2021シーズンレビューのようなもの~ファジアーノ岡山2021シーズン振り返り企画~

 昨シーズン、J3リーグへの降格がなかった影響から降格枠が4チームとなってしまい、相当に過酷な戦いが予想された2021シーズン。そんなシーズンを残留争いにほとんど巻き込まれることなく乗り切ることができ、来シーズンもJ2リーグのステージで戦うことができるということにまずは心からの安堵をするばかりです。

 そして何より、2020シーズン同様に感染症禍が続く中で、引き続き制限を付けられた観客動員など経営的にも相当に難しい舵取りを迫られた局面が数多くあったと予想されましたが、そんな中でも目に見えるような大きなトラブルが無くシーズンを終えることができたことに最大限の感謝を述べたいと思います。

 2019シーズンから3シーズンにわたる有馬賢二監督による体制が終わりを告げることになった今シーズン、まさに有馬監督による体制の集大成がピッチで見られることとなったシーズンだったように思うのですが、そんなシーズンについていろいろと振り返っていこうというのがこの記事の趣旨です。

2021シーズンの基本情報、成績について

 例によってFootball Labさんからの記事を貼らせていただくが、本当に様々なデータが出てくるので、こちらの記事も是非とも参考にしてもらえたらと思う。基本システムは2019シーズンから変わらない4-4-2システム。シーズン序盤は2列目を明確に3枚に設定した4-2-3-1にもトライしていたが、運用自体は4-4-2と大きく変わることはなかったように思う。運用については後述。

 成績としては、15勝14分13敗勝ち点5911位。22チームの現行体制になった2012シーズン以降でのワーストの数字を軒並み更新してしまった昨シーズンに比べて主な数字は改善された。得点数40というのはシーズンワーストの39点から1点しか上回っていないものの、失点数36はシーズンワースト記録を更新してしまった昨シーズンの49から大幅に改善された。

2021シーズンは何をしようとしたのか

◎ビルドアップについて

 最初から最終ラインの選手がダイレクトに前線に蹴って、そのボールをそのまま前線の選手が収めたり、セカンドボールを回収したりするのを狙うというよりは、CB-CH間でのボール保持を起点に相手守備の第一ライン(⇒前線からのプレッシャー)を外していくことを第一優先にしているようであった。まず相手の第一ラインの守備を外すことで、第二ライン以降の守備に後手の対応を余儀なくさせるのが目的となっていた(⇒第一ラインでプレッシャーを外された分、第二ラインの選手がプレッシャーに行くか行かないかの対応を迫られる、結果としてそれ以降のラインで守る選手もその動きに合わせて後手で動かないといけないため)。

 このようにして相手の第一ラインからの守備を外す形を作ることができれば、そこから前線の4枚の選手(今シーズンの岡山でいうと主にFW起用の2枚とSH起用の2枚)に縦パスとなるボールを入れていく。この時の最優先は、前線の4枚の誰かが相手の最終ラインの背後を取って、そこにボールを出すことである。

 具体的な形で言うと、CBの2枚(主に井上と安部)がボールを保持するところからスタート。2枚のCH(喜山、パウリーニョ、白井あたり)と相手の第一ラインを挟むようにしてスクエアを組む形を基本型として、CHの1枚が最終ラインに列を下りてもう1枚のCHが相手の第一ラインの背後に立つポジションを取る動き(⇒相手の第一ラインが2枚、かつかなり強めにプレッシャーをかけてくる場合)を起こしながらボールを動かしていくようにする。この時、最後尾でのボールの逃がしどころとしてGK(主に梅田が起用された時)へのバックパス、そこから再度CBにボールを付けてやり直す形も多く見られていた。

 CB-CH間だけでのボール保持で相手の第一ラインの守備を外すことができた場合(⇒ここでの相手の守備を外すは、前を向いてプレーできる状態を作ることができた時)、そのままCBやCHから前線の4枚への縦パスを狙っていく。それができれば一番良い訳で、とりわけ安部や喜山のところで相手の守備を外すことができた時には質の高い縦パスを通す形(⇒相手のライン間を通したパス)を作ることができていた。

 実際には相手もCB-CH間でのボール保持で前を向かれる形を作られること、中央~内側のエリアで縦パスを出されることには相当警戒するので、岡山にとって主なビルドアップの出口となっていたのが大外のエリアにポジショニングするSB(左は宮崎智か徳元、右は河野)であった。SBのポジショニングは、やや低めのCHと同じ高さを取ることが多かった。GKへのバックパスを使いながらCB-CH間でボールを動かして相手の第一ラインからのプレッシャーを引き付けて大外のSBに展開、相手が大外の選手にかけるプレッシャーが遅れたところで、SBから前線の4枚に縦パスを通す形を狙っていく展開が多く見られていた。

