して部屋から出て行った。

「なるほどね。月島さんの言う通りだわ。予想してたって事は
既に別に目をつけているようね」

「可能性が少しでもあれば調べて、消去法で最初はいきます。
先ほど、参事官の態度から見て、私には独自捜査を容認する事を伝えたのですか?」

「本当によく見てるわね。その通りよ。独自捜査と言うよりは
私のパートナーとして捜査するわ。独自捜査がお望みでしょうけど、
これは譲れないわ」

「分かりました。ただ今回の事件は正直、戸惑ってます」

「確かにそうね。署の警官を総動員させても捕まらないのは、
普通では考えられないわ。しかも連日だから尚更おかしいわ」

「オフレコで後で見せますが、ただの通り魔の事件では無い気がします」

「出来ればすぐに見たいわ」

「朝食は食べましたか?」

「え? 食べてないけど、関係あるの?」

「いえ、食べてないなら問題ないです。隠してあるので一度、
家に寄って、捜査圏外の場所まで行ってからお見せします」

真剣な面持ちで明智はそう言うと、足早に出て行った。
それに続いて真田も明智の後を追った。

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