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『居酒屋の失敗』第八章「飲食店での脱サラ起業へのアドバイス」


第八章「飲食店での脱サラ起業へのアドバイス」

 これまで自らの失敗談をつらつらと書いてきた訳だが、繰り返しになるが、はっきり言えるのは「脱サラ起業自体は一切後悔していない」という事。起業直前の、新たな世界を切り開くための、自分自身の物凄い熱量を思えば間違いなくやらない方が後悔していただろう。
 但し、「もっと上手いやり方があったのでは…」という後悔は多々あるので、これから自分と同様に飲食店での脱サラ起業を考えている人達にそれを伝えたいと思う。

1.失敗した時の事を考えておく

 いきなりネガティブな内容で恐縮だが、失敗した人間からのアドバイスとしてまずこれを伝えたい。
 事業、商売である以上、必ず「失敗」というリスクもあるという事を最初にキッチリ認識しておく事。特に飲食店は、いくら自信をもって始めても上手く行かない事の方が間違いなく多く「俺だけは違う」などと絶対に思わない事。
 そして「資金がどれくらいまで減ったらやめ時か」を絶対に事前に決めておく事。やめる機会を逸してズルズルと続けて傷口を広げるのが一番良くない。「気づいたら手遅れだった」といった話は、世の中に五万とある。

 また、実際に上手く行かなかった際は軌道修正もやむなしと覚悟しておく事。いくら自分で自信がある事でもお客に認められなければ単なるマスターベーションに過ぎない。現実をしっかりと受け止め、客観的に営業形態やメニューなど問題のある部分を見直すといった手を早めに打てるようにしておくべきである。

 以上の事をポジティブにとらえれば「失敗なんて当たり前」と考えておく事で、失敗に直面してもメンタル的なダメージが減り、冷静に対処出来るようになる。体験しなければ分からないと思うが、少なくとも自分は、自信満々の店でありながら想定よりかなり低い売上だった際に、これまでの人生で最もメンタル的にダメージを受けてしまった。
 自信が無ければそもそも起業などすべきではないが、自分を過信し過ぎるのも非常に危うい。失敗の覚悟を持つ事で自信とのバランスを上手く取る方が良いという事である。

2.初めから大きくやらない

 総論的な話なのだが、これが自分自身の最大の失敗だったと今でも思っている。計画の規模が大きすぎたために家賃、人件費、更には借入金の返済と、「月々出て行く費用が莫大な金額になってしまった」というのが超絶的な負担となってしまい、一切の余裕が無くなってしまったのである。

 「事業が失敗する」という事は、「赤字」が続き「事業資金が無くなる」という事である。「費用が多額」という事は、「赤字の要因」を作っているのと同じ事であり、実際に赤字であれば常に「大量出血」し続けているようなものである。素人からの起業では、絶対に避けるべきである。

 最悪のケースで廃業となる場合も、物件が大きいとそれだけ撤退費も大きくなり、死人がムチを打たれるような状態になってしまう。以下に各論を書いていくが、まずは、これを肝に銘じて欲しいと思う。

3.スタートはミニマムの規模で

 前項の言い換えみたいなものだが、とにかくスタートは出来るだけ最小限の規模にすべきである。可能であれば「自分一人で回せる規模」からスタートすべき。もしある程度の規模でやりたいとしてもグッと我慢し、まずはミニマムな規模からスタートし、「軌道に乗ってから拡張する」という順序とするべきである。

 とにかく「費用を徹底的に少なくする」というのが鉄則中の鉄則で、思うような売上が上げられなくても、金銭的にも精神的にも余禄、余力が残り、リカバリーに動く事も出来るのである。
 当然物件も出来るだけ「居抜き」を探し、初期投資も出来る限り抑える。もし資金的にかなり余裕があったとしても、まずはミニマムな規模からスタートし、十分な運転資金を確保しておくべきである。

 固定店舗にこだわらず、「キッチンカー」から始めるのも視野に入れるべきである。初期投資額が低い、家賃等固定費が掛からないなど固定店舗と比べて圧倒的にメリットが多い。営業許可を取るのもそれほどハードルが高くないため、中古の軽バンを購入して自ら改造すれば初期投資が更に抑えられる。
 いきなり脱サラとせずに週末のイベント出店で腕試しするという事も出来るし、自信が付いたらそのままキッチンカーを生業とするのも選択肢として考えておくべきである。