◎ビルドアップからの展開、敵陣に入っての攻撃について

 このようにビルドアップで相手の第一ラインからの守備を外すことができた時の岡山は、前述のように前線の4枚に対して縦パスを通す形、最優先は相手の最終ラインの背後を取ってそこにダイレクトにボールを入れる形を狙っていくようにしていた。

 前線の4枚の基本的なポジショニングについては、SHの2枚が内側のエリアにポジションを取り、2枚のFWのうち1枚が下がり目のポジションを取って、もう1枚のFWが最前線で相手最終ラインの背後をうかがうようなポジションを取るようにしていた。前線の4枚のうち3枚が相手の最終ラインの手前の内側~中央のエリアで後方からの縦パスを受けようとして、残り1枚が相手の最終ラインの背後を狙おうとするのが今シーズンの基本的な形と言って良いだろう。そのため4-4-2と言っても、ボールを持った時の基本的なポジショニングから見ると4-2-2-2となることが多く、そこからの動きは最前線に1枚のFW、2列目に3枚のシャドーを置いたような動きになる。

 この前線の4枚の動きで重要になってくるのが4枚のうち誰かが相手の最終ラインの背後を取ろうとするオフボールの動き、最終ラインとの駆け引きを入れること。主に最前線にいる選手(デューク、イヨンジェ、山本、齊藤)が担当するのだが、この動きがなくて4枚が4枚とも縦パスを受けようとする動きになってしまうと、相手の最終ラインとその前のラインを縦横に広げることができずに後方の選手も前に出す形を作れなくなってしまう。そしてSHの選手がボールを引き出そうとするあまりに低すぎるポジションを取らないようにすることも重要な要素。前線の4枚が相手の最終ライン付近で、それぞれ近い距離で動く形を作れないと、効果的に相手の背後を取る形を作ることが難しくなるということである。

 このように前線の4枚に縦パスとなるボールが入る形を作れると、そこからの敵陣に入っての攻撃は基本的にボールサイドの大外~中央のエリアでの3レーンによる攻撃となる。ボールサイドのSBが高い位置を取って、前線の4枚とCHの上がりを絡めながら大外~内側のエリアでのパス交換で敵陣深くに侵入していこうとするのだが、敵陣深くのラスト1/3のエリアで狙っていたのはペナ角から中央に入っていく形と、ポケットと呼ばれるエリアにボールを入れての折り返し。大外からクロスを上げる時は大外の深い位置を取るのではなく、ペナ角の高さの位置から上げようとする形が多かった。

◎4-4-2による守備について(敵陣からのプレッシャー)

 まずは相手の最終ラインから始まるビルドアップに対する守備について。基本的には敵陣の高い位置で第一ラインの2枚からプレッシャーをかけに行こうとしていた。また最終ラインを3枚にしてビルドアップしてくるチームに対しては、ボールサイドのSHを上げて、自分たちと相手との枚数を噛み合わせてプレッシャーをかけに行くようにしていた。ここで重要なのが、第一ラインの選手が自分の背後の選手へのパスコースを消しながら(=カバーシャドー)プレッシャーに向かうこと。最終ラインからのボール出しがそこまで優れていなかったりする場合は、第一ラインの選手を1枚下ろすようにしてより相手の中盤(CHの選手)へのマークを強める守り方をすることもあった。

 2枚ないしは3枚による第一ラインからのプレッシャーが上手くかかったら、第二ライン(中盤)以降の選手がそれに連動する形でプレッシャーの第二波、第三波をかけに行く。岡山は基本的に第一ラインからのプレッシャーは相手のボールの動きをサイドに追い込む形になっているので、中盤がボールサイドに横スライド、ボールサイドのSBがポジションを上げて縦スライドすることでプレッシャーを連動させる。加えて最初にプレッシャーをかけた第一ラインの選手がプレスバックすることで、相手のボールの逃がしどころを限定させるようにしていた。

 ここまでの第一ライン~第二ライン+SBによるプレッシャーが上手くかかった状態を作ることができれば、相手のボールの動きはかなり苦し紛れにボールを前に出さないと行けない状態になるので、そのボールに対して余った最終ラインの選手(⇒第一ラインからコンパクトに高いラインを保っている状態)がプレッシャーをかけることでボールを回収する形を作ることができるということである。その場合はCBもかなりサイドまで出てボールを回収しに向かう、相手選手のマークに向かうようにしていた。

◎4-4-2による守備について自陣でのブロック守備)

