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『居酒屋の失敗』第七章「居抜き物件の売却」3.居抜きの売却・購入の極意


3.居抜きの売却・購入の極意

(1)売り手側の極意

①制約のある物件は借りるな

 最後にまとめ的に今回の痛い経験から居抜き売却、購入における極意を書いてみたい。
 まず、売り手側についてだが、売却云々の前に、物件を借りる際に「オーナーが普通じゃない物件、制約のある物件は絶対に借りるな!」である。自分の場合は異常なオーナーのお陰で、当初からあった短い営業時間の制約の上に、更に売却の際には、飲食可で和風居酒屋の内外装でありながら「和風の居酒屋以外」との異常な制約まで付いてしまった。内見も結局全部で10数件あったが、当然ほとんどが「和風の居酒屋」希望者。しかし、チェーンや多店舗展開している会社は、制約が付いている時点で即おりてしまう。

 そもそも物件に制約を付ける家主は、「大家が一番偉い!」と勘違いしているフシがあり、何でも自分の言う事が通るつもりでいる。また、不動産屋も本来はそういった家主をたしなめるべきなのだが、やはり最終的には大家には弱いため、借り手の説得に回る始末。
 借りる時から売ることを考えるのもどうかとは思いつつも、自らの失敗からここを一番声を大にして言っておきたい。とにかく偏屈なオーナーや制約のある物件は絶対に借りてはいけない。
 
 次に借りる際に「退去の際に居抜きで売って良いのか?」を確認しておくというのも意外に重要かと思う。借りる際に居抜きだったとしても、自分が退去する際も居抜きで良いとは限らない。もし居抜きはNGだと最初から分かっていれば投資額を抑える事などの対応も取れる。
 居抜きの売却は、苦境での撤退のみならず、成功して拡張移転という可能性もある訳だし、退去というのは、いつかは必ず行われる。OKが後にNGになる事も想定されるが、最初からNGであれば打つ手は色々考えられるのである。

②人脈を頼っての売却を目指せ

 売却の際は、まずは「人脈を頼っての売却」を目指すべきである。駆け引き的な要素も少なくなり、ぶっちゃけ話も出来るし、手数料も掛からないし、何より後々物件に対してのトラウマ的なモノがないというのが大きい。
 自分は、相手の後出しでの値引き交渉の一件から、相手に対しても、その後の物件に対しても、今でも非常に嫌悪感を持っている。物件を見るのもイヤなので以後物件の前を通った事がない。利便性のある通りにあるのに意識して避けているのである。

 知り合いに売れば当然そんな事はなく、場合によっては後々その店を利用する事だってあるだろう。くだらない事かも知れないが、店の失敗は他にも散々イヤな思いをしなければならないのだから、それが少しでも少ない方が良いのは言うまでもない事だろう。

③居抜き売却仲介業者の信頼性

 居抜き売却の仲介業者を実際に使ってみての印象は、かなりいい加減な業者も多く、正直なところあまり頼りにはならなかった。ただ、売れるまでは費用が一切掛からないので、下手な鉄砲的に複数業者を使うべきだろう。だが、過度な期待はくれぐれも禁物である。

④買い手との価格交渉は早期に

 自分は先述の通り、売却する直前になって相手から突如強引な値引き交渉に持ち込まれ、非常に苦労させられてしまった。この時は相手があまりに非常識だったのだが、価格交渉は売却においての最重要事項のため、期限を切るなど何かしらの手を打ち、早期に価格を確定させるべきである。

 あと、これは当然の事でもあるが、売却価格は、初めは高めに設定すべきである。値引き交渉はほぼ確実にされるので、売却仲介業者の査定額等も参考にしつつ、常識的な範囲内でなるべく高く設定を行う。

⑤仲介不動産とオーナーとの関係性

 最後に大事なのは、日ごろから仲介不動産屋とオーナーとは友好な関係を保っておく事だろう。自分は、残念ながらオーナー側とはそれほどではなかったが、不動産屋とは、とにかく親密な関係性を築くよう努力をした。これは、もちろん最初から居抜き売却のためというつもりでは無かったのだが、オーナー側が特殊だったので色々と橋渡しをしてもらいたかったという意図もあった。そして結果的にそれが吉と出た。

 居抜き物件の売却は賃貸借契約に縛られる面もあるが、結局はオーナーとの交渉で左右される部分が非常に大きい。とにかく苦しい事情を理解して頂き、出来るだけこちらの要望が通るよう交渉するというのが最重要事項なのである。

 そして、結果的に自分の場合は、仲介不動産経由で売却する事が出来たし、やはり居抜き売却仲介業者よりも断然安心感、信頼感がある。オーナーが問題なく居抜きで売って良いと判断してくれるのであれば、最初から解約通知を入れて「公開物件」として買い手を探すのもアリかと思う。

(2)買い手側の極意

①人脈を頼っての買い取り

 売り手と買い手は表裏一体的なところがあるので重なる部分もあるが、居抜き物件を取得したかったらまずは飲食業界の人脈からの買い取りを考えるべきだろう。この場合、常に物件がある訳では無いため、待ちの姿勢にはなってしまうが、良い物件が入手しやすいし、買い手としてもざっくばらんな交渉が出来るなどメリットが非常に多い。

②とにかく申し込みを入れる

 人脈ではなく仲介業者を介する場合、秘訣は「とにかく申し込みを入れろ」である。申し込みを入れなければ交渉権が得られないし、入れるのに費用は掛からないし、断る場合でも手間や費用が掛からないため、欲しいと思ったら即決で入れるべきである。
 また、申し込みを1件に絞る必要は全くない。売る方はその物件しかないが、買う方は売りに出ている物件全てが対象となるのである。ある程度探す条件に幅があるのであれば、条件に当てはまる物件には、とにかく申し込みを入れまくるのが得策と言うのは言うまでもないだろう。

③価格交渉は買い手のペースで

 これも売り手との表裏一体なのだが、申し込みさえ入れて通ってしまえば、後は買い手のペースでじっくり構えて牛歩の如く値引き交渉を強気にしていけば良いのである。
 はっきり言って居抜き物件の売買は買う側が圧倒的に有利である。売る側は「赤字」という出血を少しでも早く止めたいため、早期に売却したい場合が多く、交渉が長引き経費が出ていく事を考えれば、当然値引き交渉にも乗ってくる。そこをじらしながら交渉する事で益々有利となるのである。

(3)まとめ

 とにかく繰り返しだが、居抜き物件の売却は、「圧倒的に買い手が有利」だと肝に銘じておくべきである。よほどの引く手あまたの良い物件でない限り紛れもない事実である。特に自分のように資金面で経営が困難となって売却する場合は顕著である。売る方は赤字を少しでも減らすために必死であり、多少無理な条件でも飲まざるを得ない状況に陥りやすいからである。

 しかし、買い手の項で書いた事は、自らがやられて非常にイヤだった事を基に書いている。やられる側からしてみれば、いわば「死人に鞭打つ」的な状況に陥り「随分ヒドいな。そこまでやるか…」と思ったのが率直のところである。
 いくら買い手が有利だからと言って、人の弱みに付け込んで非人道的なやり方をするのはいかがなものか。その辺は是非節度を持って頂きたいと強くお願いしておきたい。

 最後に自分と同じように苦境の中、居抜き物件の売却で少しでも資金回収を試みている全ての人が幸せになれる事をお祈りしてこの項は終了としたい。

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