4.利益は出ないものと考える

 事業である以上、本来は利益が出る前提でなければおかしいのだが、最初から利益をあてにしたり、過度に期待したりしては絶対にいけない。
 もちろん必要経費プラス自分の人件費(生活費)、すなわち「損益分岐点」は達成する計画としないとやる意味が無いが、開業当初はなんとかそこまで持って行き、事業を赤字なしで持続させるのが目標で、利益は「宝くじで当たった」くらいの気で取り組むべきである。
 
 一般的に事業計画書では、売上を算出する際、店舗面積に15万円/月坪という係数を掛け、それで利益が売上の10%出るとするが、それはあくまで机上論である。「売上は0から積み上げるもの」であり「売上は0もありうる」と強く認識すべきである。「売上なんてあるのが当たり前」「これくらいは売れるだろう」などと安易に考えるのは絶対にやめた方が良い。

5.借入は最小限で

 これは前項の「利益」と関連してくるのだが、とにかく借り入れは少なくすべきである。資金的に余裕があるのであれば、起業時には借入せず、軌道に乗ってから規模を拡張する際にすべきである。
 借入金の返済というのは、利息分しか費用として認められないため、利益から返済する事になる。しかし、最初から利益自体が出るかも分からない中で、そこから返済というのは、ある意味無謀だとも言える。全て自己資金でというのは中々難しいと思うが、借入は、本当に出来る限り最小限にとどめるべきである。

6.最初は個人事業主で

 起業する際は、最初から法人(会社)にせず、個人事業主にした方が絶対に良い。トータルで見ると法人の方が税制上メリットがあるように見えるが、それはしっかりと利益が出る健全な経営の場合である。
 個人事業主は、毎年必ず掛かる法人住民税(立川は最低でも均等割りで市に5万、東京都に2万の計7万)も無いし、消費税も3年間は免除される。最悪、廃業の場合でも法人は解散するのも出費含めて負担が大きくなる。法人化は3年後からでも全く問題ない。

7.会計・税務関係はクラウドサービスで

 事業を行うとなると個人、法人問わず会計・税務関係の処理もしなければならないが、知識が無い、忙しくて経理まで手が回らない等の場合、アウトソーシングせざるを得なくなる。しかし、税理士に頼むと安くても月3万程度は掛かるため、まずはクラウドサービスの利用をお勧めしたい。
 使い方は、一度覚えればそれほど難しくないし、最低限の機能であれば月に1万掛からない。個人事業の規模であればそれで十分である。

8.起業は背負うものが小さくなってから

 人間それぞれ「背負うもの」がある。自分の場合は、子供が小学生で嫁もパート程度だったので、教育費や家族の生活費は自分で稼ぐ必要があった。更には家のローンもあった。という事は、事業以外での出費も当然大きい訳で、自分の人件費もそれだけ大きく必要という事になる。
 しかし、子供が社会に出る、家のローンを完済するなどのタイミングまで待つ事によって必要経費を減らし、より事業へ打ち込みやすい環境を作るべきである。
 最悪、廃業する場合でも背負うものが大きければ悩み事もその分大きくなり、自分を苦しめるだけになってしまう。早く起業したい気持ちを出来る限り抑え、少しでも背負うものが小さくなるまで待つべきである。

9.パートナーは別の仕事を持つ方が良い

 起業の際、結婚していれば「事業をパートナーに手伝ってもらう」というのも人件費等を考えると有用な選択肢となるし、実際にそうしている人も多いかと思う。しかし、その場合、失敗すると2人とも失職となってしまい、リカバリーが効かなくなってしまう事になる。
 繰り返しになるが、最初は事業規模をミニマムとして出来れば自分一人で回せるようにし、更に理想を言えばパートナーがきちんと正規雇用等で、最悪そちらの収入だけでもなんとかやっていけるという状態が望ましいと言える。

10.ある程度の期間は修行する

 飲食店経験が無かったり浅かったりする場合、どんなに料理の腕に覚えのある人であっても、開業前には、ある程度の期間は必ずどこかの店で修業すべきである。基本的に家庭と飲食店の調理は全くの別物である。とにかく飲食店では、「いかに手際良く出来るだけ質を落とさず商品を提供出来るか」に掛かっているため、効率的な調理方法を必ず体感すべきである。
 また、当然だが、調理以外の店の運営に関する事も学べるし、給料まで貰える。