 自分たちのコンディションの問題だったり、相手との力関係だったりで敵陣の高い位置からプレッシャーをかけに行くのが難しい場合、また第一ラインからのプレッシャーを外されてしまった場合はすぐさま4-4-2のブロックをセットして守る形を取る。当然内側~中央を塞ぐことを最優先に、第一ラインの高さはセンターサークルの頂点をスタートにすることが多かった。

 自陣での守備で肝心なのが、ズルズルと自陣のペナ内に侵入されないようにすること。そのためにも自陣のどのエリアでプレッシャーをかけるかの設定をする必要があるのだが、基本的には中央のスペースを4-4-2のブロック全体で塞いで相手のボールの動きを迂回させて、サイドに出たボールに対して相手のボールホルダーにボールサイドのSHとSBでプレッシャーをかけて、全体をボールサイド~中央にスライドさせて守るやり方を取るようにしていた。

 自陣深く、ペナ付近での守備に関しては、最終ラインの選手はペナ幅の広さで常にペナ内に入ったボールにマークに向かえるようにして、サイドに出たボールに対してはSHの選手が低い位置を取ってブロックに入ろうとする形が多かった。

 ここまで今シーズンのやり方を大まかに振り返ってみたが、自分たちがボールを持つ時、持たない時に関わらず、現代的な形での4-4-2の極めて基本的、ベーシックな運用方法でとにかく練度と強度を愚直に高めていこうとしていたと言える。

2021シーズンの良かったこと

シーズンの後半、終盤にかけてのチーム力の向上

 これまでのシーズンでのファジアーノ岡山は、シーズンの後半戦から終盤戦にかけて勝ち点が伸びないどころか試合内容自体が低調に、尻すぼみになってしまうことがほとんどであったのだが、今シーズンはむしろシーズンが進んでいくにつれて安定した試合内容で勝ち点を積み上げることに成功した。ラスト10試合の成績に関しては6勝3分1敗の勝ち点21。J1リーグの自動昇格に必要とされる1試合平均の勝ち点2以上をクリアする数字であった。

 要素として大きかったのは、シーズン途中で加入した選手たち(宮崎智、安部、石毛、デューク)が軒並み機能したことでシンプルに選手たちのクオリティが向上したことが一つ。これに加えて非常に大きかったのが、GKの梅田から前線のデュークまで、後半戦になってからセンターラインの選手の質、強度を安定させることができていたということである。

 攻守両面でベーシックな運用をする4-4-2で戦っていくとなると、やはりセンターライン、特にCB-CHの選手たちの質と強度の高さはどうしても問われることとなる。今シーズンの後半戦の岡山は、この部分においてCBの井上と安部、CHのパウリーニョと喜山(白井)がボール保持やボール出しの攻撃面でも、ボール奪取やフィルター、ブロックといった守備面でも非常に高いレベルで安定していたことが大きかった。そこに加えて現役オーストラリア代表、サッカールーズであるデュークと下がり目の前線というポジションを掴んだ上門の2トップが固定されたことで、縦パスを受ける形、相手の最終ラインの背後を取る動き、第一ラインからのプレッシャーと全ての質を向上させることに成功した。

 更にトドメとして大きかったのが、SHで起用された石毛の存在。石毛の豊富なプレーアイデアとそれを可能にする右足のスキルによって、それまで岡山の攻撃面においてどうしても不足していたSHからの攻撃力というラストピースが完全にハマったと言って良かった。

チームとしての形、戦い方を方向づけた若い選手たちの奮戦

 確かに今シーズンの岡山はいつものように続発した負傷者の多さもあって序盤戦で非常に苦労した。しかし、前述した攻守の構造で十分に戦える内容を示したのはそんな負傷者たちの穴を埋めようと奮戦した若い選手たちであった。定まらなかった前線において川本が、決め手に欠けていたSHにおいて木村が、特に負傷者が目立ったCHとCBにおいてそれぞれ疋田と阿部が有馬監督の定めた戦い方を愚直にやろうとしていた印象が非常に強く残っている。

 今挙げた選手のうち、木村はシーズンの最後までアタッカーとしてのジョーカー役で機能したが、残りの選手たちは尻すぼみにフェードアウトしてしまうことになる。川本は最前線での起点役としてのポストプレーの質と背後への動きの精度が足らず、疋田は中盤での守備力とボール出しに課題を残し、阿部もビルドアップのムラと守備における縦に行く時と行かない時の判断で粗を見せてしまった。

 それでも、この若い選手たちが粗を見せながらも進めていった序盤戦の試合内容こそが後半戦、終盤戦での成績に繋がったと言って良い。ホームで連敗した水戸戦と町田戦、アウェイの大宮戦の引き分けの後に4失点を喫して破れたアウェイの千葉戦と、勝ち点としてはわずかに1しか得ることができなかったものの、それでも試合全体の内容、攻守全体の大まかな構造としては今シーズンのアウトラインがこの時期に定まったのではないかと個人的には思っている。

