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「一生のうちでいちばん大事・・・

 「一生のうちでいちばん大事なことは職業の選択である。ところが、偶然がそれを左右する」

 『職業とは何か』(梅澤正著:講談社現代新書)からの引用

 『職業とは何か』(梅澤正著:講談社現代新書)からの孫引きですが、パスカルは、その著書『パンセ』でそう述べているそうです。パスカルは17世紀の学者。日本で云えば江戸時代の前期。そんな昔からキャリア選択における偶然性の重みを指摘していた人がいたんですね。

 ところで、現代のキャリア理論の研究家にもキャリアの偶然性に着目した人がいます。ジョン・D・クランボルツ(John D. Krumboltz)という教育心理学者で、「計画された偶然理論(Planned Happenstance Theory)」が有名です。

 計画偶然という相反するワードが結合したこの表現自体に興味をそそられます。もう、8年くらい前になりますが、わたしがキャリアコンサルタントの勉強をしていた折に、一番に惹かれたキャリアに関する理論でした。そのときのクラスでも一番人気があったような記憶があります。

 クランボルツによれば、人のキャリアの8割は偶然から作られると云います。とすれば、人生のほとんどは偶然・・・。では、人は、その偶然に身を任せて生きていくしかないのでしょうか。

キャリアは偶然!?

 いやいや、幸運は偶然などではない。幸運を掴んだ人はそうした偶然を機会(チャンス)に変えたのだ、そして、そのために、その人たち自身が、実に重要な役回りを果たしていた、とクランボルツは云うのです。巷でよく耳にする話のようではありますが、クランボルツは、ビジネスパーソンへの調査結果を分析してこう導き出しました。

 キャリアコンサルタントの勉強をしていた折に使っていたテキスト(日本マンパワー社)には、クランボルツの挙げた、いわゆるチャンスをつかむための以下の5つの行動特性が示されています。

①好奇心(Curiosity):新しい学びの機会を模索せよ
②持続性(Persistence):失敗に負けずに努力し続けよ
③柔軟性(Flexibility):姿勢や状況を変えよ
④楽観性(Optimism):新しい機会は必ずやってきて、それを自分のものにすることができると考えよ
⑤冒険心(Risk-taking):結果がどうなるか見えない場合でも行動を起こせ

 独立して2~3年の当時のわたしには、とても腑に落ちる指摘でした。

 ただ、わたしがこの理論で一番着目したいのが ”planned(計画された)“ という言葉。この言葉には常に敏感でありたいと思っています。

 偶然を少しでもコントロールするためには、わたしは、とりもなおさず、展望とそれに向かっての計画が欠かせないと考えるからです。

 その上で・・・・・。

 実行段階では、一度立てたからといって計画に固執することなく、その場に巡り合わせた機会に好奇心を持って向き合い、場合によっては、思い切って計画を見直すことも必要な場合もあるでしょう。その結果、たとえ失敗しても、くよくよせず、あきらめずにこれを学習の糧として新たに前へ前へと進んでいく。

 とはいえ、その場合であっても、ただ闇雲に突っ走るのではなく、すべて展望と計画を持ってのこと。展望と計画があるから一貫性が保て、生き方に信頼感が増すのだと思います。

 こう書いていて、今、思い出しのが、リーダーシップ研究の第一人者である金井壽宏先生の唱える「キャリア・ドリフト」という言葉。偶然性を活かすには、あまり計画をがちがちに立て過ぎずるのもいかがなものか。要所々々で計画を立てつつもときにはドリフトすることも大切であるという。はい、これにわたしも同感です。

 とすれば、展望「ある程度の」計画と云ったところでしょうか。

 初めて「計画された偶然理論(Planned Happenstance Theory)」を知った時、わたしには、ここで使われている”planned(計画された)“と云う言葉が少々掴みづらかったものですが、今ではそう解釈しています。

※ ご興味がある方は・・・

クランボルツ+レヴィン著(花田光世+大木紀子+ 宮地夕紀子訳)『その幸運は偶然ではないんです!(Luck is No Accident)』(ダイヤモンド社)や金井壽宏著『働く人のためのキャリアデザイン』(PHP新書)にお目を通されたらいかがでしょうか。


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