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知識を授ける蜘蛛

その男は人間関係に悩んでいました。

悩みの突破口がなかなか見つからず煮詰まって来たので

気分転換に部屋で趣味の読書をしていると

男の視界の片隅に何か黒い物がよぎりました。

「蜘蛛だ」

男は虫が少々苦手なようでした。

窓から蜘蛛を出してやろうと

男はビクビクしながら蜘蛛に近づき

軽く掴もうとするも

元気な蜘蛛はピョンピョン飛び跳ねて逃げてしまいます。

蜘蛛は軽快に飛び跳ねます。
男を嘲笑うかのように。

男は次第にイライラしてきて
「外に逃がしてやろうとしているのに!いっそ潰してトイレに流してしまおうか!」と

男の中の優しくない方の男が顔を出したところで

ふと、ある考えがよぎりました。


苛立ちを持って蜘蛛を追い詰めても

蜘蛛はひょいひょいと笑いながら逃げるだけ。

ならば……


……仲間か。

もし〝最善〟が同じならば
自分は協力ができるんじゃないだろうか。

蜘蛛さんよ。
ここに迷い込むより広い自然界へお戻りよ。

男は蜘蛛に淡い仲間意識と微かな好意、ソフトな寄り添いを持って
ティッシュの端をチョンチョンと近づけました。


蜘蛛の動きを見守る間
さっきまでとは自分の心持ちが全く違い
穏やかなことに、なにを隠そう男自身がいちばん驚いていました。


さて、蜘蛛はどうしたのかというと‥

あれだけ苦戦していたのが嘘のように

あれよあれよと窓の外にテクテク歩いて出て行きました。



男は一匹の蜘蛛から悩んでいたことへの知識と実践の機会を得たようです。

あの蜘蛛は……
もしかして……

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