ラッセルの感情円環モデル

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3/31/2020 追記

 こちらのRussellの円環構造モデルは、覚醒を1本の軸で表現していますが、これを覚醒の強さと覚醒の大きさの2つに分解した考察が、変分自由エネルルギーからの考察と一致しました。ご興味のある方は、自由エネルギーと感情熱力学を御覧ください。

※自由エネルギー原理については、こちらに最新版の解説がありますのでご参照ください。
  自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -1-

 Russellの円環構造モデルは、横軸に快−不快という感情価(valence)、縦軸に覚醒(arousal)をとった時、感情が円環状に並ぶというモデルで、Russell & Ballett (1999)は、この円環状に並んだ感情のことをcore affect と呼びました。これによると、「core affectの例は快感または不快感、緊張または弛緩と、憂鬱または高揚感の感覚を含み、時間の経過に応じて干満を繰り返す、また、その最も純粋な形として、はっきりした理由もなく、快活(または緊張または抑うつまたはリラックス)に目覚めた時に見ることができる」(Russell & Ballett, 1999)とされています。また、Russell (2003) によるとcore affect とは、「志向的対象を持たず、最もシンプルで何も反映しない生のfeelingとして意識的にアクセス可能な神経生理学的状態である」ともされています。日本語の意味からは気分に近いかもしれません。

 快−不快という感情価(valence)については、評価の軸であり、比較的わかりやすいと思います。しかし、覚醒−非覚醒とはどのような軸でしょうか。心理学的な覚醒の意味は、「 中枢神経系の興奮が増大し注意が喚起された意識の状態」(三省堂大辞林)となっています。しかし、意識や覚醒は、いまだに心理学上の構成概念であり、物理量ははっきりしていません。

 ここで、心理学上の構成概念と物理量について考えてみます。力、エネルギー、圧力、熱、温度などは、日常語、構成概念としての意味の他に、物理的に決められた物理量(変数)としての意味も持ちます。この構成概念と物理量はしばしばその内容が異なることがあります。例えば、力とエネルギーは日常語や構成概念としては同じ意味で使われることもありますが、物理量としては別ものです。温度と熱も物理的には違うものをさします。

 エネルギーや熱は、体積や質量などの大きさが変化すれば、これに比例して変化する示量変数ですが、力や温度は、大きさが変化しただけでは変化しない示強変数です。光エネルギーは、太陽電池の大きさが大きくなれば、それに比例して得られる量が大きくなります(エネルギーは示量変数)が、大気圧は地表では面積に依らず概ね1気圧です(圧力は示強変数)。

 そこで覚醒についても、示強変数と示量変数に分けて、より分析的に取り扱うたいと思います。すなわち、覚醒の強さ(示強変数)と覚醒の拡がり(示量変数)に分けます。そして、従来、構成概念として区別されずにいた覚醒は覚醒の大きさというエネルギーの次元を持つものと考えることとします。示強変数と示量変数を掛け合わせるとエネルギーの次元になるものは、他の物理量の例として、力✕変位=仕事、温度✕エントロピー=熱、化学ポテンシャル✕物質量=化学エネルギーなど、いろいろあります。電気に例えれば、覚醒の強さは電圧、覚醒の広がりは電流、これをかけ合わせた電力がエネルギーとなります。100ボルト1アンペアと、10ボルト10アンペアでは電力は同じく100ワットですが、電圧と電流が異なります。覚醒についても、その覚醒を起こす力(電圧に相当)とその力による覚醒の拡がり(電流に相当)に分けて考えます。もう一つ例をあげれば、覚醒の強さに相当するのは、水源地付近の時間あたり雨量(示強変数)、覚醒の広がりは下流の川幅(示量変数)、覚醒の大きさは下流の流量となるでしょう。

 また、心理学的には、従来の感情の3次元説で言うDominantが、覚醒の拡がりに相当すると思います。

 このように、覚醒を強さと拡がりに分けて考えると、ラッセルの2次元円環モデルは、軸が1本増えた下記感情の3次元モデルとなります。

3/5/2020 追記

感情の3次元モデルの発展として、こちらでフリストンの変分自由エネルギー原理の考察をしています。

10/28/2021 追記 下記モデルを一部修正(立方体を奥向きに90度回転)しました。

図1

参照;日本心理学会第82回大会発表 3次元モデルによる感情尺度の検討
https://doi.org/10.4992/pacjpa.82.0_2PM-080

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