犬とイチゴメロン

4人兄弟の末っ子であり、忙しい両親のもとで放牧されて育った。山を切り開いた『ニュータウン』と呼ばれていた小さな小さな新興住宅街に住む6人家族。常にバタバタしていた両親は、ほぼ夜しかいなかったので、いつも兄弟4人で過ごした。4人の世界は狭いが、私には広大で、ニュータウンは果てしなく広がる冒険の世界だった。

文武両道で面倒見が良い、典型的な長男気質の兄にはじまり、絵が得意でマンガオタクで正義感の強い長女、内向的だが外弁慶でネガティブな次女。

そして、自由奔放で無鉄砲、道草の限りをつくして帰宅、ペットに犬がいるお宅ならば老若男女仲良くなって(昔の田舎は良かった)お菓子をもらい、親の知らぬところでご近所様のご家庭の子供や孫になり、他人様の家に上がり込み、可愛がられていた末っ子のわたし。

今思うとカツオみたいにずうずうしい。母親といる時にスーパーなどで声をかけられると、母は、ええと、誰だっけ?!と目を丸くしつつ、話の内容から多分またアレだな…という感じで「いつも娘が…」と一頻り挨拶しつつ、くるりと身をよじり、今度はどちら様にお邪魔してたの…という顔で訴えるが、〇〇のおばさん、などとペットの名前でしか覚えていない私の返答に、母はまたか、、もうなんもいえねぇという顔をするのだった。

生まれた時から家でも犬を飼っていた私は、生まれたばかりの子犬たちと一緒に、母犬(チビ・雑種)が心配そうに見守るなか、すくすくと育っていった。そんなわけで、犬が大好きなわたしは、ニュータウン中の犬全ての名前を覚えて、会うたびに挨拶をしていた。一体どこから来た自信なのか本当に分からないが、何故か犬たち愛され、犬全てが友達という自信があったので、この後におこる悲劇を思うとなんという愚か者だろうか…。

ある時母と近所のお宅に遊びに行った時、それは起こった。いつも遊んでいた大きい犬が、いつもの様に挨拶をしにいくと、突然わたしに飛びかかってきた。その時はあまり覚えていないが、飛びかかられたあと、母が絶叫した。

耳がちぎれていた。血が垂れてくる。痛くはなく、じーーーんとしていた。犬は甘噛みのつもりだったが、一年生の私の耳は柔らかく、犬歯がひっかかりざっくりもってかれたようだ。正確にいうと上半分が、言葉どうり耳の皮一枚で繋がり下に垂れていた。飼い主は泣いてパニックに、母はタクシーを呼び、私の耳をタオルで押さえ、冷静に病院へ直行した。7針縫う堂々たる大怪我だった。麻酔の注射を地球が割れるくらいの雄叫びをあげ拒否したので、先生は冷凍麻酔という噴射して麻酔をする手法を取らざるを得なかった。

頭は包帯でぐるぐる巻で、メロンみたいなネットを被せられ窮屈だったうえ、当時イチゴ柄のセーターを気に入って着てたわたしは、頭はメロン、体はイチゴ、という風貌から、いかにも小学校が付けるイチゴメロンとあだ名をもらった。なんか可愛い…と浮かれるわたしを他所目に、上級生の次女は、あの変な奴は妹ではございません、とばかりに小学校でわたしを避けたのだった。

とびかかった犬は、確かに尻尾を振ってくれていた、あれは甘噛みであり、単なる事故だ、という記憶の処理を施されているが、そのあとそのお宅には行ってないので、定かではない。


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