2021シーズンの良くなかったこと

◎安定した後方でのボール出しに比しての縦パスの精度

 梅田へのバックパスを絡めながらのCB-CH間でのボール保持を中心に、SBをビルドアップの出口にする後方でのボール出しはシーズンが進むにつれて安定していった。特にSBの宮崎智と河野の、ビルドアップの出口としてのボールの逃がし方だったり相手を引き付けるポジショニングだったりは非常に見応えがあった。

 しかしそれに比して、相手の第一ラインを外してからの展開やボールの運び方に関しては、前線の4枚のやや無理矢理な打開に依るところが多くなってしまっており、シーズンを通して縦パスを通して敵陣からスムーズに運ぶ精度はなかなか高まらなかったと言える。

 そうなってしまった理由として大きかったと思われるのが、相手の第一ラインを外してからの展開として、相手の第二ライン(中盤のライン)を動かす形に乏しかった点が挙げられる。どうしても相手の第一ラインを外したら早い段階で縦パスを前線の4枚に通そうとする、背後を狙おうとする形を多くしていたので、相手の第二ラインを引き付けて中盤の背後でスペースを作ることが難しくなってしまっていた。

 そのため後方でのボール出しが上手く行って縦にボールを入れることができても、そこからの展開は石毛や上門あたりが無理矢理剥がすか、デュークが収めてそこから自ら馬力を使って陣地を進めていくかという、折角の後方でのボール出しがあまり意味の無い展開になってしまうことが多くなっていた。ボールを相手に持たせて、そこから回収してのカウンター気味の攻撃が上手く行き、ブロックをセットされてからの攻めが見栄えとしても良くなかったのはこの部分が大きいと言えるだろう。

◎最後までなかなか整理されなかったペナ内への人の入り方

 上で挙げた部分にも絡んでくるのだが、どうしてもボールを敵陣に運んでいく形が力業に頼るところが多い分、それに合わせてかペナ内への侵入方法も、人数はいるがあまり効果的でない人数のかけ方になってしまっていることがシーズンを通して多かったと言える。例えば大外からのクロスボールに対して、ニアサイド、ファーサイド、中央と人数はいるが、ボールへの入り方やタイミングが全部同じになってしまっているケースであったり、3人4人とペナ内に入る人数は十分だが入るエリアが被ってしまっているケースであったりがそうである。

 ただそれでも、シーズンの終盤にかけてはその部分が改善されているケースもいくつか見られていた。代表的だったのがホームでの山形戦での石毛の得点シーン。折り返しに対してタイミングをずらして入ることで、最後に詰めた石毛がフリーになる形を作ることができていた。カウンター気味の攻撃からの人数のかけ方といい、個人のクオリティに頼りすぎない意味でも非常に質の高い得点だったと言える。

2021シーズンのベストイレブン

システム:4-4-2(4-4-1-1)

GK:梅田透吾
⇒パフォーマンス自体は今シーズンのJ2リーグNo.1

左SB:宮崎智彦
⇒ビルドアップの出口としての貢献度の高さ

CB:安部崇士
⇒縦パスとコンドゥクシオンは流石の徳島仕込み

CB:井上黎生人
⇒シュートブロックの鬼、個人的なシーズンMVPはこの人

右SB:河野諒祐
⇒シーズン通しての伸び率No.1、攻守で安定感が増した

CH:パウリーニョ
⇒中盤でのプレス魔人、これが見たかったパウリーニョ

CH:喜山康平
⇒しっかりと中盤で整え、攻守で時間をコントロールできる人

左SH:徳元悠平
⇒内側でのプレーで新境地開拓か、背後への動き出し鋭い

右SH:石毛秀樹
⇒アイデアとスキル、有馬体制のラストピースとなった人

下がり目FW:上門知樹
⇒抜け出しとプレスを仕込まれたシューター、J2屈指の総合型FW

最前線:ミッチェルデューク
⇒現役サッカールーズの質の高さ、アウェイでしか点取らないマン

最後に~有馬賢二さんによせて~

 有馬賢二さん、ファジアーノ岡山の監督として3年間本当にありがとうございました。気持ちだ、走力だ、に傾きすぎていたところにあなたによって現代的なサッカーのベーシックな部分を仕込まれたチームは、紆余曲折ありながらも確かなクオリティのあるチームになりました。後任の木山孝之監督はあなたの作ったこのベースを維持して、更に良いチームを作ってくれるであろうと信じています。

 どうか先にJ1のステージで待っていてください。私たちも必ずそこに追い付きます。





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