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【超短編小説】お姉ちゃんの言葉


私が小学2年生の時の話だ。

私には5歳離れた姉がいる。

ある日のこと、私は帰り道で同級生の男子達にからかわれていた。

私はすごく嫌だったけれど上手く言い返すことが出来ず、下を向いていた。

その時だった。後ろから大きな声が聞こえた。

「何してんの!」

顔を上げて後ろを振り向くと、

部活のカバンを背負って勢いよく自転車を漕いでいるお姉ちゃんだった。

お姉ちゃんは自転車から降りて、私の近くに自転車を止めた。

「今、うちの妹のこと、からかってたよね。なんで、そんなことするの!」

男子達は「だって、こいつ、何も喋らないし。大人しいから」

突然現れた姉の姿にたじろぎながら弱々しく答えた。

すると、お姉ちゃんは深くため息をついてから一言。

「大人しい子が大人しいなんて思ったら、大間違いなんだからね」と言った。

私はその瞬間、なぜだか分からなかったが、

その言葉が耳に響いて、気付くと少し泣いてしまったのだ。

「今度、うちの妹に何かしたら、私が許さないから」と怖い顔をしながらお姉ちゃんが言い放つと、

私をからかっていた男子達はお姉ちゃんに圧倒され、私の方を向くと「ごめんなさい」と謝った。



あれから30年が経った。

当時のことを思い出した私は姉にその時のことを電話で聞いてみた。

「お姉ちゃんはなんであの時「大人しい子が大人しいなんて思ったら、大間違いなんだからね」なんて言ったの?」

姉は「そんな昔のこと、あまり覚えていないわ」と言いながら、

少し考えて「でも、悔しかったの」と言った。

「悔しかった?」と私は姉の言葉を繰り返した。

「そりゃ、妹がからかわれているのを真っ先に止めなきゃとは思ったわよ。

ただ、それ以上に見かけで判断されたくなかったの。

人はそんな外見だけじゃないわよと言いたかったんだと思う」

私は姉らしい言葉に納得して「そうだよね、見かけじゃないよね」と話した。

電話を切り終わり、お風呂を済ませると、私は布団に入った。

疲れていたのかすぐに眠りに就いてしまった。

すると、夢の中に小学2年生の私が出てきた。

私は彼女に問いかけた。

「あなたは大人しい子なんかじゃないわ。あなたはいろんな顔を持っている。

だから、お姉ちゃんの言葉をずっと忘れないでね」

そう伝えると、彼女は少し恥ずかしそうに微笑んで「ありがとう」と言った。(完)