どろぼう

離婚を決意した時から精神的にも肉体的にも全てにおいて悲鳴を上げていたわたしを救ってくれたもの。それは同僚に誘われて、ふら〜っと行ったボクササイズだ。元々体を動かすのが好きで、ストレスでどうにかなりそうな感情を吐き出す場所を探し求めていた私は、瞬く間にハマり、気づけば週5で通い詰めて、約2年になる。

仕事の帰りと、休日と、いける限りどんな手を使っても行った。下の子が、ママいかないで!と泣き叫んでも、関係の冷めた彼女たちの父親に預けて通った。こんな事を書くと、さも私が冷酷みたいだが、2時間空けるだけですぐに帰宅する…。帰ってくると子供はケロッとしてテレビを観てお菓子を食べているのに、何故毎回泣くのか!!と、いつも崩れ落ちていた。勿論、彼女たちの中で、その時の夫婦仲で不安もあっただろうし、何か悪い事が起こっているという予想はついていたのだろう。

でも我慢して家にいられないくらい気が狂いそうだったし、自分の時間という物が欲しくて、その時間が大事だった。サンドバッグに打ち込み自分を追い込む事は、対極の言葉ではあるが癒しであり、何も考えないです済む瞑想の空間を作り出せていた。

ほどなく別居して、3人で住み出しても、私のジム通いは続いている。「なんでママはジムにいくの?どうしてそんなにいくの?」と下の子がなんでなんで責めをしてくるので、「ここにどろぼうがはいったら、やっつけるためだよ!」とムキムキになっている自分の上腕二頭筋や腹筋を見せながら、堂々と言い聞かせ続けた。でもさすがに2年も続けていると子供も、毎日の生活に馴染み、ママはジム通い、ジムが好き、が当たり前になってくるから頼もしい。なんでも継続は力なり、なのだ。

そしてある夜、それは起こった。寝かしつけをしている時、ふとんに潜ってくっ付いてきた5歳の下の子が、目を瞑りながら『まま、いつもお仕事頑張ってくれてありがとう♡』とポロリと口にした。最高の癒しの言葉をもらい、これまでの苦しく、傷つき、なりふり構わず突っ走ってきた道のりすべてが報われた気がして、思わず涙ぐみベソをかきそうになったわたしに、下の子は続けて『まま、どろぼうを倒すために、ジムに行ってくれてありがとう♡』。

純粋さに脳みそが衝撃を受け、頭のネジは全て吹き飛んだ。それはとてもとても長い様な短いような、意識を取り戻すのに数分はかかったのではないか。暗い部屋の中、言いようのない自責の念と、羞恥心が一気に身体を襲ってくる。視線を感じて、ハッ!!と顔を上げると、二段ベッドの手すりの隙間から、両手で口を押さえ、見たこともない細目で冷笑する長女の顔が私を見下ろしていた。

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