 あと、意外に重要なのが、「飲食業のペースに慣れる」という事。業種にもよるが、ある意味サラリーマンとは全く違う生活ペースとなるため、まずそれに心身とも馴染ませる必要がある。デスクワークがメインだった場合、想像以上の大変さに驚く事となるだろう。

11.修行が出来なければ料理人を雇う

 もしなんらかの理由で修行が出来ないのであれば、必ず調理が出来る人間をバイトでも良いので雇うべきである。「初めはミニマムで」という主旨には反する事になってしまうが、「商品」と呼べるレベルのものが提供できなければそもそも商売として成立しなくなってしまう。
 料理人を雇い、ノウハウを吸収させてもらってから自分が調理をやるという方法も取れる。とにかく「商品」が不完全では「商売」は覚束ないと言うのは、当然の事なのである。

12.立地は少しでも良いところで

 立地は、飲食店にとってかなり重要な要素である。もちろん「路地裏の名店」というのも存在するが、そんな事が出来るのは「神」ぐらいに思っておいた方が良い。とにかく「常に店の前に人が通る」という事を重要視し、まずは、その通行人を客として呼び込む事を考えるべきである。
 いくら素晴らしい事をやっていたところで、「名店」になる前に潰れたら元も子もない。路地裏で店をやりたければ、起業から軌道に乗せて事業を拡張する時にやっても遅くは無い。

13.制約の多い物件は見送る

 くどいようだが、家主からの制約がやたらと多い物件は絶対に見送るべきである。営業を開始してから制約が増える場合もあるし、最悪撤退、居抜き売却となった際にも買い手に敬遠されるなどの悪影響が出る事も十分ありうる。そういう物件に出会ったらどんなに良く見えても「面倒な家主だと事前に分かってラッキー」くらいに割り切ってスパッっと諦めるべきである。

14.グルメサイトの利用は「食べログ」だけで十分

 現代においてネットで宣伝広告を行わない事は、ある意味考えられないくらいだが、それほど大きな店で無ければSNSだけでも十分だし、もしグルメサイトも利用するのであれば、「食べログ」だけで十分である。「ぐるなび」「ホットペッパー」「食べログ」を比較すると、無料で店から発信出来る情報量が最も多いのは、「食べログ」である。開業時に自分で登録すれば編集が自らで出来る。
 もちろん「評価が低いとイメージが悪い」というネガティブな面もあるが、最近の「食べログ」を見ていると以前ほど評価点の差もないようだし、無料と考えれば割り切れる程度である。

 基本的に「ぐるなび」「ホットペッパー」は、積極的に団体の宴会を取らなければ回らない、ある程度規模の大きな店用であり、その分、利用料も高額である。ミニマムな店では、そんな事に無駄に費用を掛ける必要は全く無いのである。

15.まとめ

 アドバイスのまとめだが、結局のところ一番伝えたいのは、「売上(収入)が多い計画よりも費用(支出)が出来る限り少ない計画を」という事である。
 くどいようだが、「売上」と言うのは、あって当たり前ではない。特に飲食店の場合、世間にあまたある店の中からお客に何かしらの魅力を感じて頂き店まで来てもらい、そこでやっと生まれるものである。「0」の日だってあるし、様々な要因から信じられないくらい低い月だってある。

 とにかく手持ち資金をなるべく減らさないよう、少しでも長く続けられるように考えるべきである。半年売上が無くても大丈夫なくらいの計画とし、「成功する(利益がたくさん出る)」の前に「失敗しない(赤字を出さない)」事を優先的に考えるべきである。
 
 以上が「飲食店での脱サラ起業」への自分からのアドバイスである。ある意味、当たり前の事ばかりでもあるのだが、実際に失敗して大金を失った人間がその苦しい体験から発しているリアリティのある言葉だと思って頂ければ幸いである。業態やメニュー等については敢えてあまり触れていないが、ここに挙げたものは、それ以前に肝に銘じておく事項だとご理解頂ければと思う。

 最後に、飲食店の起業は本当に楽しいし、その気があるのであれば是非とも思い切った決断をし、第一歩を踏み出して欲しいと思う。そして一人でも多く自分のような大失敗をやらかす人が出ないよう、心より祈らせて頂きたい。
 自分もこれだけの失敗をしながら、懲りずにいつか居酒屋を再開業すべく日々妄想しているところである。自らの失敗談を踏み台に今度こそは成功させ、人生の集大成としたいと思いつつ、本編は終了としたい。

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